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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
四章.???編

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5.即刻エンカウント【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 日が沈み、再び顔を出した朝明け。

 陽光すら不十分。元の世界で言うならば、始発電車すら走らない時間帯。


「《止まれ、通行の許可証はあるのか》」


 遂に馬車は、一つの国を守る門番と接触。

 そこは亜人連邦の土地。さらに言えば目的地だ。


――連邦の西端にて玄関。

 この地こそまさしく、ヒテンジの治めた領土。


「《行商許可印ならちゃんとあるぞ?》」


 練習の成果あって、御者代には陽太郎ただ一人。"共通語"で入国の許可を求める。

 本来は許可印(それ)を持っていれば、パスできるはずの検問だが…


「《ダメだ通行を許可出来ん――お前は人間だろう》」


 やはり戦争中の今は確執が生じ、まさしく門前払いの状況。


「《今は物入りだ、お前にも物資の()()を要請する》」

「《はぁ!?ふざけんな!》」


 加えて門番は中でも過激派だったらしい。

 入国を拒否した上、押収まで迫る。

 これに反抗し暴れるも、結果は虚しく取り押さえられる。


(では征くぞ)

(え、いいの?)


 一方、騒動の隣からスルリと抜けていく影が二つ。

 "タマモ"ギルドへ赴いた状況と瓜二つだった。


(検問にて撥ねられるなど想像に容易い。故にあの男が隠れ蓑を買って出たのだろう?)

(あ~、馬車の練習したがってたのって、そゆコトね)


 門をくぐり抜け、ひとまずの潜入には成功。

 犠牲になった彼の姿を思い浮かべる。


***


「やっぱアタシらって歓迎されてなさげね」

「帝国が亜人を訝しむならば、逆も然りだ」

「てかさ、ヒテンジだったら顔パス出来るんじゃないの?」


 人間の沙多は潜入に一手間。スキルすら行使した。

 だが彼女は亜人、ましてや国の長という立場だった。

 ならば正面堂々フードを外して入れないのかとも思うが、首は横に振られる。

 

「妾が治めていた頃とは、随分と変わってしまった故にな」


 国の芳しくない内政に、遺憾と口を尖らせる。

 それは新たな長の影響もとい、ヒテンジとは異なる意向。

 素直に帰国を喜ぶ間柄ではないという。


「…先の孤児(みなしご)だが、全て妾の国から流れ者だった。働き手を徴兵された末の貧困ならば、後は語るまでもない」

「じゃあ前に言ってた犯人って、新しい王s…おっと」


 珍しく、感情らしい感情が素直に覗く顔。

 それを見つめていた沙多。だが通行人と接触した。

 「ごめんね」と、相変わらず通じない言語のまま伝えようとするが――


「――《待て》」


 刹那、ヒテンジが通行人の腕を掴む。発した言葉は日本語ではない。

 成人前の幼なげな顔つきの亜人、その手には沙多の財嚢が握られていた。


「やばッ気付かんかった」


 ポケットを確認すれば陽太郎から持たされた袋は無く、所持金を失う寸前。


「《返してもうぞ》」


 共通語で語る美声に生まれた一瞬の空白、その隙に盗品を取り戻す。

 次にハッと気を戻した犯人は逃亡。

 路地裏の更に奥へ駆けて行った。


 ヒテンジは目を細めてそれを追う。

 咎める意思はさほど無いのか、足取りは緩やか。とはいえ充分すぎるほどの速さだが。


「亜人ってみんな足速すぎん〜?」


 沙多が追いつく頃には盗人の叫び声が聞こえた。

 言葉が通じずとも、怒りに身を任せたものなのは分かる。

 角を曲がればヒテンジの後ろ姿。


「――■◆◆■■◆!!」


 次いで再び飛ぶ怒声。

 先には件の盗人と、兄弟らしき亜人が数名いた。

 痩せ細っており、動機など沙多にとっても明白だ。


「サタよ、往くぞ」

「いいの?」

「目先を戒めたとて全体は変わらぬ」


 しかしヒテンジは踵を返す。

 罰を与えるでも、施しを与えるでもなく。


「頭が腐れば体も腐っていくものよ。故に――」


 狙うのは争いの首謀者。

 ただそれは、想定よりも大きな獲物だ。


「――まずは手始めに長を狩り、その首を以って争いを終わらせる」

「手始めってか王手じゃん」


 それが全てを早急に切り上げる方法。

 自分の国を自らの手で崩す。いわばクーデターだ。


――――――

――――

――


 隠密に、そして迅速に足を運ぶ沙多とヒテンジ。


「"タマモ"と雰囲気似てるの、意識してる?」

「『たまもぎるど』の原典こそ、このミズクメ領である」


 中心街を目指すにつれ、立ち並ぶ景観には既視感が強まる。


 洋風の『帝国』とは一転、和や中華の統合といった様式。

 特徴的な瓦や柱は、さながらな雰囲気を醸し出す。


「そんで、ちょい治安悪い感じ」


――しかし随分と寂れた印象が残った。


 手入れを怠った舗装路や建造物。

 本通りから外れ、路地裏を垣間見れば、横たわる人をチラホラ見かける。

 朝方の空気すら、やけに冷たく感じてしまった。 


(…やっぱ財布インベントリにしまっとこ)


 軽装すぎる不自然さを掻き消すため顕現させていた荷物。

 だが背に腹は代えられないと、トラブルに備えて収納する。


「アタシは"タマモ"のが好きかなぁ。なんか(ここ)の進化版って感じする」

「間違ってはいない。この国を志半ばで離れた故、生還し、復興させる際の試金石としたのが『たまもぎるど』だ」

「あのギルドは練習台ってこと?」 


 ギルドは国を立て直す為の経験値、そう割り切った運営。

 だから規模が大きいギルドだったのか、と沙多は記憶を振り返る。

 

「とはいえ、(まつりごと)を始めれば世情が全く異なった。あちらで得た知見は、この世界では通用せぬ」

「えー、なして?」

「あの世界は退屈など程遠く――愉快であった。まるで誰かが糸を引いてるが如くな」


――それは()()()だからだ。


 痛覚があろうが、財産が介入しようが、曲がりなりにもVR機器からログインする娯楽。

 プレイヤーを楽しませる要素が最低限ある。本当に最低限だが。


「あれは一挙一動が好奇心からなる混沌の世界。片や、こちらにあるのは生きる為の営みだけ。比べようもなかろう」

「…ヒテンジってあのゲーム、ちゃんと楽しんでたんだっ?」


 説明も無しに突如『ルシフェル・オンライン』に放り込まれ、プレイヤーと見做されず圧倒的なハンデを背負ってきた彼女。

 それはエネミーを倒しても報酬を得られなかったり、復活の無い一度きりの命だったり。


 だがそれでも悪くなかったと、唇の端が仄かに上がる。

 

「意外~。てっきり帰るためにしゃーなしでやってるんかと思った」

「無論、責務を果たす為でもある。一度得た長の役目、異界に飛ばされた程度で投げ出して良いものでは無い」


 生還を目指したのは民を率いた立場だから。

 その為だけに、文字通り死んでまで遂げて見せたという。


「――しかし何故、其方はこの身を救った?追いかける理由などなかろうに」


 だからこそ、沙多の行動が分からなかった。

 異世界に巻き込まれたのは、ヒテンジを案じたが為。

 逆に言えば、それ以外の理由が見当たらない。リスクとリターン以前の話だ。


「…妾の毒気にやられたか?」


 一拍おいて上がる、か細い声。

 見捨てなかったのは意志ではなく、放たれる魔性に寄るものか否か。


「そんな『推しだから何でも』的なマインド無いよ?アタシ自己チューだから」

 

 しかし、バッサリと切り捨てた。

 真っ直ぐ見つ返すその目に、雑念は灯っていない。


「ただ、あそこで終わるのはなんか違うな~って。人助けで良い事したいとも思ってないし」


 僅かに開けた路地裏を歩く沙多。

 一瞬だけ日の光に晒されるも、再び日影へと潜っていく。


「むしろ陽太郎のが"良い人"って感じ。子供だって最初に何とかしようとしてたじゃん」


 この潜入も彼が矢面に立てばこそと、例に挙げる。

 誰に言われるまでもなく自らその役目を買って出た。

 あのゲームのプレイヤーとは思えないほどの善性だと、彼の知らぬところで評価される。


「だからもしあん時さ、一緒に居たら、陽太郎のが先にヒテンジ助けそうじゃね?」

「…それは妾の顔を知らぬが故であろう。この羽織を取れば、あの男とて邪念が入る」


***


「《おい、何で服まで没収すんだよ!》」

「《お前の服は見慣れない代物だ、怪しい物が紛れてないか精査する必要がある》」

「《男相手にこのサービスシーンいらねーだろが!馬車ん中にあるもんだけ突っついてろよ!!》」


 一方、陽太郎は身ぐるみを剥がされていた。

 彼の着る革鎧は『ルシフェル・オンライン』産。

 それも上級プレイヤーなのかレア素材をふんだんに使用した逸品。目を引くのは納得だ。

 理由は分かる。が、なんとも間抜けな光景が広がっていた。


「くっそ、野郎相手に脱ぐ趣味はねえのに…美人の警官が相手とか都合の言い展開になんねえもんか…」


 一人でボヤく陽太郎。

 もういっそスキルで暴れるか…?と思案するが、街に居る二人を思えば、騒ぎを起こしたくなかった。

 

「ハッ、我ながら何てひたむきな奴なんだ。…尊厳が削られてる気がすっけど」 


 結局、彼は無抵抗を選択。

 大人しく調査に従った。


陽太郎「本編で俺の財布、盗られかけてね?」

沙多「ぅぐっ」

陽太郎「しかも駄々こねて返すの渋ってたやつ」

沙多「…ゴメンナサイ」


沙多の家賃分くらい入ってたので、もしあのまま取られてたら土下座ルートです

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