3.小憩インスパイア【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
短いので次回は月曜です。
「あ、おはよー」
「おう、疲れとか無いか?」
「ばっちし。むしろ陽太郎のがクマない?」
「ああ気にすんな、考察が捗っただけだ」
宿の確保は陽太郎が請け負った。
言葉も流暢、人当たりも良い。軋轢なく交渉できる人間は彼しか居ない。
引き連れた子供も外套を被れば、驚くほど平穏かつスムーズ。かくして一夜を明かした。
「てか今日はどうするん?」
曰く、丸一日この集落に滞在するらしい。
昨夜は「仕込みがあると」早めに解散。
翌朝に合流場所へ赴けば、大した説明もなく彼の隣に並ばされた。
不思議な点は――周囲に、やけに小道具が多い。
横長テーブルや椅子、看板すらあった。
文字になんと書かれているのかは不明だが、沙多には既視感があった。
「なんか見覚えある…」
「だろっ?この世界の文字、ゲームであった古代言語だぜ!?」
「あっ確かに、それかもっ」
それは『ルシフェル・オンライン』で長らく謎とされていた言語。
彼の天恵は文字も翻訳されるようで、同一と高らかに告げた。
(だからヒテンジはあのメモ読めたんだ)
ベルタに渡された『カナン』なる人物が書かれたメモ。
極少数しか解読できなかった中に、彼女が入っていた理由を漠然と悟る。
「てか謎。なんで言葉一緒なんだろ」
「それ含めての考察だな。有力候補が四つくらいあるんだが、興味ないかっ?」
「や、なんかムズそうだしパス」
「あ…さいですか…」
しかし興奮冷めやらぬ様子は沙多によって一刀両断。
どうやら彼は研究者気質のようで、久しぶりの仲間と談義したかったらしい。
「それより何すんのかが気になる」
二人が立つのは村の円形状に開けた広場。憩いの場さながら、辺りに人を散見した。
側には馬車を配置し、中にヒテンジ含む亜人組が待機している。
「まあすぐに分かる。仕上げはこれだな」
「インベントリ?」
獣から獲れた肉や毛皮を衆目に晒すよう並べる彼。
沙多は怪訝な顔を向けるも――やがて目の前に客が訪れ、彼は流暢にメギド語へと切り替える。
「《兄ちゃん、丈夫な毛皮あるか?矢筒に使えるやつだ》」
「《らっしゃいっ。これならどうだ?まとめて買うなら安くしとくぞ》」
「《悪くないな、三つくれや》」
「《まいど!》」
「――何でフリマしてんの?」
ようやく理解した沙多は、至極真っ当なツッコミをいれる。
「情報が欲しい。俺も立ち寄ったばかりで近況が分からないんだよ」
「昨日言ってた仕込みってこれね」
現在、陽太郎は露店を開いていた。
むしろこちらが本来の目的。行商人という生業で異世界を生きていたという。
「あとはシンプルに路銀だな。子供の面倒を最後まで見るなら、帝国を超えて亜人の国に行く必要があるだろ?今の手持ちじゃ不安なんだ」
店を開けば、もの珍しさに惹かれた村人が顔を出し人気は上々で、安定した売り上げ。
この生活に随分と慣れているようだ。
一方の沙多は全く喋れないため看板娘はおろか、客寄せパンダ的な扱い。とはいえ、コミュニケーション能力は健在。
時々言葉が通じないのを逆手に、押し売りまがいの事もしているが。
「なんか今日は実入りが良いな。…なんでだ?」
「アタシのカリスマっしょ」
やがて客足も落ち着けば、雑談を挟む余裕も生まれる。
その頃には打ち解け、口数が増えていた。
「明野って元々は何しようとしてたんだ?人攫いが無かったらの話な」
「とりまヒテンジの住んでた国を目指そうかなって感じ」
「あの姉ちゃんの国か?ならどっちにしろ亜人連邦か。てっきり大穴を目指すもんかと」
しかし聞き慣れない"大穴"という単語。
沙多は「何それ」と呆けた声を出す。
「ありゃ知らんか、結構有名だけど…」
「ガチで知らん。そもそもアタシこの世界来たの、一昨日くらいだし」
「…マジか」
「マジマジ」
想像以上の"最近"。度肝を抜くも咳払いを一つ。
こちらに詳しくない事実から、今度は世情も少々入れる。
「大穴ってのは文字通り、馬鹿デカい穴の空いた暗い場所で、突然発生したって話だ。その原因は…――いや、ここら辺は興味ねえか?」
だが沙多の頭から処理落ちの湯気を察知し、諸々を省略。
たった一つの、重要な要素だけを伝える。
「――ざっくり言えば、元の世界に帰れるかもしれん手掛かりだ」
「ガチで!?」
大穴の詳細は分からない。が、帰還の手段と聞いて沙多は飛びつく。
「ガチだガチ。確証はないけどな」
「めちゃ大事な話じゃん!?アタシもそこ行こ!!」
頭突きを繰り出すほどの勢いに、陽太郎は仰け反った。
あと一瞬遅れていれば、顎を揺らされ意識を刈り取られていただろう。
「その帰りたがる反応だと、明野も不慮の事故で転移したのか」
「陽太郎も?アタシは天恵で色々あって飛ばされた感じ」
二人の原因は、天恵絡みの似た境遇。
「やっぱ俺と似たようなケース…じゃああの魔法陣、完成させたのか!?」
「え知らん。なんそれ怖っ」
しかし彼の言う"魔法陣"という単語に心当たりはなかった。
「俺がこの世界に転移させられた理由は…恐らくこれだ」
インベントリから取り出したのは、とある図面。
円陣の中に紋様や文字らしき何かが並んでいた。
「…魔法陣?」
「そう、これが発動して飛ばされた」
「へー。てかこれ、なんか物足りんくない?」
しかしその巻物は完成形とは言い切れず、随所が欠け、曖昧な羅列。
「まだ途中なんだよなぁ。だから別の天恵で、これを完成させてくれって願ったんだけど…」
「あ〜ね、それで勝手に発動しちゃったんだ?」
「ああ、しかも発動して一回きりで消えたから、どんな絵面だったか思い出せんしなぁ。瞬間記憶力が欲しい…」
原物は消費され、現在の図面は記憶を頼りに再現したものらしい。
しかし彼は異世界へ放り込まれたことより、それを紛失した方が無念らしく嘆いている。
「でも知ってるか?この魔法陣って実は法則があるんだぜ!?プレイヤーの現――」
「《おいあんた、この角はいくらだ?》」
「《あぁ、らっしゃい。それは――》」
しかし客足が途絶えたわけではなく中断。長話はこの場に向かないらしい。
その後は斜陽に差し掛かったところで商いを切り上げ、異世界生活三日目の夜を迎える。
馬車が手に入る以前の陽太郎は、徒歩での行商だったので装飾品とか薬とかがメインでした。
怪しまれないようにデカい袋とか道具がインベントリには大量。
陽太郎が会話してる時だけ内容を《》で翻訳します。普通の「」なら日本語。
ちなみにメギド語は「□、◇」表記で、共通語は「◆、■」という差分。
どうでもいいけど《》の記号、ルビ振りや強調のコマンド的な意味もあるので、これ使うと変な暴発しそうで怖い




