4.前進オラシオン【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「あ!そのガブルって人が殺されちゃったから、最近なんか物騒なわけ?」
「大雑把に噛み砕けばそうなろう」
霊園を離れ、腹ごしらえを済ませた一同。
ようやく世情を消化できた沙多はピンと指を立て、ムフっとしたり顔。
「此度の戦争も彼奴が消えたことにより、"大穴"を巡り表面化したのだろう」
「何で大穴?なんかあんの?」
「願いを叶える力が眠るとされる。彼の者が再起を果たした力も、そこで得たものだ」
それは大陸に住む者なら誰もが知っているほど有名らしい。
不治の病を消し去ったり、様々な恩恵があった伝承だ。
「――どうも天恵と似てねえか!?」
一方で割って入る陽太郎。
異常にボルテージが上がっていた。
「というかまんま同じだろ?不思議に思わない方が無理だろ!?だからどうしても大穴に向かうしかねえッ」
「熱量エグっ」
彼は傭兵組合に雇われると意気揚々に宣言。のはずが、その手は次第にダラリと落ちる。
「…って思ったんだけど、まさか戦争中とはなぁ…。これじゃしばらく探索隊なんて組まれないぞ…」
当分は暇になるらしい。参った様子で空を見つめた。
どう時間を潰そうか頭を抱え、ボルテージが激萎えしていく。
「下手すりゃ数ヶ月の足止め…。こりゃ異世界で歳を重ねちまうかもなぁ」
「てか待って。ここの時間ってアタシらの世界と一緒!?」
ようやく思い出した現実世界の懸念。
人攫いの一件が落ち着き、考える余裕が生まれたらしい。
「うーん確証は…あ、知ってるか?この世界って、俺らの世界と比べて一日が長いんだぜ?」
「いま雑学いらん!いつこっち来たん!?」
ドコッとローキックを一発。
職が【格闘家】なので、むしろ沙多の方が痛手。
「俺は2025年の冬頃にこっち飛ばされたけど…」
「はッ?半年前じゃん!!」
「本当か?時期的に一致…。ってことは、時間軸とかそのまま?」
どうも精神と時を司る某空間のように、ここでの一日は現実世界の一秒とはいかないようだ。
しっかり一分一秒が経過している。
――となれば一つ、切っても切り離せない問題がある。
「…ヤバぁ…学校、出席日数足りんくなるッ」
クラリと眩暈が訪れた。
「え、そこなの?」
「速攻で大穴行こうっ!もう二人で突撃しよう!?」
必死に陽太郎の肩を揺すって訴える沙多。
だが強制ヘドバンの被害者になる彼は苦言を呈す。
「無理だよ。大穴って下手な国よかデカいらしいぞ?手に負えねえ」
異世界で最も頭を抱え、青くなった瞬間だった。
このままでは退学処分は避けられない。そもそも生きて戻れるかすら怪しいが。
「どうしようっ!?戦争ってジャンケンとかですぐ終わらせられないの!?」
「余計無理だろ。重すぎるわその拳」
無理難題の要求に陽太郎がマジレス。
「――ならば妾が終止符を打とう」
しかし八方塞がりなこの状況、声を上げるのはヒテンジだった。
「どゆこと?」
「争いの首謀者に心当たりがあるのでな」
スゥーッと細まるヒテンジの目。
それはまるで、獲物を狙うかのようだった。
「…ちょっと待ってくれ、どういう意図だ?」
「恐らく元凶は妾の国にある。であれば動くに充分な理由であろう。民の為にもな」
その意志は固いようで、馬車を拾いにいくヒテンジ。
目指そうとする先は十中八九、彼女の国だろう。
(民…?どっかの貴族か?納得できる雰囲気はあるが…)
(あ~そっか、元々ヒテンジって王様だったっけ)
経歴を知る沙多は納得。
長という立場の中で『ルシフェル・オンライン』への転移。
思うところがあるのだろうと、スッキリ腑に落ちた。
(やっぱ有名人なのか?けどヒテンジなんて名前、聞いたことが…)
一方それを知らぬ陽太郎。
頭にハテナを浮かべたまま今日、一日を終える。
しかも無駄に考えたせいでまた睡眠不足。ヒテンジの説明が最小限すぎた。
――――――
――――
――
「――《これ、三つ、ちょうだいっ》」
「《あいよ、嬢ちゃん》」
「《ありがと!》」
翌日。食料を確保し、沙多は軽快に馬車へ乗り込む。
「まじで言葉通じたわ。なんか意外」
「だろ?単語さえ覚えれば文法は何とかなる」
教えてもらった共通語を片言ながら実践、異世界での会話に成功した六日目。
一同は既に帝国の北端へ進んでいた。
「――んでね、ここバシッってやれば止まって、曲がる時はこうっグイ〜ンって」
「えぇ…」
その道すがら、陽太郎が教えを乞うのは手綱裁き。
先生は沙多。移動中がよほど暇だったのか、昨日から【馬術】スキルによる指導をしている。
「…すまん、もうちょい詳しく言語化してくれ」
だが授業内容は壊滅的。何も収穫のない時間が続いた。
「えー無理。【補佐スキル】って感覚じゃん。見て覚えて」
「寿司職人かよ」
それは、通常スキルのような"必殺技"ではない。
魔力を消費しない『常時発動型』で、行動を補助する役割。
あくまで体に染み込んだような無意識の技能と言ってもいい。
「…いや確かに俺も『【格闘術】の動き説明しろ』って言われても無理か」
「でしょでしょ?やり方とか、頭ん中に直で叩き込まれる感じよね」
端的に言えば、それは本人の糧に一切ならない。
ゲームからログアウトすれば――沙多は手綱の正確な引き方を、陽太郎は拳の効果的な振るい方を忘れる。異世界のここは例外らしいが。
「よく考えたら俺ら、スキルで脳みそ弄られてねえか?」
「怖っ、やめてよなんか変な気するから」
「…妾が教鞭を執ろう」
やがて最後の街にまで足を運び、帝国の国境を出た。
補佐スキルは【杖術】や【馬術】、【格闘術】いった技術のほかに『痛覚を軽減する』『状態異常に強くなる』『視覚が研ぎ澄まされる』といった効果のスキルも存在します。
陽太郎は26~8歳くらいの想定です。若い子からおっさん呼びにシフトチェンジされる時期です。
ちなみに作中の時間は2026年の夏頃って沙多が触れてるけど、深い意味は無い。テキトー。




