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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
四章.???編

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6.大穴リバウンド【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「――其方はここで引き返せ」

「んえっ?」


 ようやく温もりを放ち始めた、陽光の中での出来事だった。

 これまで歩を共にするも、突如と突きつける撤退。

 当然、面食らう沙多。


 だがヒテンジは視線で語る。

 その先には、宮廷が――長の元へ繋がる緑地が広がっていた。


「デッカぁ…」

「まさしく城の玄関とも言うべき場所だ。ここへ至るまで苦労を掛けたな」


 自然あふれる庭園を目に映し、思わず感嘆を上げる。

 手入れされた舗装路、飾る余裕のある鑑賞樹。

 これまでとは明らかに違う景観。


 本来は美しむべき晴々とした青空も、利権の象徴にすら映った。


(ドーム何個分だろ?) 


 指標としてありきたりな表現だが、いざ目にすればその言葉しか出ない。

 それほどまでに敷地は広大だった。


「…でもどして?アタシ一緒に行くよっ?」


 沙多は首を捻る。

 この企てに、最後まで付き合うつもりで同伴した。

 首を狩ると宣言されてもなお、尽力の意は変わらない。


「妾の優先すべきものが移り変わったまで」

「っわぷ!?」

 

 しかしヒテンジは向き直り、沙多を抱きしめる。

 大きな袖で、いっそ着物の中に仕舞い込むように深く、そして長く続いた。


「事を成した暁には、即座に争いの幕を引く。その時に備えよ。…求めるものがあるのだろう?」


 有無を言わさない抱擁。

 唱えた疑問は、とうに呑み込まれてしまう。


「其方の『すきる』のおかげで早急に辿り着けた。傍に居てくれただけで充分だ」 

「ぁ…すご…めっちゃいい匂い…天国…」


 脳髄まで染み渡る高揚感と安心感に包まれること数秒。

 流石の沙多とて、ゼロ距離では表情が惚け始めた。


「妾の匂いをいましがた付けた。しばらくは人間と嗅ぎ分けられなかろう」


 開放されれば、渡されるパーカー。

 正体を隠すために貸した物。もう羽織る必要はないと言外に告げる。


「――其方は綺麗なままで居ておくれ。その手を真に汚すのは、妾の血だけでいい」

「…分かった」


 ヒテンジは屈んで目線を合わせる。

 柔和な表情から告げられた命令。従える意の無い親愛。

 これを真正面から受ければ、何も返せなかった。


「けど、最後だけは頑張らせてもらうからね?」


 一歩、二歩と足取り軽く進み、杖を召喚。手に携える。

 見据えるは中央。

 周囲に聳える別棟には目もくれず、王の宮殿を捉え――


「――【フレア】ッ」


 白い閃光弾が花火の如く、館の空に何度も弾けた。

 途端に騒々しくなる廷内。敵襲と促す叫びが駆け回る。


 まさしく陽動。殺傷を目的としない殺意の点火。 


――◆■◆!?◆◆ッ!

――◆◆ッッ!◆◆◆■ッ!


 やがて武装を整え、軍を成して現れる警備兵。

 鎧が忙しなく鳴り、庭園を埋めて広がる鉄色。


「礼を言う。後は妾に託しておくれ」


 正面はおろか横手にも敷かれた包囲網。背後の逃げ道すら消されようという中で、ヒテンジは前へ出る。

 瞬間、亜人の研ぎ澄まされた視覚は彼女を映し――


――ヒテンジはそれらへ向け、妖艶に微笑んだ。


 揺れる白銀の髪。

 ほんのり弧を描いた唇。

 細められた、光を吸い込むような金色の瞳。


 天女のように純真で、それでいて魔女のように深い堕天へ誘う笑みに――音は止まった。


 沙多に向けたものとは全く違う、酷く冷たい甘美。

 警報を告げる笛も、排除の為の行進も、ピタリと静止。

 やがて構えた剣や盾すらも、ガラガラと音を立てて落ちる。


「これより幕引きだ。またな、サタよ」

「うん…じゃあね、ヒテンジ」


 この沈黙の中、沙多は一人動いた。

 【空蝉(うつせみ)】と【神隠し】、【速度強化付与(スピードバフ)】の全部乗せ。

 移動に特化したスキルで、この場をあっという間に駆け去っていく。


「…惜しいな」


 分かりきっていた感想。

 いずれ確定していた未来を、素直に残念と嘆いて歩く。

 歩を進める中では、狼狽から彼女を呼ぶ声がちらほら。


――しかし全ての名が"カナン"。

 "ヒテンジ"と呼ぶ者は誰一人いない。


「やはり、其方に呼ばれた名は恋しくなろう」


 ツカツカと音を鳴らし、王の御前へと辿る。

 これを邪魔する存在はいない。美貌に呑まれ膝を着く者、手を痙攣させる者、意識を飛ばす者。

 数百を虜にし、人で象ったレッドカーペットの如く、静かに歩いて行った。


***


「さみぃよぉ〜ッッ」

 

 一方しばらく、陽太郎は未だ肌寒さを訴えていた。

 服という温もりに恋してやまない。


「なんで服着てないん?」

「うぉっ明野ッ!?いつの間にッ」

「スキル使いまくって全力疾走(ガンダ)した。全然人も居なかったよ?」


 しかし突如と現れた沙多に、腰を抜かして上裸を隠す。

 【空蝉】と【神隠し】スキルも合わさり、まさに神出鬼没の速さだ。


「で、なして裸?」

「珍しい素材だからって剥がされた…」

「あーね」

「ん?明野が来たってことは、もういいのか」

 

 合流を無事に果たせた陽太郎はスキルを発動、腕力を増大。

 次に鉄の牢を自力で捻じ曲げる。

 沙多は「なんで大人しく捕まってんだろ」という疑問も湧いたが、呑み込んで彼を連れ出す。


「とりまこれ上げる」


 上裸は見るに耐えなかったのか、返却されたパーカーを彼に譲る。

 切り裂いている都合上、前は閉じられないが無いよりはマシだろう。


「サンキュ…なんかいい匂いすんな。お日様の香り」

「えっキモ、返して」

「待ってごめんってマジで寒いからっ!どっちかっていうと悪寒の類で!」


――――――

――――

――


「こっち真っ直ぐで合ってるっけ?」

「方角は間違ってないはずだ」


 馬車も取り返し、亜人連邦の門を強引に出る。

 例の騒動のためか、手薄で容易。

  

「後は探索隊が組まれるのを待つだけだな。明野も参加するだろ?」 

「うん。学校やばいし、ヒテンジが頑張ってくれたし」

「あの姉ちゃんとは、ちゃんと話ついたんだな」


 彼女を信じるならば、やがて戦争は幕が引かれる。

 二人の残る問題は"大穴"のみだ。

 

「満足な別れなんてないが…明野が良いなら俺が口を挟む事も無いか」

「陽太郎は何か後悔あんの?」


 暗い表情は作らなかった一方、ふと尋ねる沙多。

 やけに実感の籠った問いだったからだ。


「一緒に『ルシフェル・オンライン』やってた奴とな。ギルドも作ってたんだが…一言も残せなかったからなぁ」


 その言葉に沙多も思考を飛ばす。

 友人やバイト先の者はどうしているかと。

 親も関心を寄せるだろうか?と数々を思い浮かべ――最後にベアルの存在が頭をよぎった。


「…アタシちょい寝る。徹夜でしんどい」

「おう、疲れてんだろ?しばらくは俺に任せとけ」


 型破りな悪魔ではあるが、ふと思い出せば懐かしさと安心感の睡魔に誘われる。

 乗り心地が悪いとは言え、疲労が勝ったのか瞼は数秒で閉じられる。


「結局俺は、あの姉ちゃんの事は分からず終い…もっと寄り添うべきだったか?」


 寝息が背中で立つ中、陽太郎は独り言を零す。


――――――

――――

――


 突如、衝撃が襲った。


「うぇっ!?」


 睡眠を中断され、沙多は訳の分からないまま奇声を上げる。

 あったのは宙に身を投げ出される感覚。体に何かが触れている感覚。


 また衝撃が襲った。今度は地面に着地したような感覚。


「え、なになに!?」


 馬車の中ではない、外だ。

 土の匂いが近く、晴天が寝ぼけ眼を穿つ。

 そしてようやく理解する。陽太郎に抱えられていると。


「…悪い、しくった」


 面目ないと沙多を腕から降ろす。 

 周囲には木片や車輪の歯車。馬車だった残骸が散らばっている。


「罠系統の魔法陣を踏んじまった」


 苦虫を噛み潰す視線の先、地面には仄かに光る紋様。

 効力を発揮し終わり、その陣は消失していく。

 無残な痕を見るに、致命傷もありえた威力だった。


「まじか、こっからどうしよ」


 命に別状は無し。しかし馬が逃げた。

 となれば移動手段は徒歩のみ。

 馬の脚で一日移動した距離を人が進むには過酷だ。


「…ちょっとあっち行ってみてもいいか?」


 ガサガサと揺らす草木の中から、石の塊を拾い上げる陽太郎。

 これを観察すれば、茂みを慎重に進み、獣道を北に歩いていく。


「どしたん?いいけど」

「いやな、こんな所に罠なんて仕掛けられてた原因は、恐らくこれだ」

「…宝石?」


 見せつけるのは先ほど手にした石。

 淡く輝く謎の欠片で、砕けたガラスのように散乱していたという。


魔鉱晶(まこうしょう)って呼ばれてるらしいぜ?魔力が籠ってて珍しい資源だとか」


 といってもこれは端物も端物。

 本来は更に大きく、煌めいているという。


「んで、これの取れる産地が――」


 やがて馬車の破壊から数十分。

 向かって昼日に晒され、坂道を上り、木々を掻き分けて抜ければ――


「――"大穴"?」


 それを知らぬ沙多の口からでも、ポツリと零れた。

 切り立った崖から見下ろす遥か前方。

 地平線が丸みを感じる先に――巨大な一つの陥没があった。


沙多が陽太郎の元に来るまで3時間程度。もしヒテンジの全力ダッシュ(沙多のスキル補助あり)なら1時間程度です。小国なので意外と移動はお手軽。


隠密とか体力温存とか考えなければ「もう最初からヒテンジ1人で行けよ」状態だった。

沙多は完全に移動のバフ要因。どちらにせよ陽太郎は置いていく。

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