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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
幕間

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59/59

ex.悪魔と魔王さん【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


次回も金曜更新です。ストック余裕なくてほんと情けない。話が進まない。

なのでシュウトにはしばらく凍ったままでいてもらいます。


 ()()は、突如と地下の空間に生れ落ちる。

 輪郭などなく、まるで闇そのもの。虫の集合体が如く幾千、幾万が合わさった"何か"だった。


 やがてそれは、起立も歩行も出来ない古代生物が、自力で地上へ進出するまでの学習過程(アルゴリズム)を辿るように一つの腕を造形。有り余るクラスタの身体を引きずり、暗い洞窟を右腕のような影で這い回る。

 ザリザリと地面が己を削ろうとも気にせず、痛覚すら存在しない。聴覚や視覚といったものさえ持ち合わせていない。

 だが、力だけはあった。


 己の身体に何かが触れた途端、その右腕は勢いよく反射し、薙ぎ払う。

 奇怪な見た目に反し、破壊力はバツグン。扇状にクレーターが出来上がった。

 

 すると、その集合体は経験値を得た。

 屠った外敵を参考に、自身の構造を変化させる。

 幸い学習相手には困らなかった。

 数分と経たず、新たな接触を感知し、屠る。また反応があれば屠る。そしてさらに屠る。


 これを飽きるほど、何百万何千万と繰り返せば、やがて両腕を揃え、胴を持ち、両足を生やした――人の形になっていた。


 だが相変わらず歪な様に変わりはない。

 出来上がった面体は、のっぺらぼうな虚無の深淵。


 しかし、意思は宿った。

 何を思ったのかこれまで以上に苛烈に徘徊し、接触の回数を増やし、やがて、その人もどきは一度の敗北も無く学習を終了。

 この時には徐々に姿形を肥大化させ、四、五メートル級の集合体となっていた。


 大きさも機能も人とはかけ離れたキメラさながらだが、より人型へ近しく擬態を昇華させていく。

 とはいえこの段階へ至るまで二百年余り。膨大な時を費やしてもまだ足りない。


 次に進化させた"感覚機能"を用いて、()()を探した。

 己のように深淵が象り、形を成している何か。かつての虫の集合体のように、目的も意味もなく這いまわり、接触する何かがあれば反射で暴れるのみの同類を。

 ただ、極めて稀に、何かの音を発する個体まで居た。

 流暢な個体から、カタコトの個体、もはや呻きを発するだけの個体など様々。


「ア■…◆…□…□ワ…◇レ…■」


 後にそれを言語と学習。全て淘汰し、糧とした。

 だがサンプルが足りない。

 故に、()へ向かった。

 討ち取った同類から得た経験値、有した認知が自身へ流れ込み、自分がどういう存在なのか、ここが何処なのかは、大まかなれど理解出来ていた。

 だからこそ別の生命体――人を糧にすべく、巨躯の人型は動いた。

 

 地下に根差した、まるで一つの街が入るほど空間が開けた洞窟。

 そこから出口へ向かうと、渓谷の上方に広がる青藍の景色。

 これが”空"だと学習する寸前。外へと出る十歩前で――影を捉える。


 巨躯の脚はピクリと止まった。

 見つけたのは、ただ茫然と佇む少女。

 己や同類のように模倣し、変異したのではない。最初からその姿形、既に完成している存在だった。


 しかし決して、学習対象の、人なる種族ではない。それほどに異質だった。

 溢れ出るのは力の奔流。まさしく、理外の何かを宿した超常的な存在。


――そして何より、もぬけの殻だった。

 虚ろに、微かに垣間見える空を眺め、微動だにしない。

 これに巨躯の人型は観察を続けた。時間にして十日ほどぶっ通しで。

 

 だがやはり指先一つ、まばたき一つの動きすらない為、やがて飽きが来た。

 意味はないと捨て置き、外界へ進出した。


***


 まず浴びたのは、畏怖と恐怖。

 

「バ、バケモノ…ッ!!」


 形だけは人型。しかしそれ以外は蠢く闇によって構成された、ノイズのような何か。加えて背丈は巨人並み。

 これに初めて邂逅した者は、腰を抜かす。

 山を越え、海を渡り、土地を変えても、威圧に耐えられない。人間であろうと、亜人であろうと本能から這い上がる忌避反応。

 どこへ赴いても同じだった。見る者全てが滑稽なほどに逃げ出す。

 ただ、これではサンプルが集められない。無尽蔵に湧いてくるあの空間とは比べ物にならない学習効率の悪さだった。


――――――

――――

――

 

「あ…悪…魔……っ」

「悪魔…?違うな、吾は()()()()()だ」


 故に、言葉の学習を終えるまで、長い時を要した。

 ロボットのようにツギハギな言葉を経て、数人が同時に喋っているような口調の不安定さを経て、いくつもの文献を参考にし、会話が可能になる頃には――世界全土に存在は知れ渡っていた。


 それは同時に、恐怖の象徴と化した。

 人には理外の破壊力を身に有し、どこに現れるか分からない神出鬼没で目的不明。

 学習の為に命を糧とした彼は、国を挙げた討伐軍すら頻繁に寄こされたほどの厄災となっていた。


 最後の兵士。文字通り全滅に至るラストピースを屠った彼は、その呟きに流暢に返す。

 言葉だけでなく、もはや造形すら完成されていた。


 キメラのように歪なパーツは人間と瓜二つに、体躯も二メートルを超す程度まで随分と縮小した。

 ただ、存在の禍々しさは抑えきれない。

 錆びた血の如き体表から覗く屈強な体と、戦慄させる魔力だけは、擬態で誤魔化せない不得手らしい。


 とはいえ、学習自体は終了。目的を失った。

 本能だけの時代から叫ぶ本懐を遂げたのだ。退屈が悪魔を襲いつつあった。

 唯一、これを紛らわすのは闘争心のみ。触れるもの全てを屠る"暴君"として、さらに悪評を轟かせる。


 それでもやはり退屈だった。

 外界から世界へ君臨して数十年。血にまみれ、鉄の匂いを漂わせたまま浮浪の徘徊を経て、悪魔は遂に己が生れ落ちた場所へと舞い戻る。


――――――

――――

――


「ム…?」


 大口を開けた歪な大洞窟。暗闇で満たされている内部へ入れば、首を傾げ喉を唸す。


――少女がいた。

 それも十年前、あの時見た位置と寸分違わぬ位置、姿勢のまま。

 相変わらず枯れ木のように、ただ儚く立つだけ。

 しかし背丈は変わっていた。


 学習を経た今ならば分かる。

 外見は人間の平均よりやや幼め。成体か、その直前付近。

 地面まで優に届くほど伸びた薄桃の長髪。

 つまりあの頃に比べ、肉体が成長している。


 とはいえ再開には空白が、普通の人間なら赤子から老人になるまでの期間がある。時相応ではない。

 

「何をしている」


 興味はあったが、返答など期待していなかった。言葉を投げたとて意味はない。

 前のように無反応と括っていた。 


「――ただの魔力が、自己を形成…」


 故に、全く動かない唇から響いたそれを聞けば、初めて悪魔の感情が動く。

 おまけに人ならざる自身の本質を、即座に見抜いた。

 微かな、それでも力強さ灯した声音に、愉快という色を知覚した。


 一目見た時から、少女の圧倒的な力量は悟っていた。

 そこから何年も経た今、あり得ないほど膨れ上がっている。


 あの頃ならば学習対象ではないと無視した。

 だが今は、喰らいたい。

 目的も意味も無しに、この存在を平らげ、糧としたい。

 そんな衝動が襲い――拳を振り上げた。


出生はどちらかというと、世界に漂う精霊的な成れの果て。

なので悪魔というより妖精です。筋肉モリモリマッチョマンの妖精。


この頃のベアルは服着てないし、当然風呂にも入ってないです。不潔。

ちなみに山吹色の髪は、無数の触手が進化したもの。元は腕の役割だった機能の名残。


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