表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/59

7.飛天の唄に並べるゴール【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「――ヒテンジ様ッ!!」 


 彼女の言葉が放たれた瞬間、一瞬の間も許さずにシュウトが声を荒げる。

 口を噤めという命令、絶対たる言い付けを破ったのは初めてだった。


「何を言うのですかッ!!その為に俺をッ……決別させる為に俺を呼んだというのですかッ!!」


 怒声は空間を揺るがし、隣で聞いていた沙多をフラつかせる。


「そうだ。これが最後の一振りである」


 一方、彼女は冷静に着物の懐から四本目の刀を取り出した。


「名を"ヒテンジ"とした。妾の名を最後に冠した余り物よ」


 "カナン"、"ミズクメ"、"レヴァンテイン"を作成した際に、余った材料で叩き上げたという小さい刃。

 敵を切り捨てるほどの刀身も無く、完全に胸に突き立てる自刃以外の用途は無かった。


「俺は納得できません!俺は貴方に全てを捧げてきたッ!その結果がこれだなんて…」

「というかさ、殺したら()()()()()んだよ?」


 ツンとした音色で、純粋な疑問が飛ぶ。

 慟哭する彼とは対象に、沙多は落ち着いていた。


「もし元の場所に帰れても、死体だけ行くんじゃない?」

「それこそ賭けよのう、同時に肉体の回復を願う他あるまい」


――三つの天恵だけを使用し、無傷のまま生還を願う。

――あるいはヒテンジの存在も勘定に加え、その分願いも一つ多く加える。


 確かに願いを欲張れど、天恵の質は後者の方が高そうに思える。

 しかし彼女の存在価値に絶対の保証は無い。

 まさしくピンキリ。悪手の可能性もあり得る。

 変な工程だと沙多は唸った。

 自ら傷ついてまで、不確定要素を増やすのは何故かと。


 その視線を察したヒテンジは、己の肘から下が機械仕掛けの左腕をさすった。

 

「こればかりは妾の我儘でしかないな。戻るのであれば、傷に(まみ)れた過去を清算したい。その浅ましさも含まれておる」

 

 ペタンと残った片耳を伏せる。それは人目を忍ぶようだった。

 欠けた右耳と左腕、そのどちらも切り落とされたように残る古傷があった。


 『ルシフェル・オンライン』で受けた傷は、回復さえすれば再生する。

 つまりこれはゲームへ転移する以前、元の世界で受けた傷だ。


「して、結論を問おう。どちらかが…妾の望みを叶えてくれるか?」

「俺はっ…俺は出来ませんッ!!」

「…そうであろうな」


 とはいえ計画を練る中で、薄々気付いていた。

 もし事情を打ち明けたとて、彼が承認することは無いのだろうと。

 

「ヒテンジ様を傷付け、その結果居なくなるなど…ッ」


 崇拝する対象の殺害など、誰より心酔する彼にはことさら荷が重い。

 シュウトは瞳孔が定まらないまま拒んだ。

 本来なら、この時点で計画は頓挫。達成が不可能になるが――


「――じゃあアタシがやる」


 沙多が無情に声を上げる。

 修道(シスター)服を揺らし、コツコツと靴音を鳴らしてヒテンジへと歩く。

 

「ここへ呼んで正解であったな。其方との出会いは僥倖であったな」

「なんでアタシだって思ったの?」


 招いたのは刃を突き立ててもらうため。

 僅かな付き合いにもかかわらず、沙多を見出し、その大役を委ねた。


「前に口にしたであろう。其方は魔王を――"ル・シファル"なる存在を想起させる」

「ル・シファル……」

 

 よく悪魔が口にする尋ね人の名。

 未だ人物像が掴めない、沙多には謎の存在だ。

 唯一分かる情報は『お姉ちゃんじゃない』という一点のみ。


(てかベルにも似てる的なこと言ってたな)


 それこそが計画を実行した経緯だと言う。

 全貌をいまいち飲み込めなくとも、沙多は差し出された小刀を握る。

 間もなく、シュウトを置き去りに、本懐は達成されようとしていた。


「――ふざけるなアァッ!!」


 刹那、ナイフが投じられる。

 既視感のある背後からの奇襲。

 だが嫌な気配を察したのか沙多は寸前で回避。

 ナイフは流れ弾として奥のヒテンジへ向かうが、彼女も右手で弾き、床に金属音が転がり終わる。 


「ぽっと出の貴様にッッ!ヒテンジ様をっ……ヒテンジ様の行く末を決める権利などあってたまるかァッ!!」


 激昂のままに吠えるシュウト。投擲した手が震えるも束の間、爪が食い込むほど堅く拳を握った。

 インベントリから別の凶器(サブウエポン)を出し、瞬時に詰め寄る。

 沙汰も反応するが、この距離感は魔法を主力とする(ジョブ)に不得手。

 間合いは数メートルしかなく、何も出来ず気絶させられた嫌な記憶が蘇る。


「――待て」


 すかさずヒテンジは、冷静に言葉を投げかける。 


「ゥグッ…!?」


 それが耳朶を打てば、シュウトは本能に刻まれたように硬直。


「――ァア"アアアア"ッッ!!」


 だが執念で振り切った。

 慟哭のように聞こえる叫びが鳴り響く。

 一方で、同じくヒテンジの声を受けた沙多は――僅か一瞬の怯みもなくスキルを発動。


「【絶対零度(ウラヌス)】!」


 杖を振りかざし、氷の結晶を展開。

 内一つが彼に接触した瞬間、氷漬けにした。


「貴ッ、様アアァァッ!!」


 警戒した固有スキルを持つ銃ではなく、単純なスキルで先手を取られた。

 狙撃という直線的な射線ではなく、面での包囲網。

 首から上は辛うじて凍結を防いだものの、身動きは封じられた。


「自分がこれから何をすんのか分かってんのかッ!殺すんだぞ!?ヒテンジ様を!!」 

「ちゃんと分かってっし、アンタらみたくポンポン自殺できる人よか感性死んでねーから」


 心外と頬を膨らます沙多。

 動けない彼はもはや視界に入れず、小刀を受け取った。


「けどさ、どうしてもってんなら、アタシもやれる事したげるだけだし。これでも、結構好きでリスペクトしてんだからね?」


 優先順位をはっきりと付けている沙多。

 これにヒテンジは面白そうに肩を揺らし、薄く笑みを溢す。

 次には舞踏会のように、お互いが向き合って手を取った。

 

「一つ違っておろう。其方も到底平常とは言い切れまい」

「…?ガチで言ってる?」   

「其方の心音はまるで揺らいでおらぬぞ?」


 ヒテンジは沙多が手に握る小刀を上から包んで誘導。エスコートさながら目を細める。

 今から人を殺めようという中、その刃先は震えずに安定していた。


「おい、や…やめ…」


 シュウトが絞り出した言葉も届かない。

 右手で自身の心臓、その真芯へ運び――


「ここだ、刺せ」 


 そう囁いた数秒後、"ヒテンジ"と銘打たれた刀身に血が滴った。


「やめてくれエエェェェッッ!!」


 彼の叫びも虚しく、ドサリと倒れる長身。

 美しく仕立てられたドレスと、美貌に溢れた顔は赤く汚れた。


――『世界の結び、その破壊を確認』


 そして、遂に"声"が響き渡った。


まあ人を殺すってかエネミーを殺したんですけどね

処理がエネミー側なので、沙多のカルマ値は増えてません。依然ゼロです。変わりなく。

ちなみにヒテンジはレアエネミーの中でも質がいい方なので、大抵の願いは叶うほどの強力な天恵が発生します。過去改変とかもギリギリいける。


話のストックがあまりに無いので次回更新は金曜です、お許しを。ポケモンも発売したのにどうすんだこれ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ