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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

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8.飛天の唄の旅立つ先には【章末】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


――『世界の結び、その破壊を確認』


 死化粧すら必要ないほど綺麗に目を閉じているヒテンジや、氷の中で足掻くシュウトを他所に、無感情に頭の中に響く。

 ヒテンジが生涯聞くことの叶わなかった天恵による声だ。


「…やっぱお姉ちゃんだ」


 二回目となるその声音に、姉の存在を感じ胸が暖まる。

 同時に、恒星のようなオーブが宙に漂っていた。  


 ヒテンジが宿していた天恵が三つ、そして彼女自身の天恵が一つ。これで四つ分の天恵が揃った。

 それらを全て貰い受ける沙多。今ならばどんな望みも叶うだろう。

 ともすれば、沙多本来の願いすら実現しうる。

 

――いっそ裏切ればゲームセットだ。

 ここで「姉に会いたい」と口にすれば全て終わるかもしれない。

 しがらみや後処理は面倒くさいが、知ったことではない。


 そういった選択肢が、もちろん彼女の脳裏にある。それも優先順位が高く。

 しかし一位ではない。

 

後ろ(シュウト)うるさいし、とっとと叶えちゃお) 


 正直に言えば、相手がどうでもいい存在だったならば、ここで終わらせていた。

 だが遺志を託し、託された身体はヒテンジ。彼女の美貌と魔性によるものかはあずかり知らぬが、好ましく思っている。

 故に、浮かぶ光球に面と向き合った。 


――『変革者、明野 沙多(あけの さた)


 変革者という単語を聞くのも二度目。その意味は不明だが、沙多にはどうでもよかった。

 後は実際に言葉にすれば解決で…――


「なっ…」


 驚愕に漏れた声、しかしそれは沙多のものではなかった。


『…相羽 宗仁(あいば しゅうと)


 次いで、響いてくる討伐者の名前。

 そこには宗仁(シュウト)の名も加わっていた。

  

「はっ何でっ!?」


 聞き違いでもない。確かに彼の眼前にも、オーブは悠然と浮かんでいた。

 両者が予想しなかった事態。

 宗仁(シュウト)は呼吸を止め、沙多は息を唾ごと吐き出す。


「まさかっ…」


 嫌な予感のまま、袖に隠れたヒテンジの手を捲る。

――するとそこには、一筋の傷跡があった。


(やば…ッ、ちょっとだけなのに…)


 おそらく、最初に投げられたナイフを躱した時だ。

 沙多が避けたそれを、ヒテンジは右手で振り払った。

 その際に、擦り傷として生まれたのだろう。

 

『望む天恵を聴取』


 最後に頭の中に響く声は、平常にそう締めくくる。

 誰もが気付かないほど極小と言えど、傷は傷。天恵という報酬は彼にも分配される。


 功績からして、権力は沙多に寄るだろう。事実、オーブの大きさは沙多に明確な分がある。

 しかし二人の願いが相容れない事など明確。

 瞬間、お互いにいち早く願いを告げようと焦って声を張る。


「――ヒテンジを治して!元の世界に帰してっ!!」

「――絶対に行かすなァッ!」


――『承諾。天恵を付与。世界の中核へ接続…』


 一人は初志貫徹の意を宿し、一人は憎悪から涙を流す。

 同時に届いた反する叫び、それを聞き届けた天恵は――

 

――『接続失敗。権限が不足。権限が不足』  


 失敗した。

 沙多の肩がビクンと揺れる。

 その感覚を忘れていない。無慈悲に突き放され、キュッと胸が引き締まるような寒気。


――『天恵の機能が欠落。天恵の機能が欠落』


 すると不可解なメッセージと共に、唄が流れ出した。

 天恵の声質と同じ、姉を彷彿とさせるそれが旋律を奏でれば――共鳴するように魔法陣が出現。次いで暗闇が召喚された。


「なん…これ…」


 沙多の眼前、いや、死を迎えたヒテンジの上に出現した霧のようなそれ。

 まるで意図と正体が不明だった。


 宗仁(シュウト)の願いだけ叶ったのなら、こんなものは必要ない。天恵は何もしなければ済む話だ。

 しかし沙多が優先された様子でもない。『機能が欠落』という不安になる言葉があった。

 欠落(それ)を言葉通り受け取るなら、願いの何かが無効になった事を表している。

 

「――っ!最ッ悪!!」


 次の瞬間、沙多は霧へ向かって手をねじ込んだ。

 

「絶対こんなのッ、生き返る雰囲気ないじゃん!!」


 根拠も無く暗闇を掻き分けるが――感触がない。

 触れるはずのヒテンジの身体が、忽然と消えている。


 命を蘇らせるのに、こんな事象は必要ない。

 ならば、残された願いは――ヒテンジを元の世界へ帰す事。


 二人の願いがぶつかり合った結果、効力は対消滅。

 一部のみが実現してしまった。

 沙多が顔を歪める通り、起こりうる可能性でも最悪のケース。死体が元の世界へ送られるだけに終わった。


 これから先、何度かレアエネミーを倒し、姉を探すことだろう。

 中には強欲な手掛かりを要求し、このように失敗、あるいは不完全に終わるかもとさえ思っている。

 その場合は「まあ、そうなったら仕方ないか」と割り切れる。


(あ、ヤバ…これガチでダメなやつ)


 だが今、この瞬間だけは失敗してはならなかったと、全身が毛先まで騒めいてしまっている。

 

「ヒ、ヒテンジ様…あ、ありえな…」


 とはいえ運命は確定した。

 暗闇は既にヒテンジの体を包み、どこかへ霧散しようとしている。

 今この場で、沙多にも宗仁(シュウト)にも、現実を受け止めようとられまいと、出来ることは何もない。

 ただ、永劫の別れを見届けるしか許されず――


「――じゃあ行くっきゃないか」


 刹那、沙多は飛び込んだ。

 逡巡する間もなく暗闇に身を投じ、ヒテンジの体のあった場所と重なるように包まれる。

 今この場で出来ることは確かにない。


――"なら、異世界(あっち)で頑張る"


 それが彼女の出した結論だった。

 トプンと黒い雫が跳ねるのも気にせず中へ入れば、視界と意識が暗く沈み始め、閉ざされる。


「…ぁ……様……」


 間もなく、暗闇は完全に消えた。

 元の場所にはヒテンジも沙多の姿も無い。まるで壊れたテレポート機能を使用したよう。


 ギルドに残されたのは、言葉にならない呻きを溢す一人のプレイヤーのみとなった。


このゲームのプレイヤーは、天恵とかの演出が完全に終わるまで慎重に待つ人が多い傾向。

ちなみに演出終わるとヒテンジだけ向こう側行ってそのまま死にます。


なのでゲームとかで演出ムービーかな?とか思って敵の攻撃とか喰らった事ある人はここで脱落です。僕も脱落します。


異世界の匂わせ散々ありましたけど、あんま掘り下げないです。メインの展開はゲーム側なので。異世界スキーには申し訳ない。

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