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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

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4.飛天の唄と並ぶ猛者にも【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「ほら魔力足んないんでしょ?これ飲んでよ」

「ム?この青い液体は…」

魔力回復薬(マジックポーション)!流石に覚えん?基本中の基本アイテムなんですけど」


 魔力不足に陥れば即、存在が消滅すると言われたベアル。応急処置として差し出すのは、このゲームでは随分とお世話になっている必需品だ。

 ラピスラズリのように深い色の、やや粘性のあるそれ。

 彼は「この世界特有の物資かッ」と、酒の如く一口に飲み干す。


「…ム、僅かに魔力が満たされるのを感じるな。興味深いっ」

「うっそ、全然足んないっ?」


 それは本来、瞬時にプレイヤーの魔力を回復させる効果がある。

 魔力量の多い(ジョブ)の沙多ですら、全快する超高級品だ。

 しかし彼にとっては小さなカップ一杯分以下、渇きを満たすには足りないと言う。


 そこからヤケクソ気味に持ちうる魔力回復薬(マジックポーション)を全て彼に投与。

 水晶の色は黒ではなくなるも、文字通りのグレーゾーンと言ったところ。ここまでしても、全回復には至らなかった。

 底が知れない魔力量に、沙多は呆然と空になった大量の瓶を見つめる。

 ついでに軽くなった財布を確かに幻視。乾いた笑いが溢れた。


「故に其方の現状、その魔力量は信じ難いものよ。もはやそこまで存在の"格"が墜ちていようとは」


 とはいえヒテンジの言葉も意味が分からない。

 並の武器ならば通さない肉体だったり、物理法則を無視したような馬鹿力だったり、山すらも割ってみせた莫大な魔力の放出。


 それが全て本調子でないどころか、出涸らしに等しいと言う。


「本当なん?どしてそんなに弱っちゃってんの」

「"電気"とやらが要因であろうっ。あれを吾が魔力で補うには不得手である」


 彼が巣食うは山中の廃屋。

 インフラを当然整えられるはずもなく、本来ゲームなど不可能。

 ならばどうやって可能にしているのかと言えば――魔力を大量に消費していた。

 インターネットや電力も無い中、魔力を無理矢理に変換して代用。

 そうして『ルシフェル・オンライン』に彼はログインしている。


「なんとも羽振りよく力を浪費しているらしい…まるで息継ぎもせず水底で叫び続けるようなものよ」


 だがヒテンジが呆れるほど、あまりにも効率が最悪の行為らしい。 

 その結果が裏ギルドで起きたログアウト。魔力不足による回線落ちだ。

 思えば、その翌日も彼は根城で精神統一をしていた。


「だが得心がいった。その枷により妾の爪牙は届いたと。――しかし(それ)を癒さぬ理由は無かろう?」

「ほんとそれな、アタシもめっちゃ言ってんだけど…」 


 敵対関係だったヒテンジにしれっと同調する沙多。

 一方、手のひらを返されたベアルの胸には、今もなお傷が残っている。

 治療を提案するも、拒否され続けているのだ。

 加えて血は乾いたものの、衣服も大きく汚している。戦闘の余波も相まって、元々ボロボロだった革ジャンやジーンズは更にお粗末な状態だった。


「ベル〜、治さないと痛いままじゃん。我慢し続けるの辛いよ?」

「何を言う。痛みとは堪えるものではなかろう」

 

 しかしそれを愚かと断じる。

 沙多を映す彼の瞳には、人間には理解できない感覚、人外故の価値観が籠っている。


「痛みとは享受するもの。しかと反芻し、糧に変えずして意味などあるまい」


 それから逃げれば、痛みの原因、己の不足を理解できないまま研鑽を積めないと言う。

 

「妹君もとくと噛み締めるが良いッ」

「いやアタシ普通の人間だから。んなの出来るほど精神強くないから」

 

 自然治癒まで耐えられないと引き気味にツッコむ沙多。

 この一連のやり取りを目にしたヒテンジは、ふっと息を軽く吐き出す。


「して、妾の素性などこの程度。これも『れあえねみぃ』に必要なものか?」

「アタシが気になっただけ。関係ないやつ」

「ほう、では何を確かめると申す?」

  

 沙多がレアエネミーを目的としているのは明白。

 お互いに膝枕を経て休戦となっているものの、譲れぬものは変わらない。 


「えっとね、アタシが知りたいんは――」


 ヒテンジとて天恵を追うエース派閥のギルドマスター。むざむざと情報をくれてやるつもりはない。


「――ちゃんとレアエネミー倒してくれるかどうか」


 だからこそ、沙多の返答には目を丸くせざるを得なかった。

 情報を盗むわけでも、獲物を横取りするわけでもなく、求めたのは撃破の意思。


 そもそも前提から違った。

 普通ならば天恵こそが動機だが、沙多が望むのはレアエネミーの撃破そのもの。

 極端な話、全てのレアエネミーを倒せるならば、他の誰かに委ねてもいいと割り切っている。

 

「…何を申しておる?確かに討伐の備えは怠っておらぬが…」

「そ?じゃあいいや。なる早でお願いね?」 


 踵を返し、「ベル帰るよー」と退去の意思を示す。まるで友人の家から帰宅するかのように、気負いなどなく。


「待て、その為だけに訪ねたというのか?」

「まーね、アタシら的にはレアエネミーじゃんじゃん消えて欲しいし」


 そんな理由だけで単身、最高峰の敵地へ乗り込んだ。

 見返りを感じられない常軌を逸した行動に、ヒテンジは艶やかな唇をチロリと舐める。


「――では、其方らも一枚噛んでみぬか?」

「どゆこと?」


 妙な提案をした彼女の口は、薄く笑みを作っていた。

 一瞬前までの敵対関係すらひっくり返すように、利害の一致だと、鈴のような声音に乗せた。


「一つ、依頼を出そう」


ちなみにこの時、部下シュウトも実は意識あって聞いてます。

色々と叫びたい気持ちになってますが、瀕死すぎて動けない状況。ていうかツッコんだら死ぬ。

気持ち的にはNTRとBSS

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