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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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8.悪魔に倣うは熱と喝采【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。



――()()は、侵入者に反応し、作動する防衛システムのような存在だった。


 縄張りに入られただけでは気にも留めず、自ら造った監視役を徘徊させるのみ。

 手足となった配下が外敵を倒せば良し、返り討ちにあったとて、()()に損失は一切ない。再び監視の目を生み出せば済む話。

 傲慢で怠惰な()()は、火口の奥深くでマグマの海に見守られながら悠然と佇む。


 この眠りを妨げ、重い腰を上げさせるには、炎を纏う鳥――分け御霊(わけみたま)を溶岩湖に沈める召喚の儀が必須だ。

 だが、これが意味するのは純粋な()()

 供物の数が充分なら強者と認め、不足なら出直しを求め噴火で雑に追い払う。

 

 さらに顕現したとて、対峙するのはあくまで偶像。

 紅と金の炎の巨翼、篝火(かがりび)の揺らめく尾、体を構成する燦々とした灰。

 それらを持つ不死鳥すらも造り物で、傀儡に過ぎない。

 

 本体は無機物――溶岩湖の中心、ポツンと住まう楕円で卵型の巨岩。

 子の正体が鉱石ならば、親も同じらしい。偶然にも、菅原の仮説は正しかった。


 倒せども不死鳥は復活し、得るものは無く、ただの消耗に終わる。

 特徴的とはいえ、ただの岩石がレアエネミーそのものだと結びつくはずもない。

 そもそも苦労してまで火口に訪れるプレイヤーが皆無。故にここまで討伐されず、生存していた。

 

 しかし今日、生存本能を揺さぶられる唯一の事態が発生。

 大地を砕き、地表を荒らし、山を割るまでに至った一撃。

 天まで届くほどに土壌を巻き上げ、世界そのものを穿った威力の塊に、警鐘が鳴り響く。


 レアエネミーの本体は、初めて全身全霊を以って脅威の排除にかかる。

 可能な限りの分身体を生み出し、住処を死守するため怒りと焦りに身を任せ、不死鳥の群を向かわせた。


***


 沙多のやることは単純だ。敵の注意を引き付ける、ただその一点だけ。

 そうすればベアルが一体、また一体と不死鳥を屠ってくれる。


 しかし至難でもあった。

 放たれる攻撃はどれも沙多にとって致命傷、或いは半殺し以上の暴力。

 吹き荒れる火炎、飛散する火山弾、そしてレーザーの如き熱線。どれも掠ってすらいけない。


「【絶対零度(ウラノス)】ッ!あ~っバリしんどッ」

  

 空一面からダイヤモンドダストが降る。

 天候の変化を錯覚するほど大規模に行使する氷結スキル。

 だが炎を纏う鳥とは相性が悪いのか、四体を数秒凍らせただけに終わる。


「【マギア・バースト】…!――頭痛ッたぁぁ…」


 菅原とベルタの二人を決して気取られてはならない。

 一体も漏らさぬよう、点ではなく面での攻撃が必要で、奥の手を強要される。

 妥協した火力も許されない。銃のトリガーを引く度、保有する魔力を全て吐き出す。

 結果、彼女は何度も魔力切れを起こしていた。

 

 ガンガンと脳を槌で叩かれるような鈍痛が襲うたび、魔力回復薬(マジックポーション)を使用すること五回。

 これ一つで数万円する代物だ。瓶を空にした数に比例し、チャリンチャリンと失われる懐に、精神すらも削られる。

 それでいて二十に迫る不死鳥の軍勢は未だに減らない。

 数え飽きるほど姿を灰に変えども復活し、一帯を焼き払い続けていた。

 

「ベルぅ~ッ!!」


 雨の如く上空から降り注ぐ敵の殺意。本来なら回避どころか、魔力回復薬(マジックポーション)をインベントリから召喚し、飲む隙すらままならない。

 しかし、沙多の一声でベアルが舞い戻る。

 もはや空中を駆けているとしか思えない機動力を持って彼女の前に着地。攻撃の全てを壁となって受ける。


「フム、妹君よ。次の狙いはアヤツらか?」

「ありがと、さっき凍ったのが弱ってきてるはずの奴で…――あれ?」


 百を超える回数の撃墜を経た今、衰弱の証として氷魔法で目途を立てる。

 均等ではなく数体だけに集中して叩けば、復活を越え、消滅までに至る頃間い。

 

 一体でも減らせれば楽になる。そんな希望の元、沙多は意識を空に移す――その前に、ある異変に目が留まった。


――ベアルの皮膚が僅かに焼き焦げている。

 彼は全く意に介していないが、その振り払った腕には稲妻紋が走ったような痕。

 まさしく、悪魔がダメージを受けた証拠だった。


「――ベル!?腕やばくない!?」

「ム?これしきは造作でもないぞ」


 再び飛び立とうとする様を引き留め、回復薬(ポーション)を取り寄せ、腕に掛ける。

 すると瞬く間に完治。彼の言うように掠り傷程度らしい。

 しかし沙多は狼狽える。彼女の記憶では、明確に外傷を負った事は無かった。


(…いや、てかさ…やっぱおかしくね?)


 今ですら強靭な肉体には変わりないが、この程度で傷付くのは妙だ。

 ()()()()()()()()()で、ズレている。

 守りに特化している聖騎士(スガ)ですらスキルと盾を併用して防ぐ攻撃。

 それを負傷ありとはいえ、生身で受けきる芸当など常軌を逸している。


(それにさっきの…)


 "天土穿(あまとうが)ち"と称し、山を崩壊させた絶技にも思うところはあった。

 明らかに『ルシフェル・オンライン』には存在しないスキル。

 加えて迸ったのは、沙多にも及ぶ、あるいはそれ以上の膨大な魔力だ。

 彼の職種は【格闘家(ファイター)】。そう思っていた。

 しかしその(ジョブ)は保有魔力が乏しく、辻褄が合わない。 

 

――ならば別の要因でそれらを可能にしているという事だ。

 しかしその尋常でない力、何の代償も無く行使できるとは、彼女はとても思えなかった。

  

「ベル…なんか、無理してない?」


 見れば、髪飾りも黒く変色している。つい先ほどまでは綺麗に澄んでいた山吹色の長髪を束ねる七つの水晶。


 これを見るのは二度目。ギルド崩しを試みた突入時だ。

 偶然か不明だが、彼はその後に謎の回線落ち。不慮の戦線離脱を経験している。

 あの時ほど濁った色ではないが、変化の兆候は十二分。

 これが悪魔にとって不都合な事態であるのは、沙多にも漠然と分かった。


「愚問であるな、吾の本領は依然その先よッ!」

「…ん、りょーかい!なら、じゃんじゃん頼るからね!?」

 

 だが悪魔は嗤っている。まだまだ全力にも必死にも程遠いと。

 故に沙多は言葉を飲み込んだ。

 渦巻いていた底知れぬ不安を消し、戦闘の続行を臨む。


「――あヤバッ、逃してる!」


 しかし視線を外した数秒。ベアルの傷を治し、問答した空白。

 空に視線を戻せば、二体の不死鳥の標的から外れてしまう。

 沙多に背を向け周囲を旋回。再び気を引くため攻撃魔法を発動するが――その前に、別の標的を捉えてしまった。


「ガチやらかしたッ、ほんとごめんルタっち~!」


 しれっと菅原が省かれた謝罪。

 とはいえ当たれば即死級の災害を相手に二十体。

 それもたった二人で相手取り、十分以上保ったならば奮闘した方だろう。


今までしれっと使ってるアイテムは基本高額。

回復とかも中途半端だと、痛みや損傷が残って動きが鈍るから即効+完全回復の系統が主流。


沙多や菅原もこの一年間、アイテムだけで百万は普通に消費してる。

ちなみにベアルは一銭たりとも使ってない。装備もボロボロ革ジャンにズタズタジーンズと素手。金のかからない男

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