6.飛天の唄と辿るパーパス【後編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
続きは水曜ににでも
「珍しいじゃん、"いやだ"って言うの」
再び場面は城下町。
撤去されたテレポート装置が押しやられた倉庫内へ帰還した。
しばらく使用してなかったからか、転移後に埃らしき黒いモヤが噴出したことは置いておく。
「あの人の命令は絶対!みたいな顔してるくせに」
「…黙れ」
ヒテンジの待つ本殿までは少し距離がある。その間、沙多の口は閉じなかった。
同時に、無機質な視線も混ざっている。
「確かにさ、従いたくなる気持ちも分かっよ?めちゃ美人だし。でもさ、なしてそこまで必死なワケ?」
それが恋情でもないことは分かっている。
だからこそ、他の面々よりも鬼気迫る様に違和感を訴えた。
「――黙れっつってんだろうが!!」
とはいえ踏み込みすぎたらしい。
沙多を振り払い、そのまま首を掴みドンッと壁まで叩きつける。
「一体何が分かるってんだよッ!!薄汚い貴様がッおいそれと近寄るなァ!!」
「…は?なにそれ、嫉妬?」
しかし彼女も引き下がらない。
首を絞められ、呼吸も満足に行えない中で、理解できないと挑発すらした。
それに神経を逆撫でされたのか、彼はナイフを召喚。眼前の心臓目掛け、刃を突き立て――寸前で停止。
ヒテンジの命令を優先した。
「…アタシ、やっぱアンタ嫌いだわ」
解放されケホケホと咳き込む沙多は、結論をハッキリと告げる。
自分の中で、彼との何が相容れないのか明確に知覚したようだ。
「チッ…同感だ。全く同じ言葉を返す」
そこで会話は途絶える。
一言も交わさないまま、静かに聳える城へ向かう。
二人の間に流れる空気はお通夜のようだった。
――――――
――――
――
「――ふむ、来たか」
襖を開ければヒテンジが居た。胡座から片膝を立てた姿勢。
もしここに酒瓶でもあれば、さながら飲んだくれの格好だが、そんな所作すら妖艶な絵となっている。
「ねえねえ、なしてアタシら呼んだの?」
律儀に片膝をつくシュウトに代わり、飛んだ沙多の質問。
ヒテンジはそれに答えずに視線を促す。
そこには通信用のアイテムがあった。
「鑑賞ついでに語るとしよう――」
景色が映し出される先はもちろん、討伐班の様子だ。
沙多やシュウトがいた湿地帯や、ベアルの地下迷宮などが珠玉に浮かび上がっている。
そして数分もしないうちに、遂に各グループが突入。レアエネミーの出現する区域へ踏み込んだ。
すると三種三様のレアエネミーが姿を現し、必然と戦いの火蓋が切って落とされる。
「――妾の本懐は"元の世界への生還"。その為に天恵とやらを欲したまで」
開戦と同時にヒテンジは、目的を初めて他人に明かした。
誰も知り得なかった胸中を、長らく仕えた部下と――先日出会ったばかりの沙多に。
「元の…生還…?ヒテンジ様、一体何を…」
瞬間、彼はクラっと重心が歪む。世界の終わりのように、言葉すら詰まった。
「あぁ、其方は気をやっておったな。妾の居場所は此処では無いだけの話よ」
「――それは知っていますッ!あの時動けなくとも意識はありましたッ。しかし何故それを俺に伏せていたのですかッ!何故このガキには容易く打ち明けたのですかッ!!」
感情が吠えるまま唾を飛ばす。
敬愛する主君を前に、自制が効いていない。
指を差された沙多は、だから機嫌が悪かったのかと他人事のように納得する。
「今はそれに触れる時ではない。妾が良いと告げるまで口を噤め」
しかし理由は後回しとその美貌で遮られれば、従い絶句するほかなかった。
「話を戻そう。かつて妾は連邦の内一つを治める長であった。…まあ、この『げぇむ』とやらに呼ばれるまでの話であるがな」
語るのはここではない世界の話。
タマモという最大級のギルドを束ねていたように、元の立場も首領であったようだ。
懐古する彼女は、自嘲するような顔を作る。
「呼ばれるってどゆこと?ベルみたく自分で来たんじゃないの?」
手段は不明だがベアルさながらの背景――何か叶えたい目的があって、ヒテンジは『ルシフェル・オンライン』へ辿り着いたと沙多は勝手に思っていた。
だが、わざわざ別世界から訪れた挙句、願うのは帰還。
マッチポンプの如く、無意味な行動だ。
「そこに妾の意思は無い。突如とこの世へ連れ込まれたのだ。残された民からすれば、さぞ神隠しのように見えただろう」
「は…ッ?じゃあVRでログインとかしてないの!?」
「ぶい…あぁる…とな?」
コテンと首を傾げるヒテンジ。その反応で、ようやく沙多は思い違いに気付く。
ベアルは自らの意思で現実世界へ渡り、VR機器を入手してから、ようやくゲームとしてログインした。
だが彼女は真逆。意思に関係なく不本意に、現実からゲームの世界へ直接放り込まれた。
「うっそぉ…そんな事あるん…ってか、じゃあ死んだらどうすんのっ?」
「何を申しておる?生き物など、死すれば何も残らぬだろうに――…あぁ、其方らは異なるのだったな」
彼女にとって、これは地続きだ。
娯楽ではなく生涯の一部。故に"生還"という言葉を用いた。
(ルタっちみたい…)
この世界に生きる友達を思い出すも、あくまで類似例。本質は異なる。
ゲームーオーバーとなれば、金や記憶を失うのではなく――完全な死亡。
「故に、願いの権化である『れあえねみぃ』とやらを耳にすれば、血眼となりその首を狩ったものよ」
まさしく命懸けのゲームプレイ。ヒテンジは目を瞑り、軽く息を吐いた。
一方、眼前のアイテムは淡々と景色を移し続けている。
戦局はやや劣勢の中盤。数名が文字通り血反吐を吐き、泡沫となって消えていく。
「ってか倒したん?じゃあ願い叶えられたんじゃないの?」
早々に手を顎へ当てる沙多。
レアエネミーを倒し天恵を得たならば、既に故郷へ帰っているはず。
だが彼女はまだこのゲームにいる。
「サタよ、其方は天恵を得た経験はあるか?」
「うん、一回だけ。頭ん中に声が聞こえて、光の球みたいなのが出てくるっしょ?」
それはベアルと知り合って共にゲームを始めた初日。
忘れるはずも、見間違えるはずもない光景だった。
「左様か…。――しかし、妾には何も起こらなかった」
「…んえっ、なして!?」
語るのは、天恵の不発。生還に至れなかった起因だ。
沙多はともかく、これに考察好きのプレイヤーならば、まず理由を推察するだろう。
考えられるのはレアエネミーの質が悪く、天恵の力が及ばなかった可能性だが――
「確かに光玉は顕現した。されど妾には声など聞こえず、その輝きに触れたとて、兆しなど見えず仕舞いよ」
だがヒテンジは、それ以前の問題。
願いを問われすらしなかった。
プレイヤーの誰もが経験したことがない未知の事例だ。
「以後、何度か『れあえねみぃ』を討ったものの例外なく同じ始末。故に悟った――」
それは目尻を下げた、妖艶さとは別の儚げな表情だった。
「――妾は人と見なされていないらしい」
ちなみにシュウトの年齢は22歳。留年してます。原因は言わずもがなヒテンジ。
関係ないけどナンパしてたアカシックの新入り男と同じ大学です。あいつは19歳。
最近ペルソナにハマって二週間近く一文字も書けてない。もう話のストックが無い。
なのに分割で投稿の頻度さらに増すとかほんと信じられない。助けてジョーカー




