8.悪魔に倣うは熱と喝采【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「ねえ!ねえってばリーダー!なんで突っ込むの!?」
出来るだけ声を抑えながら、それでも器用に叫ぶベルタは、止まらず走る背中へ問いをぶつける。
少女には理解不能だった。
――何故、今なのか。
天恵を諦めないにしても、タイミングがおかしい。
ギルドのメンバーは欠け、不死鳥が何体も出現という不測の事態。
攻略しようにも、もっといい頃合いなど山ほどある。
人員も戦力も不安定で準備不足。
おまけに二人には、致命的なわだかまりが生まれたばかり。
それでも全てを呑み込んで今、弾かれたようにこの時を選んだ。
「お前は居らんくて知らんかったかもしれんけどな、アイツは一回倒せてる」
ベルタが胸を貫かれ死亡したその後、悪魔を始めとし、幾度と復活するそれを消滅まで至らしめた。
「でも何も起こらんかった。頭ん中に流れる声も、天恵くれるオーブもや」
過去に菅原は単独でのレアエネミー撃破を経験している。
その際には、恒星のように淡く輝くオーブが宙に漂っていた。
更にオーブに触れれば、討伐の功労者へ、思念伝達のように頭の中にメッセージが流れる。
最後に願いを問われ、実行可能ならそれが天恵として実現する。
しかし昨日、それらのイベントは無く敵が消えただけ。
「ならしっかり倒せてないって事や!っても相手は不死鳥モチーフ、なんぼ倒そうが復活してまう」
象徴するは不死や永遠の命。
寿命を迎えると自ら火中に入って焼かれ、その灰の中から再生するとされている伝説上の生物だ。
「じゃあ絶対に倒せん敵っちゅうことになる。けど、んなのゲーム的にありえんやろ!」
言わばメタ読み。ゲームとして成立するバランスを想定した仮説を打ち立てる。
「つまり、読みが正しけりゃアイツらとは別の本体がいる。臭うんは頂上、噴火した所や!敵が出払ってる今なら叩けるやろッ!」
無論これに根拠などない。強いて言うならば、『ルシフェル・オンライン』にて培われた感覚のみ。
「答えになってないよ!今じゃなくてもいいじゃんッ」
確かに勝機はあるかもしれない。
だが勝機だけの話だ。今、行動する動機ではない。
さらに言えば一度仕切り直し、メンバーを揃え、不死鳥を一体だけ出現させた状態で試みた方が遥かに安全だ。
「いや今や、今しか無理なんやっ」
菅原は視線を後方、派手に戦闘音を奏でる悪魔と沙多を見やる。
知り合って僅か数日、だが走る切っ掛けを与えてくれた二人。
多大な負担を押し付けていることは重々承知で、次にベルタを瞳に映し――
「左やッ!」
少女を胸に抱いた。
瞬間、訪れる大地の隆起。
仲間の技ではなく――原典のエネミー、岩石の蜥蜴によるものだった。
鋭利な杭が地面からせり出し、彼を穿つ。
背中に命中したものの、辛うじて鎧に守られた箇所だ。
【聖騎士】という肉体強度が上がる職の補正も相まって、軽傷。
ましてや彼の手で包まれたベルタは反撃の隙すらあった。
助言を元に、素早くエネミーを片手の枠に収め、消し去る。
しかし衝撃は残った。突き飛ばされ、ゴロゴロと転がる二人は小さな窪みに落下。砂塵が舞い散る。
気も緩めず、菅原は眼前の少女を確認。胸の中で縮まるベルタは、傷一つ無い。
「ええか!?このゲーム、レアエネミーの価値は分かっとるやろ!?」
「ぅちょっ!近い近い!?」
「せや、近いんや!天恵を得るチャンスはオレらがいっちゃん近い!」
「そういう意味じゃなくッ!」
もはや顔と顔が接触しそうな距離で話の続きをなぞる。
対してベルタは気が気ではない。見つめられ、しどろもどろに。
ついでに菅原は"近い"の意味を履き違えている。
「けどそれが大噴火して、今日は山すら派手に割れた。他のプレイヤーがこれを放置すると思うかッ?『絶対何かある』、そう思って火山来るに決まっとる!」
大きな環境変化に、破壊された地形。
これを目にしたプレイヤーは何を想像するかは明白だ。
「余程おめでたい奴じゃなきゃ、レアエネミーが居るって気付く!!プレイヤーが血眼になって探すくらいや、妨害やPKも出てくるッ。現実まで暴力沙汰になった例もな!オレらのチャンスは無いに等しくなんねん!」
彼らのギルドは所謂ガチ勢ではない。仲間との交流を優先し、ゲームを楽しみ、ついでに僅かな小銭でも稼げれば万々歳。そんなスタンスだ。
天恵を求めて止まない狂乱者と競れば、後塵を拝する。
故に時間との勝負。他所の介入を許す前に、自分たちでケリを付けたいと言う。
――己の成すべき事象とは、他のそれとは相反して然るべきであろう。
――みんな中途半端なんて許さない。ちゃんと最後までやれって言う気がする。
思い出すのは二人の言葉。
今まさに、彼はその意志に従い本懐を遂げようとしている。
「でも元は…ウチの、ウチだけの我儘なんだよ…?」
しかしベルタは、悪魔や沙多のように割り切れなかった。
どれだけ頑張ろうと、必ずどこかに迷惑はかかる。
そして誰かの傷付いた顔を見れば、彼女は立ち止まってしまう。
「あんなことがあったのに…どうして何も言わないの?どうしてここまでしてくれるの…?」
それでも目の前の彼は――成功したとしても己に得など無い決死行を、少女以上に願っていた。
今までの嘘を知ったとしても、何も言わず少女の傍で身を捧げていた。
「あのなベルタ…これは――」
「リーダーは辛辣そうでお人好しだからねっ、どうせ気にしてないとか言っちゃうんでしょッ」
菅原の胸にうずくまるベルタ。
彼はそんな少女に両手を頬に優しく添え、向き合い――力いっぱい揉みしだいた。
「オ、レ、の、我儘!そんだけや!」
「もぎゃ~ッッッ!!」
ムニムニと頬が縦横無尽に駆け巡ること数秒、ようやくその両手から解放。
「オレがお人好しやから気にせんて?気にするわボケ!むしろ特別重いっての」
「は、はい…っ?」
「あと例の悪魔がシンプルに怖いっ。立ち止まってたら何されっか分からんやろ!」
「ちょっとッ!そこは言うセリフ違うでしょ!せっかく良さげなムードだったのにッ」
「知らん知らん!怖いもんは怖いわ!ほら、行くで」
「ヤダッ、やり直し!やり直し!」
立ち上がった菅原は、半ば無理やりベルタの手を取った。
また尺微妙なので話を二分割します。続きは近いうちに
もしラブコメ描写上手だったら深堀りした気がするけど、作者がギブアップしたので退場です。死ぬかもしれん場面で何イチャついとんねん。
沙多もベアルも出番が全くないオンライン




