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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

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2.飛天の唄の座する先には【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 移動は一瞬だった。眩い光も無く、意識の混濁も無く、動画をバッサリ切ったように景色は移り変わる。

 目が捉えたのは図書館。

 背丈以上にあるギッシリと詰まった本棚、落ち着く木の香り。そして、大きめな茶色の机があった。


鉄木(てつぎ)さん、連れてきたっす」


 軟派な彼と共に訪れたそこには、男が座していた。

 ストレートに下ろした黒と灰の混ざるロン毛。

 司祭服にスラっとした長身を包んだサブマスター、鉄木 成咲(てつぎ なるさき)がいた。


「ご足労いただき感謝する」

「一瞬だったけどね。んで要件何なん。アタシ人探しで忙しいんけど」


 社交辞令の、だが冷たさも感じられる言葉。

 とはいえ沙多にとってはどうでもいい。悪魔の如く本題を急かす。


「無論、要求には答える。だが見返りに金ではなく、お前の(それ)に付いて詳しく聞きたい」

「…?まあ別にいいけど」

「では早速だが拝見させてもらおう」


 どうせ名前らしき文字だけで、大したものは書かれてない。なにより読めるはずが無いと同意する。

 プレイヤーが『古代言語』と呼ぶそれは、未だ解析されておらず謎のまま。

 ゲームの世界で生まれたベルタや、何故か悪魔が読めた事は例外中の例外だ。


 受け取った鉄木(てつぎ)は、背中を見せる。

 向かうのは、様々な文字や図が記された書面が散らばる大きな机。


「――カナ…ン、ミズ…クメ、レーヴァいや…レヴァンテイン、か」


 しかし驚くべきことに、彼はその未知数の言語を完璧に解読してみせた。

 

「ガチ!?読めんの!?」

「読めるのは俺ではない。友人の成果だ」

「へ~すごっ」

 

 眼下の書物を誇るように、慇懃無礼だった彼の眉間は少しだけ緩む。


「うちのギルドマスターな、天恵のおかげで色んな言葉分かったらしい」

「そうなん?…あれ、どっかでンな話聞いたような…」

「――新人、余計な口を挟むな」


 だが軟派な彼の補足により、鉄木(てつぎ)の顔は再び強張る。


「さて、"カナン"に該当する人物は数名だ」

「パッと出てくるの怖っ。記憶力レベチすぎん?ロボットじゃん」

「サブマスターは瞬間記憶?っての出来るんだぜ?」

「新人ッ、私語を慎め!給金減らすぞッ」


 また軟派な彼により、鉄木(てつぎ)の額に青筋が立つ。

 

「ゴホンッ。――だがこのフルネームとなれば該当者は…ふむ、…ゼロになるな」

「えっ」

「しかし名前ではなく、この言葉そのものに関わる存在ならば…心当たりはある」


 気を取り直して告げた鉄木(てつぎ)の言葉。

 頭をトントンと指で叩き、次々と脳内で記憶を引き上げていく。


「さて、前金はこのくらいだろう。次はお前の番だ。それを何処で手に入れた?」


 続きは沙多の情報を聞いてからだと、報酬をチラつかせ視線を彼女に投じた。


「…これ、噂んなってる『通り魔』のやつ」


――そして沙多は"設定"に従事する。


 返されたメモの経緯を話せば、素性が明るみに出てしまう。それは避けたかった。

 悪魔の口ぶりからして、プレイヤーに襲われるのはもはや常なのだろう。あの尋問はそれほどまでに被害が出ている。

 同じ仲間と見なされれば沙多にも報復の刃は向き、情報を集めようにも行動は制限されてしまう。


「アタシもあの辻斬りには、ちょっと思うところあんだよね」


 故に別行動。裏切ると称し、悪魔の一部を売り渡して敵側に回った。

 そんなベアルから奪ったという建前の元、ヒラヒラと紙を揺らす。


「遺恨などどうでもいい。重要なのはそのプレイヤーが所有していたという点だ。嘘偽りでは無いな?」


 鋭い眼光で問われるも、生憎その点に関しては事実だ。頷いたところで疑われようもない。

 

「…いいだろう。その通り魔についての情報はあるか?」

「めちゃ強いって事とか?」


 これも喋りすぎれば関係が割れる。安易に嘘を付こうにも、諜報に長けた相手には見破られるだろう。

 なので沙多は駆け引きもなく正直に行くことにした。


「それは把握済みだ。掲示板にも大量の被害報告を確認している」

「あ、あと火山でなんか暴れてたとか」

「…あの件にも関与していたと?…そちらも調査する必要があるな」


 とはいえ、ベアルについて未知な点は多い。

 沙多自身あまり気にしなかったり、深入りしないスタンスも相まって、ゲーム内で得られる情報に大差はないだろう。

 『アタシって意外とベルのこと知らんなぁ…』という寂しさすら覚える。


「てかそんなにヤバいんだ被害」

「"腕に自信がある"という言葉に収まらない強さは確実…。いっそ言葉を理解するレアエネミーであってくれた方が納得だ」

「う~ん、じゃあ後はアタシもそんな詳しくないかなぁ」

「…承知した」

 

 人に話を信じ込ませるには、真実に嘘を混ぜるのがいいらしい。が、彼女は真実に無知を混ぜているだけ。

 嘘は言ってない、事実知らないだけ。全て正直に答えたならば、疑われようもなかった。


 しかし現実(リアル)について問われれば、立場は一気に怪しくなる。

 何せベアルに会っている上、住所や生活、このゲームをする動機まで彼女は知っている。

 話がそちらに寄ってしまえば、即座に接点を見抜かれるだろう。


「新人、お前も心当たりがあると言っていたな。吐いてもらうぞ。その為に残したのだ」

「あーおれ、そいつとリアルで会ってるかもしんないっす」

「…ッ!本当か!?何処でだ!!」 

 

 だが現実部分の関心は軟派な彼が持って行った。

 沙多が辟易していたナンパ、それを退けたのが紛れもないベアルだ。

 とは言え当人に追い払った意思はなく、人間と悪魔、生物として異なる風格の眼光に怯んだ結果にすぎない。

 それでもあの瞬間、僅かなれど面識は出来ていた。


「八上市の中央区あたりっすね。デカい外国人で、めっちゃ(いか)つくてチビるかと思いました」

「後半の情報はいらんッ!…これもあの記録と関連性が…」


 さらに先述したように、彼は沙多がナンパした同一人物と気付いていない。

 幸運にも沙多は置いてけぼりのまま、尻尾を掴まれずに情報が完結した。

 

「よくやった新人っ、給金を上げてやろう」

「急に人変わるやん、二重人格?」


 「おっしゃッ」と喜ぶ軟派な彼を隣に、鉄木(てつぎ)は殴り書きして文献に残していく。

 その様は沙多が引き気味になるほど異常だった。冷徹な印象から一転、執念が溢れている。 


「っても、人違いの可能性普通に高くね?ゲームとリアルで同じ人に会うなんてありえんしょ」


 それでも個人情報には変わりない。

 ベアルなら大丈夫な気がするが、さりげないフォローを試みておく。


「普通のゲームならな」


 余計な口は挟まない主義の鉄木(てつぎ)

 だが今は昂っているのか、特異性を仄めかす。


「このゲームに限っては人口分布に偏りが見られる。現実でも会う確率は比較的高い」

「…なして?」

「知らん、ただでさえ非正規のゲームだ。未解決の疑問など山ほど存在する」


 言ってしまえば、都市伝説やゴシップの類。

 しかし事実として、沙多は軟派な彼とこうして邂逅している。

 否定する材料は何も出てこなかった。


「――まあいい、どのみちゲーム内でも接触せんことには始まらない。お前にも随時、そのプレイヤーについての報告を求める。これが情報開示、最後の条件だ」

「え、なにそれ変じゃね?しかもいつまでの話よそれ」


 あまりにも不明瞭な期間、かつ強制力も無い契約。

 極論、沙多が雲隠れしたとしても情報は開示される妙な条件だった。

 

「アンタってサブマスでしょ?ギルドマスターじゃないのに勝手に決めちゃっていいん?」

「現在は俺が代理だ。つまり総意と捉えて構わない」


 古代言語に関わる何かなら、不確かな情報ですら強引に欲する。

 そんな鉄木(てつぎ)のスタンスは、仮にも厳正で、規律事項すら決めている"アカシック"には沿わない歪さを感じた。


 やがて沙多は「ま、なんとかなるか」と承諾。

 連絡先を交換し、鉄木(てつぎ)から一つの情報が開示された。


「――…ふ~ん、おけ。一応ありがと」

「礼はいらん。だが報告だけは忘れるな」


 そして数分後、どこまでも隔意のある態度を尻目に沙多は軟派な彼と共に退出。

 再び強化された天秤(アイテム)で転移する瞬間、鉄木(てつぎ)が残る部屋――その妙に広い空間がやけに印象に残った。


ナンパ男がこのゲームをプレイする理由はお小遣い稼ぎのため

天秤レアアイテムを所持し、さらにアイテム強化に秀でた付与術師エンチャンターであることが採用の決め手になりました。

この天秤は数本しか存在しない超希少ものなので、PKプレイヤーキラーに怯え続けてる。逃げ足は超早い。


彼に名前はまだないので一生ナンパ男って呼び続ける所存。

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