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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
序章.おんらいん編
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2.ゲームで暴れるおんらいん【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「神隠しか、吾の世界でも度々(たびたび)似た事象を聞いたものよ。…しかしそれがこの世界とどう関わるというのだ?」


 ベアルにとってその現象は不思議ではなかった。むしろ異世界の悪魔にとっては彼女よりも身近な事象だった。

 だがそれはあくまで沙多が姉探しをする経緯であり、「ルシフェル・オンライン」に触れる切っ掛けとなった原因ではない。


「お姉ちゃんは外に出れない代わりに、ゲームをよく遊んでたの。消える前は、VRで仮想世界を歩き回るのが楽しい、って…」

「ほう『ぶいあぁる』かっ。読めたぞっ、その姉君が触れていた『げぇむ』がこの『るしふぇるおんらいん』という事だなっ?」

「まあ、だいたいそんな感じ…」


 消えたその日、ベッドの上にVR機が転がっている事に気づいたのは夕方過ぎだった。動揺のあまり見逃していたのだろう。

 姉の唯一の所有物であるそれを沙多は手に取る。すると、今も電源が入っていて稼働中であることが分かった。

 不慣れな手つきでそれを被って見るとその瞬間、眩暈を感じた。

 脳内で処理できた情報は「ルシフェル・オンライン」という単語と、VRの中の仮想空間がひび割れたような視覚情報に、不快に走るノイズ音。

 当時はゲームに疎かった沙多でも、これは異常だとすぐに分かった。

 慌てて頭に被ったそれを取り外すと、役目を終えたようにその機械は壊れる。

 本来ならばただの不具合として処理してしまいそうな現象も、姉が消えた手掛かりを欲する彼女には垂らされた蜘蛛の糸にも思えてしまう。


 そこからの行動は早かった。

 バイトを増やし壊れたVRに代わる新しいハードを購入し、友人と遊ぶ時間を正体不明のゲームの調査にあて、毎日行っていた学校の出席日数までも削り「ルシフェル・オンライン」にログインする時間を増やす。

 そうして一年が過ぎ、出来上がったのが今の明野 沙汰(あけの さた)だ。

 

「その胸中ッ、身が刻まれるほどに斟酌したぞ妹君よッ!!経緯は異なるが吾とて同じ覚悟よッ!必ずや本懐を遂げようぞッ!!」

「…うんっ。それで――…ってどこ行くしッ!?」


 昂っているのか咆哮を上げる悪魔に沙多は頷く、と同時に彼方の方向へ走り出す彼にツッコミを入れる。


「やはり一刻もはやく相まみえなくてはッ!この街に用はないのだろう!?ならば往くぞ新たな未開の場へッ!!」

「アンタ地図も何もかも把握してないでしょーがッ!一回待ってッ!!」


 異常なほど足が速い悪魔を止める頃には数百メートルも距離が出来ていた。この距離でも"待った"に反応し、一瞬で戻ってくるあたり耳も良いらしい。


「往かぬのか?」

「まだ説明の途中だったでしょーがッ」


 会話はかなり脱線していたが、元々これは人探しをどうするかという話だ。

 彼女はまだ一つ目である「地道に聞く」手段しか説明していない。

 当然、残された別の手段が存在する。


「最後の方法はぶっちゃけ、確実かどうかも分からないし…かなりキツめの内容(やつ)だけど…聞く?」

「ハッ、当然よッ!!」


 沙多が形容しにくいと言わんばかりの面持ちで問うも、悪魔にとって退く理由は何もない。全てを捧げる意思がある。


「残った方法は、()()を得ること」

「ム?神に祈るとでもいうのか?」

「違うし。えーっと順を追って話すと…このゲームは違法だけど、熱狂する人はマジ多い。なんでか分かる?」

「さっぱりよっ。今の認識は『吾や人間にとっての別世界』。それ以上でもそれ以下でもないッ」

「ですよねー…。まぁ単純にこのゲームが面白いとかクオリティがやばいとかあるけど…一番の理由は『願いが叶うから』って言われてんの」


 本来、この世界でのVRは五感全てを充分には騙せず、触覚や嗅覚に違和感が残る例が顕著だ。

 確かな手触りや匂いを感じ取れたのならば、それは技術の大躍進であり、一世を風靡するに違いないであろう。

 だがこの「ルシフェル・オンライン」は五感という範疇をも超え、全てが現実と遜色ない。まさに「完全な一つの世界」と評されるほどだ。


――だが、それすらもこのゲームにおいては人気の根源ではない。

 数多の狂人を生み出し、夢追い人として駆り出す要因となった瞬間がある。


「前に、ある人がこのゲームのライブ配信してたの」


 この提供者不明かつ規制されたゲーム。自らプレイするには抵抗があるため、物珍しさに視聴する者は少なくなかった。

 

「道中、なんか珍しめのエネミーと会って、レアドロップが気になるって流れで戦ってたんだけど…」 


 結果から話すと、配信主の勝利に終わる。

 そのエネミーは強敵だった。これまで配信主が対峙した何よりも。

 大量の血を流し、苦痛の呻きを上げて、それでもなお敵の存在を屠った瞬間は、当時リアルタイムで見ていた人にとっては伝説といっても過言でないほどに。


「勝った後、いきなりその人が挙動不審になったんよね」

 

 命を穿って数十秒、安堵と達成を噛みしめていた配信主は、突如左右を振りかぶり誰かを探すような動作をする。「誰ッ!?」「どこにいる!?」とまるで見えない存在を前にしているようだった。


「んでね、なんか独り言めっちゃ言ってたら急に『みんなと喋れるようになりたいッ!!』って叫びだしたの。ビビるっしょ。…したらどうなったと思う?」

「言語能力を神とやらに与えられたと言うのか?」

「そっ!なんか英語とかの文字読めて、ペラペラ外国人と喋れるようになってんの。マジヤバくない!?その人別に日本語しか喋れない雰囲気だったのに」


 この不思議な現象を茶番と見なす者も多かった。

 しかし何百国の言語を瞬時に理解できる事を証明して見せ、挙句の果てに疑ったものが個人で制作したオリジナル言語や「ルシフェル・オンライン」ある誰も解読できなかった古代言語すら理解した事で、それを偽りという者は居なくなった。


「他にもさっ、『金が欲しい』って言ってホントに金持ちになった人とか、『痛みを無くしてくれ』で痛覚消えた人とか、『彼女が欲しい』って願いも叶ったらしいよ!?…最後のは怪しめだけど」

「つまり、概念という事象すら書き換える力がこの世界には存在するとウヌは言いたいわけだなッ!」

「そう、これがアタシの思いつく手段。この願いの叶うシステム…いわゆる『天恵』を頼りにお姉ちゃんを探す」


 ビシッと、ベアルの眼前に指を突きつけ道を示す。

 これならば実際に目撃情報どころか、姉との関りも不確かなこのゲームで闇雲に聞きまわるよりも一抹の希望があるだろう。


「ならば吾らが成すことは定まった。その『()()()()()()』とやらを見つけ、勝利を刻むッ!!明快かつ吾好みよっ」

「そう。アンタ強そうだからもしかしたら今度こそワンチャンあるかも知れないのッ。今日は夜遅いし、時間ギリギリまでアンタの装備とか整えたげる」


 今日の趣旨をようやく彼女は説明し終える。実に予定時間より一時間もオーバーしていた。


「…ところで妹君よっ」

「…どしたん?」

「『らいぶはいしん』とは何だ?『えねみぃ』という言葉も吾に聞き馴染みのない言葉よっ」

「――そ~だったぁ…ゲーム知識からかぁ~…ッ!」


 予定時間はさらにオーバーしそうだ。

この世界のVRの認識は、所謂フルダイブ型じゃなくて視覚とか聴覚の五感に催眠的なアプローチで訴えるタイプ。

我々の知るVRの順当進化系って感じ。

今自分たちの世界に五感全部フルダイブできたら違法でも興味ありありのあり。

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