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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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9.少女が至るは熱と喝采【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「ハァ…ハァッ…ねえリーダー、言っておきたい事があるの」

「ゼェ…ゼェ…今か…ッ?後じゃダメなんか!?」

 

 肩で息をしながら駆けるは八合目。

 疲労の蓄積が垣間見える中で、神妙な話題が広がっていた。

 

「そう!今すぐ、ここでっ!」

「今一番TPO弁えなアカン所やろがっ!」


――全力疾走も甚だしい、二体の不死鳥に追われている最中(さなか)で。


 瞬間、二人の背後が爆ぜた。余波で溶岩も活性化し、二次被害となって飛び散る。

 降りかかる火の粉を被れば、服が発火し剥がせなくなるので避ける必要もある。

 そんなデスゲームさながらの場面だった。


「いいじゃん!減るものでも無いしッ」

「今まさに精神が擦り減っとる!オレにも守れる限度があんねんぞ!?」


 無論、脅威は上空だけに収まらない。

 地形は壊滅状態。整備もされていない残骸の上を走るのは当然危険で、踏み外せば縦穴や溶岩流に落ちる。

 加えて他のエネミーも活動している。何度も見たナメクジなさがらの敵や、岩石の蜥蜴を筆頭に、その他大勢の敵も襲い掛かっていた。

 

「重要なのッ!ウチの存在意義に関わるのっ!」

「オレという存在も今まさに焼き殺されそうなんやけど!?【イージス】ッ!」


 とはいえ菅原はその信頼に答え、全ての攻撃を捌き切っていた。

 蟻一匹通さない堅牢の護り。悪魔の拳すらも受けきったプレイヤーの意地が垣間見える。

 だが体力と気力に限界が訪れる頃合い。

 撃ち下ろされた飛来する二つの熱線。盾が間に合わないと見るや、スキルを発動。

 ベルタを庇うように手を伸ばし、生身で受けた。


「グゥッ!?【ケラノウス】――ッ!!」


 インベントリから予備の盾を召喚し、スキルを付与したかと思えば、反対方向に放り投げる。

 雷鳴のように魔力が轟き宿るそれは、攻撃ではない。

 人であろうとエネミーであろうと、意識を逸らされ狙いが集まる威嚇と挑発だ。

 問答無用に焦燥と危機感を駆り立てるスキルに怪鳥は咆哮を返し、坂を転げ落ちていく盾を追った。


「あぁクソッ、高いクセして全然まだ使えてへんのに!」

「リーダーいま今!話すなら今ッ!あと回復ッ、回復しなきゃッ」

「情緒!!急かすか心配するかどっちかにせえッ」


 ベルタは器用に二つの感情を出しながら、大量の回復薬(ポーション)にて治療を施す。

 肉体強度が上がるスキルを使ったとはいえ、彼の半身は負傷。悪魔同様に焼き焦げ、稲妻紋が走っていた。

 あちらは種族が違うが、こちらは人間。痛みが主張し、表情に苦悶が浮かんでいた。


「ねぇ、苦しいと思うけど聞いて?ほんとに大事なの」


 それでもベルタは強引に菅原の顔に手を添え、向かい合う。


「ほんとはウチ、リーダーの事あんまり好きじゃなかったの」

「おぶぇッ!?」


 そして唐突なカミングアウト。菅原が今日一番のダメージを喰らった声で地面に転がる。

 限られた時間での逃走であることを忘れ、足が止まった。


「『苦しいと思う』って攻撃じゃなく…これの事なんか…?」

「あっ、最初、最初だけね!今は一緒に居たいよっ?」


 これまで菅原は苦悩みなどを表に見せず、ぶっきらぼうな態度で接していた。

 相手を思うが故に胸に秘める。これもある種の好意だ。現にベルタも秘密を話せずにいた。

 

「でも、だから余計に言えなかったの。大切だから」


 痛みに苛まれる顔も、なけなしの貯金で買った予備を失い嘆く顔も、全てベルタが為の結果。

 催促する悪魔が怖いなどと言ったのも、気を遣わせない詭弁の側面もあるだろう。

 そして大切にされていると認識すればする程、ベルタはそれを無碍にしないよう彼を尊重し、気付かぬフリを続けてしまう。

 だが窪みに落ちて以降、一つの疑惑が降って湧いた。


――ウチと同じことしてね?と。

 

 ベルタとて、具体的な内容は知らないが、彼が持つ後ろめたい何かには気付いている。

 故にこれまで、その暗い感情を吹っ飛ばすよう明るく仕掛けてきた数々のアプローチ。

 無論全て受け流されてきたが、これもひとえに好意が成す行動だ。


 しかし逆に、彼女の意思を尊重し、菅原も気付かぬフリをしていたと考えれば――ようやく、このやり方じゃ伝わらないと悟った。

 だから一度、全てを崩そうと決心がついた。


「――ウチの生まれた場所はこの世界。ウチはリーダーに願われて出来た存在。ゲームの中だけで、外の世界には居ないの」


 人によっては重いほどの愛情表現。だが、ベルタは元よりその感情を出し惜しむつもりは無い。

 きっと受け入れてくれる。そう思える程に慕う彼ならばと、まるで沙多に倣うように信頼を押し付ける。


「その方が、()()にとって良い彼女になるかなって思って」

「…なぁ、ベルタ…――」

 

 打ち明ける内容は、決して軽いものではない。

 常識がひっくり返るほどの劇物で、動揺は必至。

 拒絶される可能性だって十分にあり得る。

 

 そして遂に、彼は瞳を揺らしながらも、はっきりと少女を映し――


「――それよかお前、まだ隠してる事あるやろ」

「えっ…『それよか』…ッ!?」

「いや、一瞬でパニくりすぎて逆に落ち着いたわ。しかもその様子じゃ、まだ何かある感じやろ」


 相変わらずベルタの秘密に対する反応は淡白だった。

 スンッと、声は動揺しながらも冷静だ。


「あと何こ隠しとんねん。後で吐いてもらうかんな、何年かかろうが絶対問い詰めたる」


 とはいえ悪魔や沙多とは別の意思表示だ。

 まるで平常に、いつもの変わらない関係さながら言葉を続ける。どれだけ時間を費やして構わないと言いながら。

 これの示す意に、瞳を一瞬だけ揺らし、ベルタも日常的な態度を返した。


「…あと二つくらい?」

「意外と隠してんなッ!?」

「ウチの我儘はこっちの二つに関わる事だし…」

「本命じゃないんかい今の告白!」

 

 更にあと二つも残ってると聞き、白目を剥く菅原。

 しかし、吹っ切れたように笑った。


「あっ、もう回復薬(ポーション)切れちゃった」

「やっぱ俺に使い過ぎやろッ、ボス戦まだ控えてんねんぞ!?」


 同時に傷も完治。

 ビショ濡れになるほど回復薬(ポーション)をぶっかけまくったおかげで、ヒビ割れた傷痕は消え、元通りとなった。


「しょうがないじゃん!?心配だったんだからさぁ!」

「それでもお前の分ちゃんと残しとけや!」


本日も「尺が微妙でも二分割すればいいや」という甘えが垣間見えます。後でそんな軟弱者を絞めときます


菅原とベルタの持つ回復薬ポーションは値段優先なので即効性とか無いです。

ポイっと投げ捨てた囮の盾は五十万くらいするやつ。多分溶岩とかに落ちててもう使えない。

菅原の明日のご飯はもやしだけ

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