2.奔走プレイヤー【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「あ〜ムリムリ。英語もアタシ赤点余裕なのに、理解できるわけないじゃん」
突貫で扉を補修し、拝借という名の強奪に至った馬車。
御者台に座る沙多は、乗り心地の悪い振動に揺られながら白旗を振る。
この周辺では、二つの言語が使用されるらしい。
一つが”メギド語”。昨夜、ヒテンジを嫌悪する村で使われていたもの。
「■◆■◆■?」
「ゴメンね、分からんのよ」
そしてもう一つが"共通語"。
比較的どこの地域でも使われ、亜人の子供たちが使用する言語でもあった。
「"お姉ちゃん具合悪いの?"って聞かれてる」
「え、なして分かんのっ?」
しかし彼は共通語を平然と理解していた。
驚愕のまま、首を後ろに振って問い詰める沙多。
余談だが馬を繰れる者がヒテンジしか居ない現状、子供は彼に預けられている。
「ああ、昔に天恵で色んな言葉分かるようになったんだよ」
「天恵!?やっぱそういう使い方も出来るんだ」
また、『ルシフェル・オンライン』のプレイヤーであったことも判明。
思えば彼がインナーの上に着た革鎧は、蛇や虫といった鱗や外骨格を元にした『ルシフェル・オンライン』の装備。
鈍色と黄土色が合わさるそれは、湿地帯にて拾った素材と近しく、沙多の記憶に新しい。
***
――俺の"天恵"というワードに反応。
確定した、この子も同じゲームからの転移者だ。
ピンクの髪が目立つ。高校生くらいか、赤点とかいう概念が少し懐かしい。
TPOビックリなゲーム感マシマシの修道服だしそんな気はした。ってかスカート丈短すぎない?最近の子こわぁ。
…じゃなくて、こっちはいい。薄々勘付いていた。身元を聞いていっそ安心した。
――問題はその隣に座る高身長の姉ちゃんだ。
少し発音に違和感があるものの、天恵に翻訳された感覚がない。つまり紛れもない日本語。
となると同じくプレイヤーか?
けど雰囲気が違う。
外国人ってのも珍しいがあり得なくはない。でもなんか違う。
堂に入った振る舞い。明らかに場数を踏んだ気配。
あと関係ないけど声めっちゃ綺麗だ。さっきから鼓膜がヤバい。
フード被ってよく見えないけど、どんな顔してんだ…?
いや違うだろ俺、そこじゃない。何の理由で顔を隠している?
妙に気になる。けどお互いにまだ信用関係は築けていない。
踏み込みすぎて距離を取られるのは避けたい。話題をちょいとだけズラしてみるか…?
***
「そう言えば、そっちに色々飛ばしちゃったけど大丈夫だったか?」
カーテンで仕切られた室内から問われたのは邂逅時、接触事故の有無。
彼の職は【格闘家】なのか派手に扉を破壊し、ヒテンジが乗り込む際に人体ごと外へ殴り飛ばした。
ただでさえ速度の乗っていた馬車だ、巻き込まれ地面に墜落すれば怪我は避けられない。
「問題ない。予見していた」
「予見?来るって分かってたの?」
馬を容易く操るヒテンジは、なんて事の無いように言う。
確かに彼女は不可視の衝突を見事に避けていた。
まるで未来を見通したかのように。
「――ほれ」
「わっモフモフッ。…ってあれ、足りなくない?」
手綱を離せない代わりに、差し出されたのは白銀の八尾。きめ細やかな手触りに沙多の頬は緩む。
とはいえ実体は一本のみで、他は残像のように感触すらないが。
――しかし本来ヒテンジの尾は九つだ。一つ欠けている。
「危機を察知し、消費された。あれは魔力を多量に喰らうのでな」
「未来予知みたいなこと出来るん?やっぱただのアクセじゃなかったんだ」
「左様、魔力で補った造り物よ」
まさしく第六感。ベアルと対峙した際、一度と致命傷を貰わなかった要因だ。
そして同時に、馬車の室内から青年の咳き込みが聞こえた。
***
亜人だ。確認できた。
仕切られたカーテンの隙間から、綺麗な毛並みの尾が見えた。
種類は狐とかに区分されるか?てか綺麗だなあの銀の尻尾。
ともかく間違いない。出身はあちら側だ。
いやおかしくね?
なら日本語話せる理由は何だ?亜人だろ?そっちにゃ存在しない言語だぞ。
んで、あの子はどうして亜人を平然と受け入れている。俺らにとっちゃ未知の存在だろ?
いつ知り合った?付き合いは長いのか?そもそも――
――"未来予知みたいなこと出来るん"
は?今チートみたいなワード聞こえたぞ!?
というか待て、やけに尻尾の数が多くないか?
ゲホッ、やばい咽た。落ち着け。
"亜人は人間よりも魔法の扱いに長けた種族”
”魔力を尾に変換して蓄える習性を持つ"
そう本で読んだことがある。つまり、実力者ほど尻尾の本数が多い。
あの姉ちゃんは何本ある?…一、二、三…ここからじゃ全部見えない。けど、もしかして相当有名だったりしないか?
…まずい、かなり気になってきた。
盗み聞きばかりでさっきから子供が蔑ろだ、お守りを任されてんのに。
てか知らん奴に任すなよ。子供ウケ良くないぞ俺。
***
「もう触れる必要は無いのだぞ」
「あとちょっとだけ〜…って、あれ」
ベアルの水晶が魔力を表していたように、尻尾の本数で魔力の貯蓄をしているヒテンジ。
しばらくその手触りを堪能する沙多だが、やがて尻尾にも切り落とされた傷跡を見つけた。
「尻尾も一つ切られて…怪我してない?」
「昔の話よ」
「耳とか手とかも、ゲームん時から無かったよね」
ならば以前は二叉の尾だった彼女。
右耳や左腕に加えて、古傷を多く抱えていた。
「アタシもなんか手伝うよ?」
「気を遣わずとも良い。案外、この腕は精巧に作られておる」
義手で補っているものの、操縦の負担は計り知れない。
しかし視線を悟った彼女は、不自由はないと左腕を振る。
それは数少ない『ルシフェル・オンライン』での良い拾い物だったらしい。
指の関節までも再現し、戦闘用の鉤爪まで自由自在だと言う。
「『まじっくぽぉしょん』なる魔力回復の手法にも驚いたが、これは別格よ。其方らの世界では『おぉとめいる』と申すのだろう?」
「――違うっ、それ作品が違うぞ姉ちゃんッ」
「きゃッ、ビビッたっ」
唐突に二人に割って入る青年。
異様に焦る様子に、沙多がビクンと跳ねる。
「その言い方は色々問題があるって」
「…?何かダメなん?ってかそれオートメイルって言うんだ。初耳」
「ダメだその言い方は錬金術師しかダメなんだっ」
「錬金…【錬金術師】?その職ならアタシのギルドに居るよ?」
「そうじゃなくて…ジェネレーションギャップ…」
***
エッなに!?尻尾切られてんの…!?
てか耳も片方だけ?隻腕!?
どんな波乱万丈な人生送ってんだあの姉ちゃん…。
『ゲームん時から』ってことは昔からある傷ってことで…ん?『ゲームん時から』…?
ゴファッ。
口の中がまた爆ぜた。
ウトウトしてた子供が眠気を飛ばす。ごめん。
理解するのが遅え俺ッ。時差どんだけあるつもりだ距離一メートル以下だぞッ?
ゲームに亜人が居た?一体どうやってログインした?
違う。もしかすると現実世界じゃなく、ゲームに直接やってきた可能性もある。
どちらにせよ、どうやって転移した?
あぁッ気になりすぎる…!思考がまとまらない。今日寝れる気がしねえわこれ。
情報を拾おうとして耳がピクピク痙攣してきた。痛い痛い痛い。
てかそんな話、人が後ろに乗ってる状況でしちゃダメだろ。
一旦落ち着け、咀嚼して他の要らない情報を減らせ。
義手は『ルシフェル・オンライン』で作られたもの。
うん、初対面は普通に両腕あったように見えたもんな。片方が造り物だったのか。
魔力回復薬はこっちの世界に存在しない。
だよな、当初は驚いた。
そういや在庫が怪しいんだった。有事に魔力切れなんてしたら死活問題だ。大事に使わねえと。
よし、落ち着いてきた。
…あの姉ちゃんは何らかの要因で飛ばされて、ゲームから戻ってきた状態と仮定する。
つまり行って戻ってで、世界を一往復したことになる。
ならゲームと世界は一方通行じゃなくて、相互で移動可能?
ってことは明確に敷かれてる導線が、何らかの媒体が存在している…?
じゃあ俺らがここにいるのは偶然なんかじゃなく、説明できる理論があって――
――"其方らの世界では『おぉとめいる』と申すのだろう?"
うおっその話はマズイッ!
――――――
――――
――
窓を見れば、さっき俺が出た村へと戻っていた。
「着いたよ〜」
例の子がカーテンを捲り、こちらを覗き込む。
さて、どうする?普通ならここで解散だ。
「なあ、二人はどうすんだ?」
「う〜ん、亜人らに会っちゃったし色々考えんとね」
「同胞は捨て置けぬ。だがここは帝国、どうにも当ては無いな」
けど今回は事態が事態、人攫いにあった亜人がいる。
メギド帝国は亜人との関係性が悪い。
特にここは帝国の南半分。その傾向が強いはずだ。
――だからこそ、亜人の子供をダシに使える。
子供の行く末以上に、この二人が異質すぎる。
もしかしたら、何かの鍵になるかもしれない。いや絶対になる。直感が確信にまで迫っている。
「なら一緒に行動しないか?多少ならどうにか出来るかもしんねえ、助けが欲しいんだ」
スラスラ回る呂律に思うところはある。
『子供を見放すのは後ろ髪が引かれる』そんな思考さえ、我ながら疑心暗鬼になる。
だがこの情報、追求せずにはいられない。
「いいけど何すんの…てか、名前なんだっけ?」
よし、釣れた。けど自己紹介がまだだった。
同じプレイヤーに出会ったことや、姉ちゃんの事情あれこれで失念していた。
「ああ、俺は丁 陽太郎。知ってると思うが『ルシフェル・オンライン』から転移者だ」
――今日は改めて『ルシフェル・オンライン』の秘密を確信した日だ。
元々は三人称のみの予定だった。けど読み返すと陽太郎が怪しくて絶対裏切る奴じゃん。となったので一人称視点を追加。
けど追加したら、コイツ世界の秘密とか繋がりを延々と考察しだすから、文字数が増えるわ勝手にネタバレするわで厄介者になった。著作権の力で思考を封じろ




