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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
四章.???編

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5.即刻エンカウント【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「■◆◆■!!■■◆■ッ!」

「■◆!■◆!」


 耳を劈く激情。影が伸びる高架下。

 まるで不良のたまり場におあつらえ向きなスポットで、剣幕が飛び交う。


(う~わ、ヤな感じ)


 罵声を浴びせられるのはヒテンジ。

 複数の亜人に取り囲まれるも、口を挟まずただ神妙に立っている。

 沙多は辟易しながら、この場を去ろうと手を引く。


「ねえヒテンジ、なんかめんどそうだし行こ?」

「◆■◆ッ!――"カナン・ミズクメ・レヴァンテイン"!」


 だが、理解できる唯一の単語。

 ヒテンジの元の名が耳朶を打ち、不意に止められた。

 

「■◆◆■■◆◆!■■◆◆■ッ!」

「ごめん、なんて?言葉わからんて」


 次の標的は沙多となったのか、同じく指を刺され怒声が飛ぶ。が、ノーダメージ。能天気にハナテマークが浮かぶ。

 

「――それは看破できぬな」


 刹那、明確な敵意が異世界の言葉ではなく、馴染みのある言語で発せられた。

 長らく被っていたパーカー。

 そのフードを外し、美貌を露わに言葉を紡ぐ。 


「《控えろ》」

「…ッ!?……ァ……ア…」


 数秒と待たず、暴徒は骨抜きに惚けてピタリと静寂が訪れる。

 そしてこの場を去れば、今度は止められる事も無かった。


「なんて言ってたの?」

「どうにも妾は、国を捨てた売国奴となったようだ」  


 フードを被り直すヒテンジ。

 その表情は隠れて見えない。


「現状この国は、長の地位に巣食う者が甘い蜜を吸っている。民は施しなど微塵にもあやかれぬ。その引き金となった妾の失踪、責任を問われたのみ」


 沙多に吐かれた内容には触れず、自身に投げられた暴言、絡まれた理由を語る。


「酷くない!?知らん癖に言いたい放題っ。戻ってビンタしてくるッ」

「よせ」


 シュッシュッと運動を始める沙多。

 「アタシ一発かますよ?」という雰囲気を収めて閑話休題。


「あの名で呼ばれたのも久方ぶりよのう。もっとも今は忌み名も同然となっておるが」


 空席を作り、私利私欲に満ちた者をむざむざと後釜に座らせた『カナン』。

 愚かな君主として旧名は広まり、排他の象徴となっていると言う。


「…カナンの方の名前って、思い入れとかあんの?」


――だからこそ名前を他人事の如く評する様子に、違和感を抱いた。


 もし"沙多"の名が犯罪だったり、軽蔑を表す意味で持ち言われれば、彼女とて不服になる。

 だがヒテンジには一切それがない。


「全くと無いな。元より名無し子だ。長を務める都合上、そう名乗ったまで」

「ふ~ん…。……えっ……え?」


 事もなさげな打ち明けを一度聞き流す。

 しかし数拍してから理解、宇宙へ放たれた猫のような顔を作る。


「…ねえヒテンジ、昔の話とかって…するの嫌い?」


 名無しからカナン、カナンからヒテンジ。二度も変えた名。

 さらに身体には片耳、片腕、尻尾といった欠損による傷跡。

  

「これといって面白いものでは無い。足は止めぬぞ?」


 視線と疑問を汲み取り、尻目に進む。

 問われれば、沙多はコクンと首を縦に振った。


***


「《おい!なんだこれは!?》」

「《ただの丸薬だよ!》」

「《頭がクラクラする…ッ、ハァ…ハァ…!》」


 一方で陽太郎は過酷な取り調べとなっていた。

 とは言え、水責めや体罰ではなく、斜め上の方向で。


 行商としての素材や品を押収される中、目を付けられたのは一つの薬。

 効果は何かと開封すれば、匂いを嗅いだ亜人は錯乱。興奮状態に陥っていた。 


「《なんでこっちのお約束は実現すんだチクショウがァ!!鎮まれ!》」


 涎をボタボタと零し、もはや正常な捜査は期待できない。

 加えて、ただの興奮剤ならば良かったのだが…。


「だぁクソッ、珍しいからって滋養強壮の素材まで仕入れるんじゃなかった!」


 それは有体に言えば精力剤。

 とある獣の内臓から獲れるそれを、薬師に加工してもらった一品。

 本来ならば、ここまで効果は無い。


「なんでこいつ等にゃ効果抜群なんだよ!?この世界のマタタビってこれか!?」


 しかし珍しいが故に、亜人に対する効果は新発見。

 謳い文句以上の効き目が現れた。もはや共通語に翻訳する余裕もない。


「おいヤメロこっち来んなああァァァァッッ!!」


 やがて刺激された本能は、誰でもいいとばかりに陽太郎をロックオン。

 眼光を鋭く細め――そこから死闘が始まった。

 

***


「――単純な話だ。二叉の忌み子として生まれ、一つを切られた後に捨てられたまで」


 朝焼けに照らされる九本の尾、内の二つをユラリ揺らす。

 魔力による造りではなく実物の二本。

 だが片方はバッサリと切り落とされている。


「妾の代はとある呪いが蔓延っていた。この尾は、その厄災を呼ぶとして疎まれたのだ」


 半身とも言える一部は、齢五つにも満たない内に失った。

 止血などする暇もないまま、おぼつかない足取りで逃げ出す。


「次に拾われた集落で過ごし、じきに妾の顔立ちが原因で村は潰えた」


 僅かな平穏を享受するも、体が成長するにつれ、色目に晒されることが増える。

 歳が十を過ぎれば、既に村が成り立たないほどの美女だった。


「耳はこの時、姉のように(した)っていた者からの傷だ」


 村で暮らす切っ掛け。暗い森を彷徨う彼女と遭遇し、同居を提案した亜人。

 しかし、想い人すら惑わす彼女へ次第に嫉妬は(つの)り、就寝時を狙って片耳を奪われた。


「それから村を転々としたが、結果は全て同じよ」


 争いを望まなかった少女とは裏腹に、容姿は成長し続け磨きがかかる。

 いつしか、老若男女全てが魅入る美貌へと至る。


 そうなれば、行く先々で羨望や嫉妬から争いが勃発。

 傷を増やし、村は消え、同族からの迫害は増していく。

 抵抗するには己も牙を研ぎ、必然的に強さを求める他無かった。


「気付けば、辺り一帯の同族は絶滅しておった。当時の長も含めてな」


 一人の強者へ成る頃には、王すらも切り捨てていた。

 これで近辺の狐耳、狐尾の種族――ミズクメ族と呼ばれる者は、彼女だけ。

 片腕は、最後に王位を得る戦いで失ったという。


 その後、長へとすげ変わった彼女は、初めて己に名を付ける。


――生れ落ちた村の名である"カナン"を刻み

――王位に正当性のある一族"ミズクメ"を連ねて

――長のしきたり、大陸の"レヴァンテイン"の言葉を最後に締めた


「――兎も角、名であれば、もはや今の方が耳馴染みが良い。其方らの世界では、『飛天』なる言葉があるそうな」

 

 ヒテンジは眩しいものを映すように青空を見上げる。

 それは天界に住まう者を意味する言葉。

 亜人でも人間でもない。空を優雅に舞い、人を導く天人。


「この身、この"()を転じる"べく、付けた名だ」


 故にヒテンジ。

 体現すべき在り方を写した。名を呼ばれる度、思い出すように。

 

「聞けば、『玉藻(たまも)』なる言葉も妖狐の化身を指すらしい」


 長の矜持を忘れぬ戒めは、ギルドへと刻む。

 あっけからんと、だが儚さを笑みに含む彼女は言う。


「妾に似合っておろう?」


 沈黙していた沙多の足は止まった。

 代わりに、問いを一つ投げる。

 

「――ねえ、もっかい聞くけど、アタシらの世界(ゲーム)楽しかった?」

「先の言葉に嘘偽りは無い。…藪から棒にどうした?」

「じゃあこれからずっと"ヒテンジ"って呼ぶ。だって、その時の方が良いでしょ?」


 身の上を誰かに打ち明けたのは初めて。

 だからこそ、反応を慎重に待てば面食らった。

 

「誰がなんて言ってたとか、カナンがどうとか関係ない。ずっと楽しかった"ヒテンジ"を、全部アタシが思い出させてあげるッ」


 労りや慰めでもなく、ただそれだけ。

 送る言葉は、ヒテンジという名前のみ。

 ただ沙多には、柔らかい表情が浮かぶ。


「…ッ…カカカッ!それは良いっ」


 しかし彼女は朗らかに喉を鳴らした。

 それは艶やかな麗人としてではなく、純白な可愛らしい笑顔。

 

「其方はずっとこの名を、其方だけは妾の名を口にしておくれ」


 この世界で聞く初めての声音に、沙多もつられて天真爛漫に笑った。


***


「《お前の罪状に暴行が追加された》」

「《んなもん不可抗力だろっ、正当防衛だっての!》」


 いつの間にか陽太郎は、尋問室から牢屋へと移されていた。

 色々な意味での危機を凌いだ陽太郎。

 しかしスキルまでもを使用した抵抗に、衛兵は大打撃。


「《てか"追加"ってなんだ"追加"って!元から無罪だろうがっ》」

「《いや、あれは危険物だ。すぐさま入荷や取り扱いの制限を設けるよう掛け合う》」


 次々と増援が駆け付けては、決まりきった運命のように大乱闘となった。

 ちぎっては投げを繰り返し、百人切りを達成すればようやく事態は鎮圧。

 人員の大部分が負傷を抱え、任務に支障をきたす結果となってしまった。

 ちなみに陽太郎は無傷だ。


「《この件は記録を取らせてもらう。大衆に広め再発を防止しなければならない。後世にも確実に伝える必要がある》」

「《何で俺はこの国で新しい歴史作ってんだよ》」


 まさかの大事に遺憾を示す。

 とはいえ傷害の後ろめたさはあるのか、素直に従っていた。

 

「《お前の名は?》」

「《おいヤメロ記録すんな俺の名を!それをどう書くつもりだッッ》」


 妙に真剣な声音に、陽太郎は笑うことすら出来なかった。


最初は陽太郎の視点無しで書いてたんですが、居ないとお通夜みたいな空気になった。

彼の存在意義は緩衝材みたいな所ある。潤滑油として就活に有利。


関係ないですが近いうち、序章~2章あたりまでを手直しする予定です。

本筋に支障は無いので読み返す必要は無し。せいぜい小言が増えるだけ。身勝手ですがご了承を


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