3.小憩インスパイア【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「今日はアタシが馬車引いてみていい?」
「明野って馬、操れんのか?」
「【馬術】スキル入れてみたんよ」
今日も今日とて北上する一同。
代り映えのしない平原を走り、街を数度と超えていく。
「そっか、占星術士ってスキル選べるんだったか」
とはいえ二日以上を共にすれば、互いの素性はある程度知られる。
余談だが、彼はストリーマーとして活動していたらしい。
「けど使えるスキル枠は四つだろ?補佐スキルなんて入れて大丈夫なのか?」
彼が知る構成は【空蝉】と【神隠し】に【速度強化付与】。ここに【馬術】を加えれば枠は埋まる。
そうなれば、ただ気配を消すのが上手で、馬を操れる一般人の完成だ。お荷物この上ない。
「だいじょぶ、アタシ七個スキル使えっから」
手綱を引けば、馬は指示に従って走り出す。
まるで熟練の腕捌きだった。
「七個…!聞いたことがない。装備や道具の効果か…?それとも何か違う条件…もしかして俺がいない間にゲームのアップデートが…」
「よーたろー、帰ってこーい」
テイッと助手席に座る彼に一刀。
思考の海から帰ってくる。
「…すまん悪い癖だ。『ルシフェル・オンライン』ん時からの」
「てかあれって違法ゲームっしょ。アプデなんてあんの?」
「一回だけあったな。告知も無しにいきなりドンッだ」
――非正規ゲームの、ユーザーすら知らないアップデート。
当時は掲示板が荒れに荒れたという。
調整内容や追加要素は明記されず、意向すら不明。
ただ影響は大きく、プレイヤー人口は増加、巨万の富が動いたらしい。
「それこそ"レアエネミー"とか"天恵"は存在してなくてな、それを期に追加されたんだ」
「ガチ?めちゃ文明開花じゃん」
「自慢だけど最初にそれを発見したの、俺なんだぜ?」
「ふ〜ん。あ、ねえ、この道どっち?」
差し掛かる別れ道。
陽太郎は「興味ないか…」と、哀愁と共に周辺の地図を広げる。
とはいえ土地勘はゼロだ。結果的に合流するらしいが、どちらの道が優れているかなど不明。
「ほう、じきに"北の帝国"へ差し迫るか。ならば右方から進めば到着も早まろう」
しかし地理に秀でたヒテンジが室内から顔を出す。
昨日に引き続き、同族という観点から子供の事情聴取に勤める彼女は、吉報と溢した。
「北に行ったらなんかあんの?」
「この国は北と南で区切られている。同じ国ではあるが、情勢が異なるのだ」
国の政権争いの影響などであろうが、沙多の知ったことではない。社会科目の勉強を想起して辟易する。
「あと"共通語"が主流らしい。そこさえ行けば、亜人との軋轢も減るはずなんだ」
「超大事じゃん!」
しかし補足に思考力は復活。
言語や偏見すら区切られているらしい。
「どうせ関西と関東の違いくらいっしょ」という想像を軽く超えた。
「上と下でそんな違うん?」
「一人の人間が先導し、新たな様式を北部に築いたのだ」
「あ、俺も本で読んだ。『帝国の英雄"ガブル"』ってのが居たらしいな」
ほへ〜、と相槌を打ったところで、手綱を引く。
ガラガラと慣れた手つきで馬を操り、右の道を進路とした。
「数年前、ベアル・ゼブルによって討たれたがな」
「はァッ!?それマ!?」
しかし予想外の人物が登場し、大声を上げる。これにヒテンジの片耳は倒れ、室内へ引っ込んだ。
そして思い出した。"ガブル"という名も。
――あれは、ガブルかッ?
――ガブル・エルシオンであるっ。帝国の英雄と謳われていた人間よ。
――…しかし何故ここにおるのだっ?
初めてレアエネミーと相対した際の言葉が蘇る。
ベアルが名を呼んだ、天使然とした騎士だ。
なんで戦ったの?
しかもその時に死んでるんじゃ?
じゃあゲームに居たのは?
知りたいことは山ほどある。が、この場に答えを持つ者は居ない。
言い表せないもどかしさが、胸中に渦巻いた。
「アタシって色々と知らなすぎ…?」
***
「――クハハハハッ、いざ舞い戻ろうぞっ!!」
一方その頃、ベアル・ゼブルはVR機器を手に掲げていた。
沙多が失踪して数日。現実世界へログアウトし、彼はその間たっぷり魔力を蓄えた。
山吹色から深緑へとグラデーションする長髪、それを七つに束ねる水晶に濁りは無い。
もはや透明を通り越し、発光するほどに輝きを秘めている。
電気も点かない廃墟にうっすらと朝日が差し込む中、早速魔力を流し始める。
人外の彼に、休息など必要は無い。栄養補給も睡眠も挟まずにVRを頭に被り、いざ起動すると――
――バチィンッ!と、乾いた音が鳴った。
「…ムッ?」
そこから数秒、魔力を込めども一向に始まらないゲームに、彼はヘッドセットを外す。
すると、VR機器から焦げ臭い匂いと共に、煙が立ち上っていた。
「何故意味を成さぬ?吾が抜かったか?」
操作に狂いは無かった。沙多が教授した正当な手順で、繊細な力加減で起動したはず。
しかし一点だけ、特殊な方法――電力を魔力で賄うという手段を取っている。
いつもならばそれで問題は無い。
だが今、彼の魔力は満ち溢れんばかり。
そんな潤沢な総量から、いつもの感覚で変換し、注ぎ込んだ。
結果、過充電によるオーバーヒート。
圧倒的な負荷に耐えられず、故障した。
「…ヌゥ?」
とはいえ原因など彼に分かるはずもない。
加えて、こういったトラブルで頼みの綱である沙多は失踪中。
つまり、一切の行動を封じられ、事実上『ルシフェル・オンライン』から出禁となった。
こいつら異世界に居る時の方がゲームの話してんな。
『ルシフェル・オンライン』の時はスキルとかゲームの仕様とかパッションで説明してた癖に。
そう考えると未だにベアルがゲームに疎いのは沙多の説明不足。
ゲーム機壊れたのも、監督不届きの責任があります。




