6.大穴リバウンド【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
光を一切通さない、漆黒に染まる空間。
地図で見ればスポイトで塗りつぶされたように、肉眼で見れば地表にブラックホールが出現したかのように巨大な跡地が口を広げる。
それこそが、大穴。
「罠も、戦争の産物で…俺らの世界だと未処理の地雷踏んだようなもんか」
更にその手前。
陽太郎が視線を飛ばす先――開けた台地には、大穴を挟むように築かれた二つの陣営。
もはや集落と言って差し支えない規模。
大きく距離を隔てた、帝国と連邦による戦線だ。
「エグっ、したらめちゃ喧嘩のど真ん中じゃん」
「やっぱあの姉ちゃん居ないと…地図だけじゃダメだな」
行き掛けではヒテンジにより避けられていた。
一方で帰りは地理に疎い二人なばかりに、戦線に近いルートを辿ってしまっていたらしい。
……
…
戦争と聞いて、思い浮かべる情景は何か?
猛る人々の怒号。ヒュンと飛んでいく矢の音に、劈く剣の音。
彩る業火と、混じる血の匂い。数えきれない屍。
これすらも雑多で揉み消し、踏み潰していく行進。
まさに地獄絵図と呼ぶに相応しい景色だ。
…
……
「――けど意外と大人しいってか、ほんとに喧嘩してんの?」
「表立っての抗争は無し…冷戦ってやつなのか?」
緊張の糸は張り詰めるも、どちらかと言えば砦を構え、大穴への抜け駆けを互いに監視する動きが活発。
駐屯兵は千を超える。
しかし実態は、想像よりも静かで穏やか。
遠巻きに眺める二人には、軽口を交わす余裕すらあった。
「てか願い叶えるだけじゃないんだ大穴って。宝石も喧嘩の原因だったりする?」
「むしろ魔鉱晶がメインっぽい、願いを叶えるのも鉱石の力らしいぞ」
「マッ!?」
渡された破片をぞんざいに指で弾いていた沙多。
だがしれっと聞いた一言。途端に大事に扱い出した。
「大穴ではもっとデカい魔鉱晶が採れて、異質な魔力が籠っているって本にあったな」
「へー、じゃあ小っちゃいこれも集めまくれば願い叶う?もう帰れる!?」
「流石にそんな簡単な話だったら争う意味ないだろ」
残念と肩を落とす沙多。
「じゃ今日中は無理か~」と、帰還の目途は"数日以内"に戻る。
――だが魔鉱晶の特性には、ある覚えがあった。
(てかこれ、ベルの…)
透明な、だが少し濁ったような、既視感のある輝き。
直感のままインベントリから取り出すのは、片手に余る大きさの水晶。
悪魔の根源である魔力だ。
「明野、それ…魔鉱晶か?随分と質が良さそうだが一体何処で…」
「ねー?やっぱ似てっしょ」
それはベアルが髪を束ねるのに用いたものと同一。前に礼として渡されたもの。
確証もない。理論もない。
だが得意げに水晶を地面に設置。次に目を閉じ、数秒沈黙した。
「…っぱダメ、叶わんわ」
「もしかして今願ってた?」
とはいえ現実は非常。ぐぬぬと面妖な顔で祈りを捧ぐも無反応。
うんともすんとも言わなかった。
「ちなみに何を願ったんだ?」
「アタシを元の世界返して~!って」
「それ置き去りじゃね?俺」
「あ、そか。メンゴメンゴ――っとと…」
謝罪と共に水晶を拾い上げるも、ツルッと手が滑る。
完全な球体で掴み損ね、そのまま道の傍へ転がった。
「あ〜待って待って」
「おいおいっ、動き回るとさっきみたいな罠が――」
そしてとある地点に到達すれば――地面から円の紋様、魔法陣が仄かに浮かんだ。
「言わんこっちゃ!」
「くぇっ?」
咄嗟に腕を引く陽太郎。
罠に背を向け、自身を挟み込み、爆発を一身に受けた。
幸い、寸前に距離を取ったおかげで無傷。吹っ飛ばされたものの数メートル。
陽太郎は容易く受け身を取り、同時に飛ばされてくる沙多を受け止める。
「な、ないすきゃっち…」
「二次被害も馬鹿になんねえな戦争って…」
「……あっヤバ!?ヒビ入ったッ」
だが次第に、彼女の目は点となった。
流石に負荷があったらしい。とはいえ原型が残るだけで異常だが。
色も澄んだ透明から、濁ったものへと変色している。
「あとでベルに謝らんと…」
しょぼんと垂れる沙多の眉。
文字通りの割れ物を、優しくそっと触れる。
そして両手で拾い上げ、高く掲げると――
――バリンッ。
「うわっ、やったわ」
甲高い音を立て、弾け飛んだ。
ビクンと肩を揺らす。
――その瞬間、水晶から重く、禍々しい魔力が解放された。
「あ、明野!?」
刹那、周囲の草木が枯れ始める。
最初に余波を浴びたのは陽太郎。
息が乱れ、過呼吸気味に。首を絞められたような大量の冷や汗だ。
次に魔力は、昆虫や小動物の命を喰らっていく。
「今のなんだッ!?鳥肌立ったぞ!?」
「え、そう?確かに割れたガラスって危ないけどさ」
「そんな問題じゃねえって!」
沙多は間近に居たにもかかわらず、影響を微塵にも受けていない。
能天気に破片を拾い集めている。
「これね、ベルから貰ったやつなんだけど」
「前から気になってたんだけど『ベル』って誰だよっ…」
一方で、伝播した魔力は二人の預かり知らぬ間に崖下まで伸びていった。
陣営を構えていた戦士にすら警鐘を鳴らさせ、やがてそれは大穴まで到達し――
「知ってるしょ?前見た、石像の人を殺しちゃった人外?ってやつ」
「…おい、それってまさか暴君の…ベアル・ゼブ――」
――ドクンッと、大気が揺れた。
先程の魔力、それすらもが軽いと思えるほどの躍動。
世界は時間を忘れ、空白を生んだ錯覚すらあった。
「――…ベル?」
そして沙多は一人、その名を呼ぶ。
***
「――感じ取ったぞッ」
同時刻、ベアル・ゼブルは目を見開く。VR機器が壊れた翌日の出来事だった。
ゲームにログインできない以上、行方を知る機会は失われた。しかし彼は止まらない。
ならばと数多の世界へ魔力を、次元を超えて探知網を巡り渡らせる。
あまりに型破りな手段。
だが、彼は掴んだ。
渡した水晶の残滓、破壊で溢れたエネルギー。
そこに自身の力を集約させ――
――刹那、廃屋が光に満たされた。
呼応し浮かび上がる紋様。
現れた魔法陣は、陽太郎が完成させあぐねていた図面そのもの。
やがてベアルは魔法陣へ手を伸ばし――次元を握りしめた。
魔法陣ごと、何もないはずの空間を両手で引き裂き、次元の狭間を生じさせる。
禍々しい暗闇で彩られた異次元へ、躊躇いもなく身を投じた。
今のベアルの魔力量をバッテリーで例えると60%ほど。逆に言えばゲームだと5%くらいで活動してます。
寿命間近のスマホみたいな容量だな。
*次回は月曜更新の予定です。
ついで来週までには序章の手直しをしたい。




