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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
三章.飛天の唄編

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1.飛天の唄と重なる巡りに【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。

「――帰還したか、妹君よ!」

「ん…ただいま」


 数日空き、明野 沙多(あけの さた)はゲームの世界へログイン。

 現実とは一転、紫紺を表立たせ、桃色が逆にインナーカラーに見えるようなハーフアップの髪型へ。

 服装も制服ではなく、運動に適した丈が短めの修道(シスター)服となっている。


 そんな彼女は悪魔――ベアル・ゼブルを見て、言葉を詰まらせる。


(あれ、なんかベル…)


 瞳は彼を真っ直ぐに捉え、今まで気にも留めていなかったものを意識してしまう。

 その正体は、その感情の意味は――

 

「――(カルマ)値…めちゃ増えてね?」

「ムゥ?」


 ジトっとした目で、ドン引きしていた。


 付加された禍々しい気配に、もしやと詳細を追求。

 インベントリから手帳を召喚させ、ページをめくる。

 すると、表示されていたのは『66』という数字。

 「前まで綺麗なゼロだったのに」と、急激に増えたそれに沙多はガクリと肩を落とす。


 (カルマ)値はいわば殺人の度合いを示す。つまり、その数だけ人を屠った事を意味する。


「なして!?メッセージだともっと平和だったじゃん!」

「口を開かぬ人間ばかりであるが故よ。これが最も明快で早かろう」

 

 (カルマ)値は、相手がゼロより大きいPK(プレイヤーキラー)だった場合や、正当防衛の末に殺した場合は増加しない。

 ならば悪魔は不可抗力などではなく、言い逃れない害意を持って暴れたという事実。

 『情報を吐け、さもなくば殺す』という原始的な脅迫を、修学旅行の裏で繰り返していた。

 

「あんまPK(それ)、良いことないよ?――…で、なんか情報あったん?」


 PKは死亡時に発生する金銭の損失も増加。更に他のプレイヤーから警戒される。

 唯一のメリットは、他者の持ち物などを強奪できる点。だが、インベントリの使い方すら危うい彼がそれらを回収するとは思えない。

 

「微塵も掴めぬな、人間にはあまり聞き馴染まぬ名のようである」

「それなぁ…外国人なんかな?」 


 結局、他のプレイヤーからすれば口裂け女のように、返答ミス=即・殺の通り魔が君臨しただけだった。


「だが妹君が居るならば、この『げえむ』の新たな知見を得るやもしれぬッ。再度問い質しに往こうぞッ!」

「ありえん効率悪いっしょ。それに…」


 沙多が目線を投げ掛ける先――茂みの中から何かが撃ち込まれた。


「――めっちゃ恨み買ってんじゃん」


 螺旋を描き衝突する氷塊。

 誰かによって発射された氷魔法はベアルの頭部に直撃。しかし意味もなくシャーベットのように砕ける。

 次にはゾロゾロと増えるプレイヤー。

 七人ほどで構成されたそのパーティの共通点は、聞くまでもなかった。

 十中八九、ベアルによって轢き殺された被害者の会だろう。


「フム、今日は数が少ないなっ」

「アタシあんま戦いたくないから任せていい?」


 やがて激しくなる戦火を他所に、沙多はとあるプレイヤーにメッセージを送り始める。

 三分もしないうちに要件は終わり、ベアルの方も周囲を撃滅。容易く全員を泡に帰した。


「…ねーベル、提案なんだけどさ――しばらく()()()()()()?」

「ム?」


――――――

――――

――


 とある仄暗い酒場。そこに沙多は一人で居た。

 初プレイ時に降り立つ初期位置から遠く離れたそこは、人通りが少なく、店の中ともなれば彼女だけになる。

 しかし沙多は飲食が目的ではなかった。水の減っていないグラスを傍に、誰かを待っている。


「――お前か?念のため確認な。目的は?」

「"人探し"」

「対象は?」

「"カナン"」


 やがて背後から現れた男性の声。これに予め指定された返事をする。


『――では()()()()()を利用する意外ないですかねぇ』


 少し前にやりとりしたメッセージ。相手は、沙多のギルドマスターこと新堂だった。

 人探しをしようにも全く当てが無いので、一応念のためとアポを取り面会。相談すれば、一つのギルドが挙げられた。


 系譜は"マインギルド"。利益を第一に活動する派閥。

 一般的にはエネミーの討伐や、アイテムなどを取引し、金銭にする。

 しかし、彼の言うギルドは少々特殊だった。


 アカシックが生業としているのは――情報。

 確かな知識から陰謀めいた噂まで、幅広く仕入れては売り捌いている。

 つまり、怪しい人探しには持ってこいのギルドだ。

 

「依頼者で間違いなしっと。――お前が明野 沙多(あけの さた)で……利用するのは二回目か」


 本名を淀みなく言い当てられ、沙多は眉を顰める。

 実は過去に一度、姉について尋ねたことがあった。

 といっても結局は目ぼしい成果を得ず、無駄に情報を開示した形になり、良い思い出は無いが。


『やり方は気に食わないですが、情報はおおよそ信用できます。でないと組織の維持なんて出来ませんからねぇ』


 新堂の言葉が脳裏でチラつきながら、男が隣に座るのを確認。

 兎にも角にも交渉の場は成立している。腹をくくり、椅子に腰掛ける彼を見ると――


「――あェッ!?」


 思わず沙多は声を漏らしてしまった。


「…?どうした?」

「ッ…いや、なんでもない」


 咄嗟に誤魔化し、それ以上の追及は無かった。


(ウッソ!?ガチで言ってる!?)


 しかし彼女はこの驚愕を抑えきれない。

 かろうじて表には出さないもののテンパりまくっていた。


(――()()()じゃん)


 知人でもない、しかし間違えるはずもない、嫌な記憶が呼び覚まされる。

 それは悪魔と初めて邂逅したあの日。

 ベアルと出会うその寸前まで、沙多は二人にナンパされていた。

 何度拒否しても付きまとわれ、イラついた面影。


――目の前の彼はまさに、その片割れだった。

  

分割します。次回は水曜にでも。


ようやく空気だった掲示板が生きてくる。

ちなみにメッセージや掲示板、カルマ値などは、インベントリに初期アイテムとして入ってる手帳から確認可能。

対応したページを開くと、ホログラムみたいにウィンドウが浮かび上がる。

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