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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

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2.飛天の唄の座する先には【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。

次回更新は水曜。


「…ここかぁ」


 "アカシック"から情報を得た翌日。沙多はだらしなく開いた口から独り言を溢す。

 高く聳える外壁は要塞さながら、だが"街"として存在する目的地に到着。

 他とは一風変わった争いを意識した造りに、彼女は大きく首を持ち上げる。


 街とは安息地を意味する。

 エネミーは侵入せず、宿を取ればプレイヤー間の衝突も回避可能。

 絶対に安心という訳ではないが、それでも人々を歓迎する場所であるはずだ。

 だが眼前の高い壁は、排他的な印象を受けてしまう。


(占拠されてっとこうなるんだ)


 それは、一つの勢力に染まった姿だった。

 ギルド――"タマモ"。

 天恵を追うエース派閥の者が、街そのものを拠点として据えた場所だ。


(流石に緊張感えぐ…)


 加えてこのギルド、沙多ですら名前を知っているほど有名。

 随一の人数を有し、戦力はもちろん、装備や道具(アイテム)も自己完結するほどの生産力。独占する情報なども大量だろう。


――平たく言うと、超が三つ付くほどのガチ勢というわけだ。


 そんな街にあったはずのテレポート機能すら撤廃され、第三者の介入を許さない陣地に、今から単身乗り込もうというのだ。

 いくら物怖じしない彼女でも、思うところはあるらしい。

 

「…頑張るかぁ」


 だがすぐに覚悟を決め、杖を召喚。淀みなくスキルを行使する。

 新たにセットした【暗殺者】と【祈祷師(シャーマン)】のスキル――【空蝉(うつせみ)】と【神隠し】を使用。

 気配を遮断し、姿が透明になった状態で潜入を試みる。


 ちなみにベアルとは未だ別行動だ。

 巷を騒がせ、警戒されている彼に門を叩かせるわけにはいかない。

 なので誤情報だった場合に備え、悪魔には辻斬りもとい聞き込みを続けてもらっている。


「――の狩場は効率が落ちてきたな」

「――例の火山に向かったが…」

 

 門をくぐれば、城下町としか表せない光景が目に入った。

 中世の様式ではなく、完全に魔改造された風情。

 景色と相まって、鎖国状態という言葉が似つかわしい領域。


――とはいえ今回それらは関係ない。沙多が追うべきは一つだ。


『武器ならば心当たりがある』


 鉄木(てつぎ)から開示されたのは、予想外なものだった。

 人を尋ねれば、なんと道具の話をされたのだから。


『カナン、ミズクメ、レヴァンテイン。これらの名を冠する三つの刀を、タマモが所有すると記憶している。…無論、お前の求める関係性とは保証できんがな』


 人の名前ではなく武器の名前。それが唯一の手掛かりとなった。

 ベルタが告げた言葉の意味は本当にこれなのかと、やや納得しかねるも、これを信じなければ八方塞がりなのも事実。

 なので知らない話から見覚えのある話、様々な会話が飛び交う中、その三つの単語に注意深く耳を傾ける。


(レアそうな奴だし、偉い人が持ってんのかな?)


 そんな安直な思考の元、沙多は中でも目を引く建造物――城さながらの宮殿へ足を運ぶ。

 忍者さながら抜き足差し足、忍び足。不意に誰かと触れそうになるたびに「おっとっと」と体を揺らし口を窄める。


「――五七区画の討伐編成を…」

「――通り魔事件の対応は…」

「――は何処に…」

「――様はまだ就寝なさって…」


 息を潜める中、既に猛者と呼べるプレイヤーが増える敵地ど真ん中。拾える情報の機密性すらも増す一方だ。

 沙多は「短くしといて良かった」と、スカートの丈を詰めた改造(カスタマイズ)に目を降ろす。もはや修道(シスター)服が擦れる音すら命取りだ。

 そんなバレれば死に繋がる重圧に身を投じていれば――耳はようやくそれを拾い上げた。


「――なら目覚め次第"カナン"を貰い受けに行く」


 確かに聞いた言葉に目の色を変え、声の主を必死に探す。

 捉えたのは、銅色の髪で左目が隠れた男だった。

 暗めな配色かつ動きやすい軽装から、(ジョブ)は【暗殺者】と沙多は暫定。


 見失う前に、彼が纏う鈍色のマフラーを目印に後を追う。

 遠巻きに眺めながらも付かず離れずの距離を保ち、やがて辿り着いたのは書斎。

 何らかの本を取り出し、深呼吸。釘付けな様子で読み始めた。


 そんな背後に立つ沙多は、さてどうしたものかと考える。

 尾行したものの、特殊な事情のレアエネミーに繋がる手掛かりは一切無し。

 そもそも人を当てに探していたのだ。正体が武器ならば、突き止めたとて喋る口すら存在しない。


 いっそ倒しちゃう?と今なら決まる不意打ちを考えたが――しかし頭上に構える杖という名の鈍器を下げた。


 これは無意味だ。このプレイヤーを泡に変えたとて何一つ好転しないと分かっている。

 故に沙多は目的を変更。

 武器に関わるプレイヤーではなく、それら全てを統括するギルドマスターを伺おうと決めた。

 

(確かここのギルマスって…)


 トップランカーと呼べるギルド。その影響は大きいが、団長の存在はあまり知れ渡っていない。

 どんな人物だったかと、ぼんやりと思い出しながら踵を返すと――


「――何者だッ」

「きゃッ!?」


 一閃、ナイフが投じられた。

 幸い直撃は回避。だが沙多の肩を切り裂いた。


 被弾により透明化が無効、熱く鋭い痛みに襲われた表情が晒される。

 完全に敵に姿を目撃されてしまった。

 

「な、んで…バレたしッ」

「それで出し抜いたつもりか、暗殺者を相手によ」

 

 沙多が使用したのは【空蝉(うつせみ)】、原典は暗殺者のスキル。

 気配遮断に関しては、相手に一日の長があった。


 言葉を発しながら隙を伺うも、無い。

 回復する暇もなく、攻撃意思を見せれば即座に殺される。

 相手が会話に応じたのは余裕の表れだ。


「何処の誰だ、何の目的で侵入した」


 そもそも状況が詰んでいる。

 決して広くない空間、数メートルしかない距離で接近戦に秀でた(ジョブ)が相手。

 占星術師に勝ち目はない。


――つまり、考えるべきは()()()()()


 沙多の中で結論が出た。喋りながら死のうと。

 未だ得られた情報はゼロ。以降の潜入は警戒され、もっと厳しくなる。

 ならば最後まで諦めず、糸口を手繰ろうと口を開く。


「カナン…――ぅグッ!?」


 だがその瞬間、動悸が突如激しくなる。

 眩暈と吐き気、完全に毒の症状だ。 


「アタシ(これ)喰らいすぎでしょ…」


 最近の暗殺者のトレンドは状態異常(デバフ)特化の構成らしい。

 これだから暗殺者は嫌いだと二重の意味で毒を吐きながら自虐を交える。

 しかし眼前の彼は無反応。やや目を見開いて固まっていた。


(これ絶対拷問とかされるやつ…)


 ドサッっと音を立て崩れるも、彼女はまだ死んでいない。つまり相手の目的は排除ではなく拘束。

 その先に待っているものは容易に想像できる。

 「トップメタってこういうのに使うのかも…?」と他人事じみた思考すら出てくる中、意識は沈んだ。


今んところ『ルシフェル・オンライン』の大きな街は12個ほどしか無いので、内一つを占領できてるのは結構すごいことです。

あと沙多さんは絡め手に弱すぎると思う。薬盛られたら多分普通に死ぬぞ。


ちなみに現在のスキル構成は

空蝉(うつせみ)】【神隠し】【フレア】【絶対零度ウラヌス】【完全強化付与フルエンチャント】【完全治癒フルヒール】【銃術】


【銃術】だけ攻撃スキルじゃなく、腕前や感覚が養われる補佐サポートスキル。いわゆる常時発動型パッシブです。言わずもがな、切り札の【マギア・バースト】を使うため。

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