1.異世界オフライン【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
そこから数時間。一層暗くなった空、日没という概念を思い出させる夕方。
殺風景の道を、足が痛くなるほどひたすら歩いた。
「あ"ぁ"〜これアタシら歩きすぎでしょっ」
後半はヒテンジに背負ってもらってさえいたが、ようやく小さな集落に到着。
あまり人の手が伸びておらず、畑が広がっている。
いわば、片田舎の農村といったところ。
「あっ、第一村人じゃん。泊まれる家とか無いか聞いてくんね」
人影を見て元気が戻った沙多。
休憩出来るかもという可能性に突撃する。
「ねーねーそこのおじさ〜ん!」
「――?□□◇□◇□◇?、◇□□◇□◇□◇◇?」
「ちょ待って何語!?」
しかし慮外の事態に面食らう。
まさかの言葉が通じない。
何かの間違いかもと聞き直すも、やはり知らない言語。
これにヒテンジは苦虫を噛み潰したような顔を作った。
「――□◇□、◇◇□、◇□◇」
対して彼女はある程度喋れるらしく、沙多の代わりに前へ出る。
すると一転、男は険しい顔で、語気を荒げた。
「□◇□◇□◇!◇◇□◇◇□◇!!――…!?…ア、アア」
「…?なんて?」
「『獣風情の亜人が近寄るな』そう口にして、妾に見惚れたな」
「はァ?」
慣れているのか感情を表に出さないヒテンジ。
通訳されたのは唾が飛ぶほど嫌悪と畏怖のある偏見だ。
とはいえ、この世界でも恐るべき魔性は有効らしい。
負の感情を飛び越え、相手を黙らせた。
「ふざっけんなしッ」
しかし沙多は怒声を飛ばす。これに思わずヒテンジの片耳がピンと伸びた。
そのまま男が魅入られる直前の発言に突っかかる。
「泊まれるとこさっさと教えろッ、そんでアンタみたいな人居ないとこ!!誰も使ってない家とかないの!?」
「□◇□◇……」
「うっさい喋んな。行くよヒテンジ」
言葉の通じぬまま沙多は男に詰め寄り、発言を許さぬ理不尽ながらも空き家を指で差させる。
そのまま彼女の手を取り、ズカズカと行進。ゴリ押しで寝床をもぎ取った。
――――――
――――
――
「はぁ…やっと横になれる〜」
ヒテンジやベアルとは意思疎通が出来た。
故に沙多はこの世界でも大丈夫と感覚的に思っていた。が、厳しい現実に疲れと溜息を同時に吐き出す。
「妾は露宿でも構わぬが…」
「ダメ、外なんかじゃ疲れ取れないじゃん。…にしてもほんと何なんあの態度、ガチでムカつくんですけど」
先の件を非難しつつ、沙多は手帳にて職ページを開いていた。
沙多の持つ【七星蒼天】のスキルが表記され、その下には枝分かれするように、無数のスキル名が浮かんでいる。
現在行っているのは、スキルセットの見直しだ。
【占星術士】は扱う技を変更する度、クールタイムが発生する。
そのスパンは一週間と少し。安易な変更は出来ない。
現在は、隠密特化のカスタム。ギルド潜入時からそのままだ。
この構成から、移動などに便利なスキルを手帳に加筆していく。
「にしても、インベントリとかスキル使えるん謎すぎ」
見慣れない木製の天井を見上げ、ポツリと溢す。
齧った漫画などでは、似たような展開を数度見た。
これを読んだ当時、沙多は首を傾げた。
――なんで一緒なんだろ?と。
他校へ転校すれば、校則や服装の指定が変わるように、これまでの道理が通じるわけではない。
にもかかわらず、ゲームの延長線上さながら問題なくそれらを行使出来た。
漫画では、特に意味など無かったり、何か重大な原因があったりする。
(じゃあアタシの場合は…)
己のシチュエーションに当てはめ考える。
この場合はどちらか?意味は無いのか、あるいは――
「――この世と、共通した何かが力の根源なのであろう」
おそらく後者。
何か『ルシフェル・オンライン』と繋がる意味があるのだろうと、実際にゲームと異世界を往復した張本人が推測する。
それは人が聞けば、垂涎ものの秘話だ。
未知数ばかりの非正規ゲーム、これを解き明かす宝の異世界。
これに命を賭ける酔狂なプレイヤーなど、平然と存在するだろう。
「ま、ムズい話はアタシ無理。分かったところで帰れる訳じゃないし」
だが沙多は手帳をパタン閉じる。
彼女の目的は世界を知ることではない。姉を探すため、早急にゲームに帰ること。
興味が無いとインベントリへ押し込み、紫紺が目立つハーフアップをシュルリと解く。
ヘアゴムを外し、反転した桃の髪色が両方に落ちれば、もう就寝の準備が終わっていた。
「…随分と印象が変わったな」
「この髪型嫌い?」
「外見に左右されるほど其方を浅くは見ておらぬ」
いわばそれは現実世界での姿。
身バレ対策用のイメチェンしか知らないヒテンジは、興味深そうに沙多の髪を整える。
「てかガチでどうしたら帰れっかな〜。そもそも今どこに居るんかも分からんし」
「それならば先の忌避、言葉でおおよその位置は掴めた」
バサッと毛布に倒れ込んだ瞬間、その朗報が添えられた。
これに思わずバネの如く反発。上体が再び元の位置に戻る。
「まじ?今どこら辺なのっ」
「レヴァンテイン大陸の"メギド"なる帝国。その辺境と言ったところだろう」
「てーこく…?」
知識としてはあるものの、親近感のない単語を反芻。
「つまるところ運が良い。妾の治めた国、そこに隣接する土地だ」
「良いけど良くないでしょ。おもっきしヤな思いしたじゃん」
正反対の位置だったり、初日で村が見つからなかったり、転移時の座標が海の上だったならば、苦労は絶えなかった。
それが海を渡る必要もなく、長い年月を費やさず移動できる距離間だと言う。非常に幸運なのは違いない。
「ここから馬車などを用い、北へ向かえば一週間ほどで妾の国へ到達できよう」
彼女にとっては朗報。方針を固める上でも、一度故郷に戻るべきだろう。
しかし沙多の進捗は著しくなかった。
これからどうすべきか、何を目指すべきか何一つ分からない。
ヒテンジが掲げた生還という難題が、今自分に襲い掛かっている。
「しばらく妾の側に身を委ねても構わぬぞ?」
行く末に唸っていれば、それを案じた手が差し出される。
ロクなベッドや家具は無く、埃っぽい大きな毛布を寝袋のように体へ巻くヒテンジ。
「う〜ん、最悪そうしよっかな?けど結局は帰らないとじゃん?だからまだほりゅ~」
だが沙多は手を取らず、毛布を包み直して横たわる。
それからまだ話を続けたそうな瞳ではあったものの、それ以上に疲労が出ていたらしい。
数分もしないうちに、寝息を立て始める。
「…まぁ、其方には窮屈であろうな」
寝静まった空間で、その言葉を聞くものは誰も居なかった。
短いので続きは月曜に上げます。がんばります。
今回のパート、ぶっちゃけそんな重要じゃない。けど作者が沙多のヘアスタイル分からないが為に入れました。
今ストレートに下ろしてんのか、ハーフアップにしてんのか忘れる時ある。髪の色も忘れる。
何なら脳内でヒテンジも銀色じゃなくて金色に発光してる時ある。恐ろしや。




