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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

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5.飛天の唄に与するチップ【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 当初の計画は二人が加入したことにより、変更点が少々あった。

 現在、タマモの面々が進むのは湿地帯。ドロリとしたぬかるみや、複雑に根を張った植物が鬱陶しいことこの上ない。


 沙多はその進軍に混ざりながら、周囲を観察していた。自分以外が腰に携帯する武器が気になるらしい。

 とはいえそれらは、ただの量産品らしき小刀だ。


 次に、隣で歩を同じくする例の部下――シュウトを見やる。 

 彼の腰には他よりも刀身が長い、もはや太刀と呼ぶべき物があった。

 それこそが"カナン"と銘打たれた一振りだ。

 

「…ンだよ」

「別になんでもないで〜す」


 しかし相変わらず仲は険悪。

 誰とでも親しみやすい沙多にはとても珍しい。

 おまけに、他のメンバーとも交流してみたが、こちらも感触はイマイチ。


――お前と会話する気はない

――それで?それに何の意味がある

――時間の無駄、関わらないで


 返ってくる言葉は、どれも疎外感のあるものだった。

 沙多は「アタシ嫌われてる?」と口を尖らせる。とはいえ落ち込む様子は無く、道中が暇になるな〜という感想のみ。彼女も彼女で図太い神経をしている。

 これらの冷たい態度は、沙多が侵入者だった弊害もあるだろうが、それだけが理由ではない。


――端的に言えば、熱量が違った。

 彼らが口にする内容は、ヒテンジから賜った任務や、彼女本人のことばかり。

 洗練された兵隊の如く、与太話には目もくれないのだ。

 

「――エネミー接近!約十八体!」


 やがて深く立ち入る中、警告が響く。

 見れば、巨大なトンボや蛙に蛇。それらの環境に適応した生物が、大群として立ち塞がった。

 

「手を出すなよ、部外者」

「言われんでもおとなしくしてっし」


 本来ならば構える場面。だが沙多は両手をだらんと下げている。

 敵を前に動く気はないようだ。というよりも、"タマモ"のプレイヤーが横槍を拒んだ。

 

「――前衛っ展開!警戒、九〜三時方向!」

「――魔法隊、チャージ完了まで残り四秒ッ」

「――俺の合図でスキルを撃て」


 シュウトが指揮を取りながら整えた布陣。

 大人数にもかかわらず、一糸乱れぬパーティプレイは流石トップギルドと言ったところ。

 展開される足並み、熟練の対応に、沙多は素直に舌を巻く。


「…こうしてみっと、やっぱゲームなんよなぁ」


 やがて、久しい感想が溢れた。

 統率されたとはいえ、服装や役職はバラバラ。

 そんな彼らが、エネミー相手に超常の力をぶつける様が広がる。


 コスプレ会場の如く個性が入り乱れる非現実と、痛みや金銭が共生する現実感。 

 最近は特にゲーム離れした事情や感情に首を突っ込んでいたのも相まって、前者の純粋な感覚に引かれてしまう。

 

(ベルもいないし…なんか、全然違うな)


 加えて、ベアルとは別行動を強いられている。

 彼が隣に立てば、この世界がゲームであることを忘れてしまうほどの緊迫感を肌で感じた。

 しかし、今は居ない。

 まるで出会う前の淡白な、孤独でつまならかった頃の景色と重なった。


「てかベル…上手くやれてんのかなぁ」


 そして、己よりも人付き合いに問題がありそうな悪魔が妙に気になった。


「シュウトっ通信器(あれ)貸して!」

「なっ!?勝手に連絡体制を乱すんじゃねえッ」


 強引に彼が持つ珠玉を拝借。

 指揮に夢中な横から掠め取り、抗議も無視して魔力を流せば、まるで占い師が映し出すかのような景色が映る。

 ハンドボール大のそれを覗き込めば、そこにベアルは居た。


 辺りは暗く、深い地下の中。

 囲うのは土ではなく漆黒の石壁。

 何層にも仕切られた人工的な建物。

 

――いわゆる地下迷宮(ダンジョン)に潜っていた。


***


「ヒテンジ様より聞いていたが…これほどとは…」


 いの一番に進むベアルの後を"タマモ"の面々は追う。

 悪魔の足取りに不安は無く、ただ一直線に突き進む。

 一方で、これに続くギルドメンバーは挙動不審となっていた。


「フム、随分と退屈であるな」


 脅威を全てノーダメージで受け止め、埃を払うかの如く粉砕していく。

 強者であるはずの彼ら。だが出番は無く、エネミーの残骸を辿るだけの現状に動揺を隠しきれない。


「班長…本当にここが最難関なのですか…?」

「…あぁ、前回は唯一この迷宮のみ攻略に失敗し、計画は延期された」 


 初参加であろうプレイヤーが呆気なさに怪訝な顔を作り、班長(リーダー)も汗を流す。

 ヒテンジに魅入られたとて、この暴力っぷりには情緒が介入せざるを得ないらしい。


 現在、チームは三つに分かれている。

 一つは沙多が属する湿地帯。

 一つはベアルが属する地下迷宮。

 一つは二人と無関係の、別の場所を攻略するグループ。


 余談だが、二人へ特に強い反感を持つ者は、角が立たぬよう三つ目に組み分けられている。

 例外は沙多と同じ班のシュウトと呼ばれるプレイヤーだけだ。彼は沙多を怨敵の如く見つめている。


「銀狐の(しもべ)よ、次は何処を目指せば()いのだ?」

「…次は反対側のエリアだ。そこに三つのスイッチが隠されていると我々の調査で判明している」


 この地下迷宮は謎解き要素が色濃いのか、仕掛けが数多くあるという。

 現在は、先へ進むための隠し扉、その解錠を試みている最中だ。 


 難解な問題に、暗く狭い空間で突如と襲ってくるエネミー。

 逃げ場はなく消耗戦は避けられない、ストレスも尋常ではないだろう。最難関というのも頷ける。

 班長(リーダー)が前回の攻略で苦労した末にマッピングした手記を開く。


「――違うな」

「…えっ?」

「吾は次に進む道を問うたのだ」


 しかし悪魔は何を言っていると言葉を一蹴。


「次の階層に進むにはスイッチを押す必要がある。そうしなければ階段は現れない」


 班長(リーダー)が指し示すのは何もない黒い壁。スイッチを全て起動すれば、本来はこの壁が開かれるというが――


「フム、ここか」


 しかし悪魔は時を急いていると壁を一蹴。


――ドコンッと音が重く鳴れば、ガラガラと崩れ始め、階段が現れた。


「クハハハハッでは征こうぞっ」


 カツカツと一人、降りて暗闇に姿を消すベアル。

 次には打撃音が無数に響く。下階で待ち構えていたエネミーを散らした音だろう。


「班長…あの壁って壊せたんですか…?」

「三十人以上の総火力を以っても破壊は不可能…だったんだがな…」

 

 もはやドン引きにまで達している面々。

 しかし緊張が完全に解ける瞬間に、班長(リーダー)が発破。周囲の空気を引き締める。


「――ゴホン、だが目的を忘れるなよ」


 閑話休題。わざわざ戦力を三分割するなど本来は愚策。しかし理由があった。

 前提として、彼らはプレイヤーならば誰もが耳にするトップランカーの超有名ギルド。

 そんな組織が、たかが一体のレアエネミーに手を焼くなどありえない。

 沙多やベアルといった余所者に依頼を出すのもまた異常だ。


「本懐はあくまでレアエネミーの()()()()だ。二度もしくじろうものならヒテンジ様に顔向けなどできんっ」


 改めて確認するのは、その異質な行動理念。これこそが、二人を雇った答えだった。

 意味するのは、複数のレアエネミーを一度に相手取ろうとしている事実。

 厄介極まりない敵を三体同時に屠ろうという企て。しかしその先は真意は、やはりヒテンジしか知らないようだ。


沙多さんは知らん人とでも5分あれば大体仲良くなれる。

最初は付かず離れずの良い感じ距離を保ちますが、特に心を許した相手には妹属性らしく甘えてくる。しかも結構ワガママ。

「半分ちょうだい」で雪見だいふくを許せる人なら沙多さんと友達になれます

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