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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
幕間

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63/79

ex.悪魔と魔王さん【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


――拳を振り上げた。


 秘められるのは幾多の命を奪い、地図を書き換えた膂力。相手を屠るには過剰すぎるほどだ。

 彼女からはまるで戦意を感じない。故にどう凌ぐのか気になった。

 防御姿勢を取るのか、反撃に出るのか、はたまた無抵抗に受けるのか。


 躊躇いのない首を狙った一閃。

 そして衝撃を生み出す瞬間――腕がだらんと垂れた。


「これはッ…」


 気が変わった、手心を加えたなどあり得ない。

 確実に穿つはずだった。が、ハナから殴る意思など無かったように力が入らない。

 そのまま腕から先は形を保てなくなり、崩壊。原初の集合体へ戻るように、黒い深淵が散らばった。

 

「…っあ、ぅ……」


 奇妙な事象はもう一つ、少女は唐突に様相を崩した。

 殴られてもないのにもかかわらず、ガクンと首を落とし――周囲に風圧が舞った。


 同時に、ガラガラと音を立てて現れる水晶らしき塊。

 柳のように立つ彼女が、初めて体を揺らした瞬間だった。


「…吾の力を吸い取ったか」


 彼はこの事象を正しく理解する。

 向けられた力の無効化。腕が掻き消えたのもこの影響。 


 そして持て余した力を奔流させ、結晶化。

 己から消えたエネルギーの変換先はこれだと。


「何故己に力を溜めぬ?それでは残滓とて残らぬだろう」


 しかしわざわざ口にした栄養を、胃袋から吐き出すが如き不可解。

 彼からすれば、成長の機会をふいにしたに過ぎない。

 他者を喰らい、自己を宿した悪魔と真逆の行為だった。

 

 だからこそ行為(それ)を否定するように、深淵から自身の腕を形成し、見せつける。

 彼の本質は魔力の塊。肉体の再生も容易い。成長を続け、宿した結果の力だ。


「私は世界を廻すだけの()()。力を得たところで無意味」


 再び彼の感情は動いた。今度は驚愕の方向へ。

 目を見張ったのは返答内容。ではなく、これを口にした彼女の雰囲気。

 今までと違う。虚ろだった瞳には、物憂げながらも意志が宿っていた。


「さりとて私に意思を宿した。お前の力は異質だ」


 淡々と、だがハッキリとした言葉。

 悪魔の魔力を浴びた影響だと本人が述べる。


「興味が沸いた。私はお前に同行し……違うな――私を()へ導け」 


 脈絡もなく同行を打診、と思いきや一気に関係を逆転。まるで従者のように命令。

 不遜な態度を取られたのは、ここ数百年の間で初めてだった。

 

「吾に何の意味がある?」

「願いを叶える。顕現した(それ)に願えばいい」


 口が僅かに吊り上がるまま得を問えば、あっけからんと答えられた。

 さも凡庸な見返りと言わんばかりに、生み出した鉱石を尻目にしながら。


「あれは調和による反動。私には無用の長物」

「ウヌの本質は……世界の受け皿かッ」


 過剰な力を吸収し、発散させる。その意味は秩序を維持する均衡者(バランサー)

 少女が口にした通りに"世界を廻す装置"という役割を担っている。

 まるで人が神と崇める上位存在。全てを管理する権能だ。


「――それも不完全…面白いッ!」


 しかし世界を廻すというならばやや(いびつ)

 他者から力を吸い上げるというのは、収奪者さながらだ。

 今もなお、こうして相対するだけで徐々に力を奪われていくような感覚がある。 

 

 故に、確信があった。

 少女はまだ発展途上。

 やがては、この世に住まう者に影響を及ぼす器へ至ると。


「巨万の富、永久の命でも何でもいい。願え」


 加えて、自我は生まれたばかりで、力の使い方も危うげ。

 一介の存在には過ぎたものを与えようとしている。

 もし、欲に溺れた人が享受したならば、簡単に世界は破滅を辿る事態だ。


「要らぬ。これは()()だ。要するのはウヌの意思。応えるならば付き従おうぞ」

「私に大義を求めるな。いずれ持て余した力により、この身は朽ちる」


 だが彼はこれを拒み、少女の意思を問う。

 すると返された回答に愉快と口を曲げた。


 少女は、世界の為にある舞台装置。

 有するのは、意思など関係なく、生きとし生ける力を奪い続ける権能。

 辿るのは、成長しすぎた結果、世界の維持には過剰となった末の自壊。

 

「ならぬ。この未来、どれだけの時を費やそうと吾がウヌを喰らい尽くし、全てを糧とする」

 

 ならば少女が身に宿すのは、無限大に秘めうる――世界そのものを相手にするようなエネルギー。

 不完全であるが故に、無尽蔵に他者から力を吸い取り、どこまでも膨れ上がる無制限の器。


 この最高の仮想敵を相手に、悪魔が昂らないわけがない。

 

「不可能だ。ただ一つの"個"が私に敵う道理はない」

「ウヌは言葉のみで従わせる腹積もりか?」


 少女は冷淡に否を突き付ける。当然だろう、あまりに次元が違いすぎる話だ。

 しかし彼は、この無理難題を鼻で笑い飛ばし――魔力を高純度の弾として放った。


 飛び散る数は百余り。

 全てが触れた瞬間、辺り一帯を消し飛ばす破壊力。しかし少女の身体に触れた途端、泡沫のように威力を発揮せず霧散する。


 最後に、岩肌に着弾した一つは核反応の如く周囲を消し炭に変え、爆風が二人を襲う。

 数秒して収まった嵐からは、少女はなんて事のないように顔を出し佇んでいる。やはりどんな攻撃も意味を成さない。

  

「…だったら、私が相手をしてやる」


 しかし様子はまた一変した。先ほどよりも、さらに堂々と高圧的。

 ここで彼は確信した。この存在に、自我は少なからず眠っていると。

 でなければ、「外へ導け」など口にする意味などない。


 かつての物言わぬ人形状態は、いわば世界の意思そのもの。

 何万何億はくだらない数の生命を吸収した結果、世界を代弁する統合した自我。個としての自由も主張も無い。


 今しがた少女としての一面が現れているのは、彼の魔力に晒されたのが理由だろう。

 現に悪魔さながら、気質を色濃く反映した意思が顕現している。

 

――ならば更に強力に、一つの個が少女に力を捧げばどうなる?

 おそらく、身に余る力によって封じられた自我が、世界の維持に必要の無かった『少女』という意思が顕現する。


――それは可能であるか否か。

 全ての命を統一したとて人格が切り替わらないほどに、少女を色濃く染め続けられれば可能。

 

 世界を思うなら、少女という個は必要ない。世界の調和と存続を願うなら、ここで天秤を傾けない方が賢い。


――しかし今、この性合いの方が遥かに面白い。 

 そう暴君らしく滅茶苦茶に、結論を出した。

 

「クハハハハッ!!面白い!吾を敬服させてみよ!」


 悪魔は迷わずにその闘争に身を興じる。

 

「容易い。…そうだ、次から私は『ル・シファル』と名乗るとしよう」

「ム?何故に呼称を必要とする」

「主君の名は把握しておくべきだ」


 既に勝った気に、従えさせた気になっている少女。

 ニヤリとした傲慢な笑みに、悪魔はさらに愉快と高笑う。

 年端も行かぬように見える少女の表情は、あたかも魔王が降臨したようだった。


「代わりに、私もお前の名を呼ぶ」

「吾に名など不…いや、人間により付けられたものはあったな」


 それは外界に進出して長らく、無数の国や里で暴れまわった末の称号。

 蠅のように幾多に集る魔力の集合体。そんな暴君を現した名が――ベアル・ゼブル。


「長くはないが口にしにくい」


 これを聞いた少女は微妙と眉を曲げた。そして数秒だけ思考の海に入り、解を出す。


「…そう、じゃあお前を『ベル』と私は呼ぼうか」

「何とでもするが良い。吾は名に拘りなどせぬ」


――――――

――――

―― 


 そうして数日後、二人の居た場所は形を変えていた。

 戦闘により洞窟は倒壊。生態系にすら余波が出る残滓を刻む。

 周囲の大地は潰れ、巨大隕石が堕ち、大穴が空いたかのように光の届かぬ陥没が深淵に染まっていた。


「行くぞベル。私を連れ出せ」


 やがて、『ル・シファル』は以前よりも凛々しく、毅然とした表情で旅立った。

 それから数年以上もの間、少女の意思は様々な場所を巡り、やがて『魔王』と呼ばれるようになった。


名前だけ擦られてた「ル・シファル」との出会い的な何か。

世界が滅んじゃうほどの強い力とか、異常事態に対して働く免疫機能みたいな存在でした。


こう考えるとベアルが従うまで即落ち二コマ。

どんだけ悪魔が強くなろうと、ル・シファルがその力も吸い取って強化されちゃうので、イタチごっこで勝てないやつ。

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