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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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7.願いを零すは熱と喝采【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 泥に沈んだ体が引き上げられるように、少女――ベルタは覚醒する。

 ぼやけた視界に映ったのはギルドにある自室。

 だが景色は異なる。窓から入る光は僅かで、灰に覆われたような薄暗さ。

 彼女の寝室は拠点の二階。いつもの癖で一階へ降りようとすると階段は封鎖されていた。

 壁と床には亀裂が走って建物全体が歪み、焦げ付いたような臭いが充満している。

 彼女の知る、質素ながらも愛しいギルドの姿は無かった。


「大丈夫…。覚えてる…覚えてる」


 記憶を一つ一つ辿り、半ば暗示めいたように抜け落ちた箇所を探る。

 

 自分の名前…覚えてる。

 死んだ原因…覚えてる。

 出会ったみんなの事…覚えてる。


 具体的な忘却内容は思い出せないものの、『何らかの記憶が欠如した』という知覚は可能だった。

 結果、目立った重大な記憶は飛んでいないことに一安心。

 とはいえ、必ず何処かは欠けている。その不明瞭な事実にベルタは冷や汗を流した。 


「お疲れさん、調子は(わる)ないか?」


 菅原がコンコンとノックが響かせ出入りする。ドアが使えず、窓からの入室だった。

 『ルシフェル・オンライン』はゲームオーバーとなった場合、復活しログインが可能になるには約半日の時間を要する。

 そんな今、こちらは日が暮れ始めた一方で、現実では正午を指していた。


「…大学は?今日はあるんじゃないの?」

「今日は休みや、暇やし気にせんでええ」

 

 彼の手を取りベルタも窓から外へ出る。

 そして彼女が見たのは瓦礫に埋もれた我が家(ホーム)

 噴火は静まったものの、灰や噴石が降り積もり一階は完全に潰れている。

 これまでに蓄えた金品や、集めたアイテムは下敷きとなり原型を留めているか不明。

 彼らの拠点は事実上、機能停止していた。


「願い叶えた後はホームの掃除からやな」


 しかし、菅原あっけからんとした態度だった。

 決して安くない損害を抱えながら、この程度は屁でもないと、彼女に伸し掛かる重責を遮る。

 そして変わらず天恵の為、挑み続ける意思を言外に告げた。


「…?なんの願い叶えるの?」

「おいおいボケたんか?お前が言い出したんやろ。んで理由(ワケ)は後でって――」


 しかしベルタは首を傾げる。まるでそれが自分の事では無いように。

 

「――あれ、そうだったっけ?」

 

 火山攻略に乗り出したのは覚えている。

 しかし、動機が思い出せない。何故、天恵を欲しがったのか思考にノイズが走る。

 

(あ~、これかぁ)


 違和感から、ベルタは欠如した内容を悟った。

 自分(ウチ)は天恵で何かやろうとした。おまけに誰にも言わず秘密にして。

――じゃあきっと、死の代償(デスペナルティ)に関係する事だろう。


「リーダー冗談だってばっ、次はレアエネミーなんか一発で消しちゃうから!天恵もすぐ貰っちゃうよ!?」

 

 少女の出した結論は見事に当たっていた。

 以前の行動を、寸分違わぬ動機を推測してみせる。


「…まぁええか、後でもっかい挑戦やな」

「うん、今日の夜でしょ?みんなが来れるのは」

「せやな。…ベルタはこのまま残るんか?まだログアウトせんのやったらオレも暇つぶしくらいには付き合えっけど」

 

 過去と現在の自分、その帳尻合わせ。

 既に何度か死の代償(デスペナルティ)を経験しているベルタにとって、整合性を取ることは多少慣れていた。


「やっさし~!じゃあリーダー付き合ってよ、どうせウチはログアウト出来ないし」


 故に、致命的な側面に気付かない。


「外の世界と違って退屈なんだよね~」

「――は?お前、何言って…」

 

 まるで時間が止まったような緊張。唖然とした表情が向けられる。

 これにベルタは不思議そうに首を傾げる。

 何故、驚いている?これはもう打ち明けた事じゃないのか?と、疑問を浮かべ――ハッと胸に手を当てた。

 

(やらかしたっ…。忘れてたの…こっちだッ…!)

 

 血の気が引いていく感覚に襲われる。

 動機の忘失は、あくまで二次的なもの。本質は別にあると遅まきながら理解してしまった。


 それは記憶や出自という、周囲には受け入れがたい事実について。

 真に失ったのは――関係を壊したくない、離れたくないが故に、伏せると決めた誓いだ。 


「!?…おい、ベルタッ!?」


 やがて、居た堪れなくなった少女はこの場から逃走。

 背後から声が響くが、顔を合わせることは無かった。


――――――

――――

――


(どうしよ!?バレちゃったッ…どうしよう!?)


 俯き、焦燥の赴くままに自分の居場所から遠ざかる。

 呼吸が乱れ、痛いほど胸を強く掴み――


「あ、ルタっち!だいじょぶだった?」


 そんな時、沙多のいつも通りな声が投じられた。

 記憶の件は教えてないが、生い立ちは彼女に打ち明けている。

 これはちゃんと覚えてる、話して大丈夫だ。と判断して足を止めた。  


「サっちゃん~ッ!どうしようっ…リーダーにウチの事バレちゃったッ…」

「え、ガチ!?やっちゃった?キャパ超えてスガ死んじゃわない?」


 涙目になって沙多に抱き着くベルタ。

 よしよしと宥めるが、一向に収まる気配はない。


 機が熟した場で自ら告白するのと、不意に漏らしてしまうのとでは訳が違う。最も望んでいなかった形での破綻だ。

 長らく共にした相手が現実に存在しないと明らかになった。ましてや、彼が自分自身の願いで生み出した存在。

 菅原は今、どんな胸中なのかは誰にも推し量ることは出来ない。


「ん~でもさぁ――ぶっちゃけ変わんなくない?」

「え、うそッ…サっちゃんも何か軽くない!?ウチのデリケートな問題なのにっ…」


 しかし沙多は鬱蒼とした空気を一刀両断。

 気軽な調子で、崩壊した今を問題無いとする様は、悪魔を彷彿とさせた。


「えだって、ルタっちも気持ち自体は変わらんでしょ?あとスガなんて特に頑固だし、ずっとルタっちのこと好…ゴホンッ、大事にしてんじゃん」


 お互いの秘める気持ちに横やりを入れないよう咳払いし、持論を説く。


「だから何回でも話しまくれば別にいんじゃね?てかむしろ、今バレて良かった説ない?アタシ馬鹿だから良く分からんけど、こういうので遅くて得した~って思ったこと、ほぼゼロだよ?」


 迷わず、即行動を基準にする沙多だからこそ、もどかしく感じたのだろう。

 もう一度、菅原に会うべきと諭していれば――大きな何かが二人の傍に着地。

 地面を凹ませ、現れたのは悪魔だった。


「――フム、やはりこの溶岩流には魔力が(かよ)っておるな。自然のそれとは異なるかっ」

「あっベル、おかえり」


 悪魔が独白のように告げるのは、噴火と戦闘の影響ですっかり変化した環境だ。

 本来、この拠点は土色の岩肌ばかりの立地。しかし今では灼熱の川が無数に乱立し、とめどなく流れ続けていた。

 時間が経てば冷えて固まる天然物とは違い、レアエネミーによって無限に湧き出る溶岩は特別仕様らしい。


 もはや人の生活圏ではなく、自由に行動が可能なのは、人間よりも遥かに屈強な体を持つ悪魔のみ。

 故に彼が偵察として赴き、ちょうど今帰還したのだった。


「そういえば、あの後レアエネミーは…どうなったの?」

「ベルが一回追い払ってくれた。エグかったよ?溶岩ダイブしても無傷だし。けど相手もバリしぶとくてさぁ」


 と、沙多は雑談モードになりかけた己の口をチャック。

 脱線した内容を戻そうと、ベルタを菅原の元へ行かせようとする。


「――してクラゲ娘が蘇ったのだろう?ならば即刻『れあえねみぃ』を打ち取ろうぞッ」


 しかし悪魔が自身の野望を最優先に仰ぐ。「ちょっベル?」と背後から声が上がる中、事情などお構い無しにベルタを腰に担いで歩き出した。


「え今から?あんちゃん凄いこと言ってない!?みんなが揃うまで待とうよっ」

「ウヌが掉尾を飾るのであれば、人間の数は関係あるまい」


 唯一自由な足でバタバタと抗議するも止まる気配は無い。

 天恵は、最終的にベルタが貰う必要がある。

 つまり対峙するのは彼女自身。最低限の役者は居ると主張。


「でもベル、溶岩あちこちあるし、もう頂上までなんて行けんよ?」

「クハハハハッ往く道に積もる塵程度、吾の歩みには関係あるまいッ!」


 レアエネミーの活動により、今まで利用していた道に溶岩が流れ、山頂までの経路を確保できず困難を極める。

 しかし返されたのは傍若無人な回答。これには沙多も思わず固まり、追いかけられなかった。


 ポカンと口を開け、誘拐されたベルタと共に遠ざかる様を見届けて十数秒。

 そんな沙多に気付けの役割を果たしたのは菅原だ。

 遠くから「おーいッ」と声をかけられ、放心状態から戻る。


「沙多、ログインしとったんか!学校どうしたんや」

「んー?ズル休み」 

「お前もか…いや、それよかベルタ見たかっ?走ってどっか行って――」

「ベルに拉致られて山の方行った」

「どういう状況やねん!?」


 こちらでもキャパオーバー間近の菅原、しかし沙多とて悪魔が何をやらかすか不安で仕方ない。

 既にベアルとベルタの姿は消えている。

 二人はすぐさま後を追うため、駆け足となった。


「――てか『お前も』ってことはスガも?講義とかレポート大変ってグチってたのに余裕あんじゃん」

「余裕なんか無いわ。ただそれよか、もっと優先するモンがあるってだけや」

 

 彼女は言った、ズル休みであると。そして菅原も同一だった。

 沙多の心境はまだ分かろう。ベルタはゲームの世界だけの存在と知ってしまっている。気が気でなく、居てもたってもいられなかった。


――だが、菅原はそれら一切を知らなかった。

 しかも嘘をついてまで、ただのプレイヤーと認識していたはずのベルタの安否を確認。

 そのためだけに予定を全て中止し、顔を出そうと決めて今日を迎えた。


 今、ギルドメンバーの姿は彼以外に無い。

 光平(こうへい)宗谷(そうや)は、学校で授業を受けているのだろう。中でも社会人である真美(まみ)は、流石に仕事をサボるわけにはいかなかった。

――とはいえそれが普通だ。痛みや金銭等の代償を伴うとしても所詮はゲーム。

 二度と会えないわけでもなく、また夜に集合すればいいだけ。そういう認識。

 リアルの行事が優先されて然るべきだった。


「さっさと告らん?いや、もう告ってそれなん?」

「はァッ!?」


 沙多が何を感じ取ったのかは誰にも分からない。

 しかし静かな、呆れた目つきだった。

なんか二章に違和感あるなーって思ってたらタイトルに数字つけるの忘れてた。

通りで見づらいわけだ。


ついでに序章や一章と比較すると、今の二章が倍くらい長くてたまげる。

もしベルタや菅原達に会わずに火山攻略したら、三話くらいで終わってる。作中時間にして一時間くらいで終わってる。大体ベアルのせいで早く終わる。全部ぶっ壊す



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