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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
序章.おんらいん編
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4.君主に捧ぐおんらいん【章末】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。

「撃破…演出…?倒したッ…!?マジでナイスッ。え、まってベル、アンタほんと強すぎん!?」


 呆気なく難敵を突破し、沙多は興奮気味にバシバシと背中を叩く。


「当然よッ、これがウヌの申す結末だろう?」

「ガチで最高っ、あっ見てあれ」


 晴れたように笑う沙多。そんな彼女が示すのは泡となって消えた座標。

 本来、敵の残骸以外は何も残らないはずの場所には――淡く輝く、恒星のようなオーブが宙に漂っていた。

 一線を画す強敵が願いを叶えてくれるか否か、撃破後にようやく判明するレアエネミーの証拠だ。


「あ待ってなんか剣も落ちてんじゃん、レアドロップも付いてくるとか神じゃん 」

「れあどろっぷ?」

 

 ベアルが慣れないフレーズを聞き返す中、沙多は敵の所有していた『白百合(しろゆり)華剣(かけん)』を両手で拾い上げる。


「ベルは剣使わないんでしょ?これ貰っていい?」

「ウム、構わぬぞっ」


 了承を得て懐に収納すれば、そこに残すのはオーブのみとなる。


「して妹君よ、この球体を如何にするのだっ?」

「…ぶっちゃけ分からん。初めてだし。…触れば何とかなるんじゃない?知らんけど」


 恐る恐る手を伸ばし、指先がオーブへ接触。

 すると、それは二つに分裂。片方は沙多へ、もう片方はベアルの頭上へと移動する。


――『世界の結び、その破壊を確認』


「…えッどゆこと!?」


 刹那、頭の中に直接流れた声に沙多は瞠目する。


――『変革者、明野 沙多(あけの さた)。ベアル・ゼブル。望む天恵を聴取』


 無感情に響く内容。

 沙多はそれを告げる声音を聞いて心臓を握られたように立ち尽くす。


「――お姉ちゃん?」


 最後の記憶が遠い昔のように感じる最愛の姉。

 もはや色褪せつつあった姉妹の思い出。それがこの瞬間、姉の声に包まれ全てが鮮明に塗り替わった。


「クハハハハハッ!その清廉とした声色!吾が主君、ル・シファル様に違いあるまいッ!!やはり吾の見立てに狂いなどあり得ぬわッ!!」


 同様にベアルも咆哮を上げる。

 沙多が姉とした気配を、ベアルは主君として感じ取り、これ以上ないほどの歓喜の表情で天を仰ぐ。


「妹君よッ、次は宿願をここに告げるのだろうっ?何を呆けているッ?」

「う、うん…」


 これまでの一年間、何の手掛かりも無く、沙多が心身を削りようやく辿り着いた境地。

 何をすべきかは分かっている。己の願いを声に上げればいい。ただそれだけの事。

 しかし、喉が震える。あの頃からずっと考えまいと封じていた不安が甦る。


 本当に願いは叶うのか?

 そもそも姉はまだ生きているのか?

 何も言わず消えたのは何か理由が――。


「――吾らの為すべき事は変わらぬっ、これはその一歩目よ!」


 次々に沸く懸念は、ベアルが全て拭っていった。


 悪魔にとっても、この試みに何の根拠も無い。

 尋ね人に会えるかなど、結果が出るまで分からない。

 

 最初は知らぬ他人だった。ただ、人探しという目的と、その為の手段が沙多と似ていただけ。

 だが二人は同じ道を進み、同じ覚悟を賭した。

 そして、ベアルはこの過程に何の忌憚もないと胸を張る。


――ならば、これまで謳った悪魔の矜持は、そのまま沙多を肯定するものとなる。


「ありがと、なんか落ち着いた。アタシらは共同体ってやつだもんね?」

「ウム、では往くぞ妹君よッ」


 今度は震えず、漂うオーブを見つめる。


「アタシの願いは一つだけ――お姉ちゃんに会いたい!」

「吾の本懐は唯一よッ――ル・シファル様と相まみえる事のみッ!」

「だから天恵をちょうだい!!」

「謁見への道を示せッ!!」


――『承諾。天恵を付与。世界の中核へ接続…』


「これで…上手く行く感じ…?」


――『接続失敗。権限が不足。不足。不s――…』  


「は?なにそれ…ッちょっと!!」

「ムッ、し損なったか?」


 ようやく胸を撫でおろせるかと思いきや、唐突にエラーを吐き、突き放される。

 「なんでなんでッ!?」とオーブを掴んでブンブン振り回す沙多。


「…アタシの願いはっ、無理だっていうのッ!?」

「待てっ、妹君よ。アヤツ、妙であるぞ」


 目尻に涙を滲ませる。しかし、それが頬を伝って落ちる前にベアルが耳を傾けた。

 その脳裏に響く声の様子がおかしい。

 壊れたラジオさながら、言葉にならない何かを繰り返し呟いたと思えば、ブツンッ、と途切れ――。


――『沙多ちゃん、そこにいるんだよね』


 今度こそ沙多は目を見開く。

 無機質な声の代わりに聞こえたのは、感情が乗った優しい声音。

 何度も見て聞いた、困ったように眉を下げて微笑む姉の顔が想像できる。

 声質が似ているとして、姉と重ねた先ほどとは訳が違う。

 確信を持って姉だとする温もりがあった。


――『ベアル、ここまで来たのか』


 同様に、悪魔の中にも求めた声が木霊(こだま)する。

 高潔な麗人を思わせるそれを聞いた途端、悪魔は一言も発っする事なく、その場にかしずく姿勢をせずにはいられなかった。

 いつものような豪快な歓喜はせず、寡黙に聞き届ける。


――『きっと私を追ってきたんだよね』

――『お前はそこまでして私に会いたいか』


 それに二人は是とする事を、あらかじめ見透かしていたように、それぞれ二人に語る言葉は続く。


――『じゃあ、もっと()()()()()を見つけて』

――『ならば成せ。この世界に、楔を打ち込む変革を』


 お互いの目指す場所、そこへの道標を確かに聞いた。


――『『私は待ってる』』


 その啓示でも何でもない、ただ一人の想いを最後に、このメッセージは消えて聴こえなくなった。


 パリンッとオーブが砕け、役目を終えたことを告げる。

 天恵によっての願いは叶わずとも――天啓は得た。

 

 ベアルにとって思わぬ最高の収穫だった。

 彼にとってログイン初回――この世界の来訪一日目で、まさしく活路を手に入れた福音。


「クッ――ハハハッ本懐への道は開けたッ!これより、この世界の全てッ!全ての『おんらいん』を主君へ捧げようぞッ!!――…ムゥ?」


 堪えてたようにも見える高笑い。それが解放されたと思いきや、ドサッと背後に感触を訴えた。

 背に首を傾けると――。


「あ"り"がとぉ…ベルぅ”…!」


 潤んだ声を上げる沙多が抱きついていた。

 ようやく手にした念願の手掛かりに、遂には涙を堪えきれず決壊していた。


「ア"タシ一人じゃ絶対ムリだった"ぁ"…!」

「何を言うか妹君よッ、吾らは同志であるっ。ならばこの程度造作でもないわッ!――ックハハハハハァッ!!」


 今度こそ悪魔は満足に高笑いを終える。


――――――

――――

――


「いい?話まとめるよ?」

「相分かった」


 情緒が安定し泣き止む頃、沙多は上機嫌だ。

 明確な道標を得たことで、これまでの悲観的な感情は全て取り除かれていた。


「私がお姉ちゃんから聞いたのは、『また結び目を見つけて』って感じの内容なんだけど、そっちは?」

「吾が得た言伝(ことづて)とは異なるな。耳にしたのは『楔を打ち込む変革を成せ』というものよ」


 敵がバラまいた硬貨や金属片の素材を一か所にかき集めながら、情報のすり合わせをする。

 お互いが聞いたものに関連性は不明。

 だがどちらも再開の道へ繋がるものだろう。


「じゃさじゃさっ、思ったんだけど、『また』ってお姉ちゃん言ってたんよ。てことは、またレアエネミー倒せばお姉ちゃんに会えるんじゃない!?ついでに天恵も手に入るし一石二鳥じゃんねッ!?」

「ウム、賛同しようぞっ。敵影を残らず淘汰すれば(おの)ずと真意も見えるであろうッ」 


 全ての報酬(ドロップアイテム)を集め、それを二分したところで二人の方針は定まった。


「じゃあ決まりッ、やることはシンプル!レアエネミーを頑張って探しまくって、倒しまくる!そんな感じでいい?」

「異論などあるまい。では妹君よっ、直ちに次なる戦地へ赴こうぞッ!」

「いや待って。もうリアルでの時間遅いし、一旦お開きにしたいんけど…」

「りあるの時間…?」


 沙多は懐中時計を取り出し、ゲーム内の時間を確認する。

 『ルシフェル・オンライン』における一昼夜の長さは少々特殊で、現実よりもやや長い。

 それを踏まえた上で照らし合わせると、この世界での短針は15時前後を指し、二人がログインしてから四時間を超えようとしていた。


「リアルだともう深夜三時なんだけど!?ヤバすぎヤバすぎッ!明日アタシはやることあるし今日はもう終わり!!」

「ムゥ…仕方あるまい…。ならば再開はいつとするッ?」

「フレンド登録しよっ、したら空いてる時いつでも連絡できるから。その間ベルは自由にしてて」

「ふれ…んど?」


 またも未知の単語に頭を捻る悪魔。

 沙多はお構いなしに登録の手順を済ませる。


「ってことで解散ね?はいこれ――って、あ…」


 硬貨やアイテムを懐に収め、残りをベアルに差し出すところで沙多の手は止まる。

 このゲームは普通のゲームではない。

 時にエネミーが落とす報酬(ドロップアイテム)は大きな価値がある。

 特に硬貨。『ルシフェル・オンライン』ではゲームマネーであると同時に、現実にも置き換わる通貨だ。

 ならば、金融機関の――お金の流通を管理できる物が必要なのだが…。


「…ベル?流石に自分の口座は持ってる…よね…?」


 嫌な予感がした。

 いくら外国人風で言葉が怪しく、文化や生活様式に疎いといえど、海外のどこかに利用している銀行は流石にあるだろう。

 そんな至極普通な考えのもと、恐る恐る確認したが…。


「口座…両替商のことかッ!?であれば吾は所有しておらぬなっ」


 しかし彼は悪魔。金繰りとは無縁な、自身の力のみを財産とする習性だ。

 当然、沙多の期待を裏切ってくる。

 ガクッと、嫌な予感が的中してしまった沙多は、これまでの疲れを思い出すように、地に両膝をつけて倒れてしまった。


「今度…使ってないお姉ちゃん名義のゲーム口座、貸してあげるから…」


 気力が抜けたようにそれを口にして、二人の今日は終了した。

ようやくプロローグ的な序章終わった。

ゲームで現金が増えるのって課税のあれこれがすごい面倒そう。知

らんけど

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