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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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7.願いを零すは熱と喝采【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「…やっぱり、ウチがあんなことしなきゃ良かったのかな」


 一方その頃、悪魔に運ばれているベルタは大人しかった。

 状況は悪化の一途を辿る現実に、表情は曇っている。


「最初から何も言いださなければ、誰も…なにも壊れなかったし…」


 悪魔には興味が無いだろうと、だからこそ零した懺悔だった。

 やがて、火山を見通せる地点へ移動を終えると、彼は少女を放り出す。


「ウヌは妙な事を言うな?己の成すべき事象とは、()のそれとは相反して然るべきであろう」


 だが意外にも話を聞いていた悪魔は、彼女を解せないと見下ろした。


「人であろうと獣であろうと、個の欲求に偏れば、余所(よそ)に綻びが生じるのは必然よ」

「じゃあ、やっぱりウチは…――」

「――ならば、本懐を遂げるとは()であるか?断じて否よ!!森羅万象が否定しようと、己はその過程を肯定せねばならぬ」


 確固たる自尊。ブレない芯を有して他を淘汰する豪傑は、他を顧みず突き進むのが求道者の道理と説く。


「それが意志であり、己たらしめる表象というものよッ」


 たとえ世を混沌に導こうとも、どれだけの命が消えようとも、これまで悪魔がそうしてきたように。

 

「故に吾は、()が覇道を讃える為に()るッ!人間とて自らその意志を摘みとるほど腐っておるまいなっ?」

「――ベル~!ルタっち抱えてどこ行ってんのー!?」


 ベルタが返す言葉を失っていると、沙多が菅原を連れ追いかけて来た。


「ッ…リーダー…」


 歪んだ関係のまま、再び目が合った菅原とベルタ。

 互いにどんな顔をするべきか、何を言うべきか息を詰まらせる中――悪魔はそれらの事情を無視し、沙多へ問いを投げた。


「妹君よ、ウヌは宿願のために捧ぐ覚悟は備わっておるか?」

「え、もち。ってかいきなりどしたん?」


 一人、火山の頂点を見据える悪魔。

 彼が背中を向けたまま尋ねたそれに、沙多は一瞬の戸惑いも無く答える。


「それは()を犠牲とした上で成ったとて、変わらぬか?」

「うん?アタシのせいでベルとかルタっちが悲しむ的な事?」


 彼女は「だとしたらヤだな~」と少々頭を抱える。


「ん~けど…やっぱ自分(アタシ)優先かなぁ」


 しかし、数秒も費やさず割り切った。 


「つまりそれってさ、傷付くほど超頑張って協力してくれたってことっしょ?アタシの為に」


 沙多は優先順位をはっきりと明確にしている。故に迷わない。

 自分はとにかく動くことしか出来ないと知っている。

  

「なら余計に諦めたら駄目じゃんね?それこそ頑張り無駄になるし――みんな中途半端なんて許さない。ちゃんと最後までやれって言う気がする」


 それは身勝手な信頼。

 かつての悪魔からそうされたように、彼女も勝手に期待し、期待されると決め、体現しようとしていた。


「結局何、ワガママの話?だったら聞くよ?アタシ迷惑かけるのは得意だから」

「クハハハハッ!!やはり妹君は明快よッ。――クラゲ娘ッ、これはウヌの腐敗した意志との手向けであるッ!」

「…えっ、あんちゃん何するの!?」


 沙多の答えが気に入ったらしい悪魔は昂ぶるままに、魔力を体の中枢に集め始めた。


「クラゲ娘と吾らは大いに異なるっ。故に数多の意志を摘もうと、あまつさえ道を阻まれようともッ、吾は吾の成す偉功を――世界の慟哭として轟かせようぞッ!!」


 高く掲げるは右脚。

 彼の巨躯を通して大気が震え始める。

 つま先を天へ向け、やがて頭上で止まるそれは――踵落としの構え。

 

「――"天土穿(あまとうが)ち"!!」


 そして豪脚が振り下ろされた。

 踵が戦斧のように地面を割る瞬間、合わせて魔力が解放され、炸裂。

 二度目の噴火と錯覚するほどの大規模な音を響かせる。


 刹那にして縦一直線。悪魔の地点から数百メートル以上ある頂上まで亀裂が生じ、大地から魔力が吹き荒れた。

 脚から伝播し、地脈から噴き出したそのエネルギーの塊は全てを削り取り、空まで破壊の威力を届ける。


「往け、後はウヌの足で駆るのみよ」

 

 引き起きした大地震が収まる頃には、悪辣な環境は形を変えていた。

 行く手を阻む溶岩流や障害物は消え失せ、(いただき)まで一つの道が出来上がっている。


――今まさしく、悪魔は山を割った。


 あまりの事態に口がポカンと開いたまま塞がらないベルタ。

 そんな胸中も知らず悪魔はレアエネミー討伐を成せと、少女を後押し――…というよりも、急かしている。


 無言の背中から語られるのは、「そこに道が在るのに何故進まない?」という圧。

 抱え込んだ責任や負い目、虚偽の露呈など、全て彼には縁が無い話だ。

 故に人の心を理解できない悪魔はもどかしいとばかりに、勝手に彼らの歩を進ませる。


 そんな鬱憤が形となって表れた今、ベルタの顔に汗が滝の如く流れる。

 なにせ心の準備が出来ていない。

 

――ホントに今からやるの!?

――レアエネミー強いのに大丈夫…?

――というかリーダーとはまだ何も話せてない

――え、ホントのホントに今からやるの!?


 霧のように思考が巡り巡って一歩を踏み出せない中、菅原は少女の手を引いた。


「…サンキュなあんちゃん。行くでベルタ」

「え、リーダーほんとに言ってる?今からやるのはきついよ!?」

「それでもや、これだけは()やないとアカン」


 沙多と悪魔の言葉を受け、菅原は無理やり迷いを断ち切った。と同時に、何か急いている様子だった。

 

「…それってどういう――」

「――ちょッ上!()()んだけど!?なんで!?」


 意図が分からずベルタが尋ねる寸前、沙多の声が驚愕に染まる。

 指すのは山頂、上空に浮かぶ輪郭。

 仰ぎ見れば、炎を纏った怪物――不死鳥が顕現していた。


「獣とて住処を荒されたならば、黙らぬのは必然であろう?妹君よ」

「ベル、あれ獣って次元じゃないからっ」


 今回は召喚の儀を試みていない、しかし火山の破壊行為は同等の憤慨に値したらしい。火山は再び噴火を告げる。

 溢れ出る噴出物と、やや遅れて鳴るけたたましい爆音。目視でも山頂が灼熱に染まり始める様が確認できた。


「ほら!リーダーこれじゃ無理だよ!」

「落ち着け落ち着けッ、見てみい」


 想定より何倍も早い会敵。若干溶岩がトラウマになってるのか、ベルタは菅原の肩をガックンガックン揺さぶる。

 対して彼は少し冷静だ。ヘッドバンギングさせられながらも上方の溶岩流を指差す。


 本来ならこちらまで迫ってくる溶岩。

 しかし悪魔によって、派手に地形は破壊されていた。

 至る箇所に地割れや亀裂が地下深くまで生じ、進行はそちらへ吸われ被害は軽微。

 一面が火の海になる最悪の事態は避けられていた。


「す、すごい…あんちゃん、これ分かってやったの…?」

「ム?」


 否だ。

 彼からすれば、最短の道に石が落ちていたから蹴飛ばした程度。

 二次被害や、その対応など微塵も考慮していない。


 何はともあれベルタはようやく肩を揺さぶるのを止める。

 僅かな希望を見出し、菅原の顔を見れば――


「【アイアス】!!」


 突如、彼は山頂側へ向けてスキルを発動。半球状に幾何学模様の障壁が広がる。

 半透明なそれは全員を多い、さらに大盾もインベントリから召喚し、二重の防御を取った。

 刹那、ジィッ!とベルタにとって死をもたらした音が反響。

 それが怪鳥によって放たれた熱線だと気づくに時間は要さなかった。

 同時に、菅原に庇われたとも理解する。


 とはいえ、伝った衝撃は大きかった。

――しかも一つではなく、複数の衝撃。


「リーダー…流石にこれは想定外でしょ!?なんで()()()()!?」


  

 ベルタは盾の隙間から覗き、絶句する。

 彼女が捉えたのは山の上空。災害とも言える()()()()()

 この瞬間まで一体だけだったはずが、しかし事実として、十を超えるレアエネミーが空を舞っていた。

 さらに気性荒く咆哮を上げるその様は、以前よりも遥かに狂暴。

 

 複数体に渡って振りまかれる火の粉に、灼熱の嵐。

 もはや間隔など無しに打ち込まれ、視界が眩み、焦げ付いた匂いが漂う。

 警戒すべきは多角的。敵はバラバラに飛翔している。まさに四方八方の全てが敵の間合い。


 全てが飽和するほどの地獄が顕現しようとしていた。

 菅原がとっさにスキルを展開したものの、半球状の障壁にヒビが入る。

 絶え間ない無秩序な暴力により、突破される寸前だ。


「…それでも今、倒すべきやろ」


 しかしベルタを尊重し、安全第一に考えてきた行動とは一転、菅原の意志は折れない。


「絶対危ないって!リーダーも死んじゃうってッ!」


 少女のトラウマが再来している間に防壁は崩壊。敵を凌いだものの、五秒間だけ。

 次の瞬間には、再び熱線や火炎放射が襲い――


「【マギア・バースト】!!」


 同時に沙多がインベントリから銃を召喚。奥義を放つ。

 膨大な魔力と引き換えに撃つそれは、数多の脅威を掻き消しながら進み、上空で爆ぜた。

 敵の攻撃すらも貫いて、何体かの怪鳥を穿ち、灰が舞った。

 

「よく分らんけど行くんでしょっ?ならはよ行ってッ。アタシ引き付けっから!」

 

 とはいえ相手は復活する能力を有する。

 次第に集まって形を成し、元通りとなる。が、狙い(ヘイト)は沙多へ向いた。

 すぐさま菅原は感謝を目で伝え隠密に、だが迅速に走る。

 手を引かれるベルタは泣き言を吐きながらも彼を歩を同じくし、遠ざかって行った。


「…って言ったけど、正直今ので魔力ヤバいんよね、まじカラカラ」


 やがて二人を見送った沙多は耳に届かない距離になると、弱音を吐く。

 魔力が切れた証として、眩暈が襲い、足取りがフラついた。

 そんな彼女は敵の注意を一心に引いている。魔力回復薬(マジックポーション)を使う暇は与えられない。

 攻撃はレーザーのように高速で迫り、命の猶予など瞬きで消える。今の彼女に防ぐ手立てはない。


「だからさベル、ちょいお願いしていい?」


――ドンッ!と地面が揺れる。

 舞う砂塵と礫塊の隙間に、沙多は悪魔の姿を見た。

 

 晴れた視界には、珊瑚礁の如く積もった無数の塊。

 その射線を塞いだ正体は、悪魔が大地を踏み抜いて裏返し、降り注いだ岩の雨だった。

  

「クハハハハッ!!吾に預けるがよいッ、全てを撃墜してみせようぞッ!」


 地面を隆起させるベルタの模倣技を更に真似てみせた悪魔。

 彼は抱いていたもどかしさから一転、群鳥を前に高笑った。


ベル「天土穿あまとうがち!!」

沙多(甘党がち…?)


某大乱闘するゲームでのガ〇ンドロフの上強攻撃と、テ〇ーのパワー〇イザーを組み合わせた技みてえだなとは思った。すごい思った。


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