2.奔走プレイヤー【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
――これに帝国は相打ちと発表するも、中には戦死と主張する文献も確認された。
――現在も「暴君」の姿が確認されないことから、対峙した『ガブル・エルシオン』を信奉する姿勢が強まり、未だに根強い人気を博す。
本を読み終えた。
"俺"が乗っけてもらう馬車、出発予定の明日まで、暇つぶしに買ったやつだ。
…これノンフィクション?史実……?
パタンと閉じた直後の感想がそれだった。
これ時期的に、ほんの少し前の出来事ってわけだろ?
失踪ってことは生きてる可能性もあんだろ?怖っ。
そんな冷や汗をかいていると、目の前を髭面のオッサンが走り過ぎた。
やけに急いでんのか、馬車を揺らして乗り込む。ここに一泊という様子じゃない。必要最低限な物資の補給だけ済ませた感じだ。
まあ関係ないか、俺は次の歴史書を――…いや待て、これダメだ。無視できない声が聞こえる。
次には手綱が大きく、乱暴にバチンと弾けた。
***
「じゃ、しゅっぱ〜つ」
翌日、集落を出た沙多は意気揚々と手を掲げる。
昨夜の悩みは寝て忘れ、疲れも取れたようだ。
「髪は結ばぬのか?」
「うん、ここまで来たら身バレも関係ないし」
沙多の両肩で揺れる髪を見つめ、隣を歩くヒテンジ。
それは紫紺のハーフアップでは無く、桃色を降ろしたままの姿だった。
現実と繋がる『ルシフェル・オンライン』では容姿に用心していたが、ここは異世界。その必要も無い。
わざわざイメチェンするのは面倒と溢す。
「あ、そういえばこれ使う?」
そこから何かを思い付く沙多。
ヒテンジに渡したのは、フード付きの紺色パーカー。
「見慣れぬ材質…其方の世界の物だな?」
「そ、なんか持ってた」
昨夜、スキルの確認ついでにインベントリを整理すれば、身に覚えのないアイテムがあった。が、これが何かは分かる。
沙多がログインする際に来ていた部屋着。つまり、現実世界の持ち物が紛れていた。
「昨日、亜人がどうとかで絡まれたじゃん?だからさ、こうしちゃえばマシなんじゃない?」
しかしその深い意味は考えず、使えるものは使うべしとパーカーを前開きに切り裂き、ヒテンジの長身に合うように広げる。
そして肩へ掛け、最後にフードを被せた。
「良いのか?其方の着物であろう」
「いまオシャレを気にしても仕方ないっしょ」
左耳は覆われ、見た目は童話の赤頭巾さながら。と言っても、長身かつ紺色パーカーという対極であるが。
呆気からんと答える沙多は、新たにセットした【付与術師】の速度強化スキルを発動。魔法陣から出る光に包まれ、二人の体が軽くなる。
「とりまどんどん行こ?難しい事は後で考えたくなってから!」
――――――
――――
――
スキルの効果は如実に出ていた。足取りは軽く、疲れも溜まりにくい。
しかし、馬車などと比べれば劣るのも事実。
今日も今日とてヒテンジが沙多を背負った方が速いという結論だった。
「ごめ~ん、アタシ体力無さすぎだわ」
「案ずるな。羽のように軽い、これしきでは苦にならぬ」
それはスキルのおかげか、はたまたお世辞か。しかし次の集落は捉えていた。
先の農村より規模は広く、かろうじて栄えている様子。かなり遠方からでもそれが漠然と確認できる。
「…?どしたん?やっぱ重かった?」
しかし移動の最中、村を前にヒテンジは停止。唐突に木陰に身を潜め、沙多を降ろした。
「あれを見よ、馬車だ」
「いや見えんし。視力良すぎん?」
ヒテンジが捉えた影。沙多には豆粒程度にしか見えないが、なだらかな丘陵の先に耳を澄ませば、やがてガラガラと車輪の音が聞こえた。
「やっぱ大きめの街だと人通りある感じだね」
「なればこそ、臭うな」
「え?」
ヒテンジは昨夜、ここは辺境であると口にした。
今でこそ北上し活気も稀に見るものの、あれは逆。南下する馬車だ。
つまり、流通にも交易にも不便。そんな僻地を目指している事になる。
「行商の紋を掲げてこそいるが…」
護衛も無しの違和感にヒテンジは鼻を鳴らし、嗅覚を研ぎ澄ませば――
「――同胞が乗っておる。人攫いか」
目を細め、無音で飛び出した。
前傾の姿勢で蛇行するように馬車の元へ。最小限の足音で、馬にすら優に勝る俊敏性。
そのまま馬車に並走。扉を鉤爪で切り捨てようとした瞬間――ヒテンジは目を見開き、体を横へ反らす。
同時に、乾いた破裂音が鳴った。
今まさに破ろうとしていた扉をバンと突き破り、人が飛び出す。
慣性のままゴロゴロと転がり、飛び出た中年の男は再起不能。
「□◇□◇!?」
馬車を引く御者が異変に気付くも遅い。
ヒテンジが回避ついでに背中を刻み、同じように地面へ放り出される。
やがて手綱を失った馬は、慌てるように急停止。
「――!?」
「――…!」
土煙を巻き上げ、室内から声が聞こえるが、ヒテンジは冷静だった。
耳を立て、匂いを嗅ぎ、中の気配を悟る。
「だいじょ〜ぶ〜!?」
途中で置いてかれた沙多が合流。
二人が揃い、いざ中の様子を伺うと――小さな子供が数人いた。
それはヒテンジと同じく獣の尾や耳が備わった、いわゆる亜人と呼ばれる種族。
決して綺麗とは言えない身なりから、"人攫い"というのも間違いでないらしい。
そしてもう一人、こちらは人間。
亜麻色のやや伸びた髪を団子に纏めた青年だが――
「――えっと…お二人とも何なんですかね…?」
子供に巻かれた縄を両手で千切る寸前。困惑した様子で思わず敬語。
その足元には、顔面に殴打の跡を残し、気絶している主犯らしき者。
状況からして第三勢力であるものの、敵ではない様子。
――しかし沙多にとって、触れずにはいられない一点があった。
「誰…ってか言葉通じる!?ガチで!?」
「ってことはやっぱそうか!マジか、俺以外にも居たのか!」
その耳にした言語が沙多と同一。
加えて異世界特有のものではなく、馴染みのある顔立ちだった。
「うそ!?アタシ言葉分かる天才になったッ?――ねえ、みんな大丈夫そ?怪我ないっ?」
興奮のままに向き直るのは、馬車内の亜人の子供達。
「怖くないよ〜」と、沙多は目線の高さを合わせて会話を試みるが――
「――■◆◆、■◆■◆■?」
「うん、やっぱ言葉分からん」
青年がレアケースなだけで、別に沙多が異世界語を理解した訳でも無かった。
伏魔の王伝録を読んでた"彼"視点の独白、本当はもっと多かったんですが、誰が野郎の自語りに興味あんじゃボゲェ!って感じで5000字近くカット。時代は美少女です。
といっても沙多は別に美人設定では無いけど。
"魅力に気付いているのは俺だけ"的な後方彼氏ヅラが度々見えるくらいの設定です。ヒテンジは全員ひれ伏す。




