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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

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3.飛天の唄が撫でる桃の実【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 別行動だったはずのベアルが突然降って沸いた。

 どうして沙多の居場所が、カナンと関係するこの地を辿れたのかは謎。色々と聞きたいことがあるも――


「シュウト、殺れ」

「ハッ!!」


 一瞬の間も許さず、ヒテンジは部下へ指示。

 沙多に見せる態度とは一転、敵意を隠さない冷ややかな号令だった。


「ベルッそれ毒――んグッ」  


 沙多を行動不能にした状態異常(デバフ)について言及するも、その前にヒテンジの右手が口を塞ぐ。

 ナイフを取り出し電光石火で詰め寄る男。

 沙多も【暗殺者】との戦闘経験はある。直近だと近藤率いる裏ギルドの掃討が新しい。

 だが、その記憶よりも一線を画す速度と身のこなし。近藤(ギルドマスター)や他数名だけが強い烏合の衆とは違う、トップギルドの練度の差を目の当たりにする。


 対するベアルは動かない。

 悠然と立つ悪魔に、シュウトはさらに加速。渾身の刃を叩き込む。


「――チッ、(かて)ぇ」


 結果、胸に微かな傷を作った。

 心臓までは全く至らなかったが本領は毒。僅かな切り口から侵入するが――。


「フム、毒か」

「…なんで平然としてやがっ――ごガッ!?」


 意識を刈り取るそれを、蚊に刺された程度に扱うベアル。

 確かに効果は現れたものの、僅かに動きが鈍る程度。

 次にはそれすら関係ないとばかりに、回し蹴りで相手を壁にめり込ませた。


 埃一つなかった宮殿に破壊の戦塵が大きく舞う。

 並大抵なら泡となって死亡する一撃。だが寸前で防御し、意識を失うに留めた。

 実力は確かなものの、それでも悪魔には敵わない。

 この結末にヒテンジは眉を顰める。

  

「何故()()がここにいる――ベアル・ゼブル」

「誰も知らぬ問いに飽きた故、妹君に供した吾の魔力を追ったまでよ。――して、ウヌは誰だ」  

「そうか、この名は記憶になど残らぬか」


 問わずともベアルの存在を知っていたヒテンジ。

 次には刺々しい表情から、覆えないほどの殺気が発せられた。

 沙多を放り出し、姿がブレるほど、音よりも疾く駆け出す。


 対する悪魔は、やはり動かない。一度は敵の攻撃をその身で受けるのが彼の矜持故だ。


 常人には捉えられない速度で接近する彼女。悪魔との距離が僅か数メートルにまで達した刹那、ジャキッと鋭い高音が鳴り――


――そうして今度は、悪魔の胸に大きな斜め十時(クロス)の傷が刻まれた。


「クハハハハッ!!吾に刃を通すか!面白いッ」


 ザンッと肉体が裂かれる音と共に、血が滴る中で高笑うベアル。

 自身の負傷も無頓着に、眼前の敵に興味を募らせる。

 対するヒテンジは一度足を止め、様子を伺う。

 

 一連の動きがあまりにも速すぎて残像しか残らなかった。

 ようやく見えたその両袖からは、長い鉤爪が飛び出している。


「うっそ…ベルが…大怪我…?」


 行く末を見ることしか許されなかった沙多は、手で口を抑えども声が漏れる。

 今も昔もベアルは無傷、あるいはかすり傷しか負ったことが無かった。

 そして理解する。ヒテンジという存在は、致命傷を与えうる程の強者だと。


 しかし悪魔に戦意の衰えはない。むしろ愉しむように足を踏み出し――動いた。

 同時にヒテンジも息を吸い込み――


「――ひれ伏せッ」


 覇気の籠った絶対的な命令。

 彼女の色香に、誰でも無条件に従いたくなる妖艶の権化。

 関係のない沙多ですら、思わず膝をつきかけるほど。


 しかし相手は悪魔。

 その価値観など理解するはずも無い。一切の変化なく、突っ込む。

 ヒテンジも最初から結末を分かっていたのか、動揺せずにこれに応戦、床を蹴り神速と化す。


(やば…アタシなんも着いていけん…)


 一瞬の合間に何十と散る火花。ベアルの重い拳撃一つに対し、何倍もの手数を以って対抗。

 己に許された行動を探すも、名案は出てこない。

 沙多には謎が多すぎた。自分の知らない間に授業が数時間分と進んだような疎外感。

 

 そして何より目を見張るのは、ヒテンジは一度も攻撃を喰らっていない様子。


 振り下ろして床ごと破壊する鉄槌はヒラリと躱す。

 回避の隙を狩る上段蹴りは鉤爪を四度、身を廻して撃ち合わせる事で軌道を逸らす。

 まるで円舞だった。ただ、美しく踊るその様はとても疾く、鋭い。


 続けて衝撃波すら生じる肉弾戦車の如き突進。これをも予知していたかのように見切り、互角以上の速度で並走。

 交差する稲妻のように混ざり、ベアルの血肉を僅かなれど少しずつ削いでいく。


「妙よのう其方、何故魔術を使わぬ?」

「ならばくれてやろうッ」

 

 戦況は一見ヒテンジ優勢、しかし彼女の眉は顰まったままの最中(さなか)で――挑発通りに魔弾が投じられた。

 それは二人の中間で爆発。王の間は破壊されずとも、互いの姿が掻き消える烈風が巻き起こる。


(荒い、しかし小規模。…目眩しにしては滑稽よのう)


 それをも当然のように回避しているヒテンジは、攻撃の意図を探る。

 彼女に言わせれば、そもそもこのギルドが破壊されず、形を保っている時点で不自然。

 

(あの娘を案じておるのか?いや、あり得ぬ。彼奴(きゃつ)はそれを気に留める性分では――っ)


 その瞬間、彼女の一尾はピンと跳ねる。縦長の瞳孔もさらに細まった。

 砂煙の向こうからは、伸びた悪魔の大きな掌。

 しかし、またしても予知の如く避けた。首を狙った彼の手は空を切って終わる。


 それはまさに異様。繰り出された致命打を紙一重で躱し続けていた。

 圧倒的な膂力と速力を併せ持つベアルを相手に真正面から大ダメージを負わせ、長時間生存したのは彼女が初めてだろう。


「クハハハッ、捉えたぞっ!」


 しかし計九度、神がかりな回避を経たところで、遂に彼女は被弾。

 薙ぎ払いを避けきれず、左手が粉砕音と共に消し飛んだ。

 追撃に備え、瞬時に間合いを引くヒテンジ。


「…やはり、不可解よのう」


 しかし口を開くも、失った左腕を意に介していない。

 それどころか血すらも流れず、痛みを感じていない様子。


「――何故(なにゆえ)、其方はそれほど弱っておる?」 


 パラパラと砕けた左腕が床に着地。奏でたのは金属音。

 それは血肉ではなく、()()

 彼女は最初から左腕など失っている事実を、袖が隠していた。


()ならば今ここに妾が立つことさえ叶わぬ。それ程までの暴力であったろうに」


 たびたび眉を顰めた理由を彼女は語る。解せぬと口を尖らせながら。


「まぁ、それにすら及ばぬ妾もなんという腑抜けか」 


 そして、既に勝負はあったように続けた。

 いささか早計な諦観だった。確かに疲弊はあるが、失ったのは義手。

 骨も臓器もやられていない。戦う力は残っているはず。

 

 にもかかわらず、ヒテンジは汗を浮かべながら自身の背中を確認。

 すると九つあった尾が、たった一つにまで消失していた。


「まして…其方が付き従っていた()()はどこへ居る。見限ったなどあるまい?」

「――吾が主君を『魔王』などという下らぬ言葉で片付けるな。あれは唯一無二の存在である」


 二人にしか知り得ぬ昔の話。

 これに初めて悪魔は反感を示した。人間離れしたベアルにはとても珍しい。

 しかしその感情は一瞬で消化。再び闘いを愉しむように、ヒテンジを目掛けトドメを――


「――ベル、駄目だよっ」


 まるでヒテンジのように平坦な制止の意。

 耳朶を打ったのは、沙多の声だった。


 同じく物言わせぬ呼びかけに――魅了ですら御せなかったベアルが初めて止まった。

 荒々しい筋肉はピタリと硬直し、下がった口角から闘争心が消え去ったのが分かる。

 

「殺しちゃダメっしょ!レアエネミーのこと聞けなくなるっ」


 誰の言葉も聞かぬ彼を制した光景、ヒテンジの顔は驚愕に染まる。

 唯一従う存在は主君と呼ばれる者のみ。だがこの場には居ない。

  

(…つまりこの娘を、それと同等だと認めたか…っ)


――其方は誰かを想起させる。


 狐の左耳が何かを閃いたようにピンと張る。

 沙多へ告げた自身の言葉、その答えを得たようだ。

 疲労の冷や汗を流しながら、沙多への興味がいっそう強くなる中――ヒテンジは唐突に意識を飛ばした。


ヒテンジの右腕には普通に武器として鉤爪を装備。左腕では義手そのものが変形して鉤爪になる仕様です。

多分そのうち左腕にバズーカとか仕込めそう。


あと今更ですが前回の「いじめがいがありそう」って何かいやらしい意味に聞こえね?ってなった。他意はないです。文字通りいじめてください。

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