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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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6.心理を穿つは熱と喝采【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「――やはり吾の知らぬ生命であるな」


 単身飛び出したベルタを一同は追う。

 しかし悪魔だけはそれに倣わず、一人その場から動かず佇んでいた。

 見上げるのは炎を纏う怪鳥。ゲームや漫画に慣れ親しんだものからすれば、ある程度モチーフを察せれるが、生憎それらと無縁。彼の元居た世界でも存在しないエネミーだった。

 

「ならば喰らって吾の糧としようぞッ」

 

 悪魔は少女の安否など無関係。誰も挑まぬのであればと、己の闘争のみを優先する。

 

「ベル待って!ルタっちと協力しないとなんだから」


 しかしこの場に残ったのはもう一人、沙多が居た。

 彼女が制止しなければベアルは即刻、レアエネミーに殴り掛かるだろう。

 注意だけを引こうにも、彼の膂力では牽制どころか、撃破にまで至ってしまう可能性すらある。

 

 だがそれでは本懐を遂げない。天恵の所有権が悪魔だけの物になってしまう。

 仮にそのまま『他人の記憶の回復』を願ったところで、結果は未知数。

 "レアエネミー"という括りはあれど、強さや希少性は様々。もたらす天恵の質もピンキリだ。

 想像以上の効果をもたらす事もあれば、失敗、または中途半端な結果だけを残し、徒労に終わる可能性すらある。


 ならば最悪の事態を想定し、ベルタ本人が思い出したい記憶と情報を吟味して、事細かに天恵へ願う必要がある。


「――だが妹君よ、クラゲ娘が潰えた今、それは詮無きことではないのか?」

「…えっ?」


 しかし彼は冷徹に、淡々と事実を伝える。

 悪魔の知覚能力は人間を大きく上回る。千里眼とも言える眼が、地獄耳とも言える耳が、そして数々の命を淘汰してきた経験に基づく本能が、少女の死を正確無比に感じ取っていた。


「うそ、ルタっち…!?」


 沙多が視線を投げるも、人の五感では何も拾えない。

 あるのは、遥か上空からレアエネミーが熱線と火炎を振りまく事実のみ。

 今、誰がどうなっているか、何をしているか、何の状況も把握できていない。

 

 悪魔の言う事が本当か?

 ベルタは死んだのか?

 何にせよ仕切り直すべきだ。

 大噴火を起こした時点で前提も破綻している。

 だが、撤退したらみんなの拠点はどうなるのか。

 噴火の影響で次回の攻略はもっと困難になる。今が最後のチャンスかもしれない。

 ならば立ち向かう他ないのか?

 だが、今倒してしまえばベルタの願いも無駄になるわけで――


「あ~もう、頭よかったらなってガチで思う!」


 そこで沙多は渦巻く思考を中断。

 賢い選択をするなど、到底出来ないと諦める。

 彼女はテストの点は赤点、こういった場面で劇的なアイデアも浮かばない。

 合理的な行動も分からない。「アタシ(バカ)に正論を説く方がバカ」と自負している。

 新堂(アイツ)がいたらなぁと、組織の頭脳派(ブレーン)を思い浮かべるも、なんか癪なので思考の片隅に追いやる。


「決めた!ベル、やっちゃって!!もう倒しちゃう!」


 故に、彼女が唯一取れる行動は、迷わない事のみ。

 良く言えば即断即決、悪く言うなら後先考えずの浅慮。

 しかしそれでも、とにかく状況が追い付かなくなる前に動くべきと沙多は割り切っている。


「クハハハッ腹を据えたかッ!承ったぞっ妹君よッ!」


 これに悪魔は笑みを浮かべる。

 今この瞬間まで、彼の中で不完全燃焼が続いていた。


 どうしても攻略が慎重になる火山という環境。

 ただ奥地へ進み、敵を倒すだけでは成し得ない召喚の儀。

 それらを人の丈に合わせ、行動を共にしなければならない閉塞感。


 暴力に全てを任せ、解決出来る場面など幾らでもあった。

 ここまで沙多が何度も手綱を握らなければ、力業のオンパレードだっただろう。その際の犠牲や代償は、言うまでもない。 

 だが、ひとえに沙多の意志をベアルは認めている。

 故に従った。己の理念と違えども、それに意味があると信じる彼女を見届けるべく。


 そして今だけは、二人の思惑が重なった。

 成すべきは敵の排除。

 悪魔はその決定に、久方ぶりと闘志を意のままに漲らせた。


――力を溜め、解放。豪脚によって大地を揺るがし、空高く跳び上がる。

 空気を掻き分け、一瞬で宙を舞う敵の元へ肉迫。勢いのまま脚を振りぬく。


「やはり単純明快!これが全てよっ!」


 一撃だった。撃ち落とすには、それだけで余りある。

 悪魔は弾丸のようにレアエネミーの身体を突き抜け、置き去りにした。

 驚愕する鳴き声を背中に、そのまま溶岩だまりへ着地。

 派手に飛沫を散らすも、当然のように無傷。


「クハハハハッ、吾が喰らってくれようぞ!――ムッ?」


 敵の墜落地へと足を運ぶ。が、そこに居るはずの怪鳥は突如、姿を消していた。

 悪魔が標的を見失い、逃走を許した可能性もありえない。

 ならば撃破にまで至ったと考えるべきだろうが、彼の感触はそれを是とせず首を傾げる。

 百戦錬磨の豪傑として得た経験が、現実とすり合わない。

 辺りには灰のような粉末が広がるだけだった。


「あまりに脆弱…吾の感覚が狂ったか…?」


 拍子抜けの心境を現すように風が吹き抜け、灰をさらって空へ舞い上げる。

 喧噪に塗れるはずだった戦場は、嘘のように消えた。

 あるのは未だ噴き出し、一帯を飲み込み続ける溶岩の流動音のみ。

 己の掌を見て、握り、反芻。自身の力量を見定めること数秒――


――悪魔は空を見上げる。

 次いで、熱線がジィッ!と音を上げ胸部に命中。が、屈強な肉体がそれを弾く。

 阻まれ、散乱した残り香は、周囲の岩を溶かし、爆ぜるように地面を穿る。


 紛れもない、心臓を狙う殺意がそこにあった。


「興味深いっ、ウヌの真価はそれかッ」


 これに焦る様子もなく、ただ口を吊り上げる。

 その先には消失したはずのレアエネミーが――金と紅の翼も、はためく篝火(かがりび)の尾も、全てが傷一つなく、再生していた。

 

 愉快と声を上げ、再度ベアルは追撃を開始した。

 噴火により出た火砕流、自身の丈を上回る巨岩を、軽々と片手で拾い上げ投擲。

 もはやミサイルのような速度を出すそれは、レアエネミーと言えど対処は間に合わない。

 速度によって崩れ、散弾となった無数の礫が打ち抜き、怪鳥の体を虫食い状態に抉った。


――しかし、倒れない。

 血肉の代わりとばかりに宙に舞った灰。それが燃え、集まり、不死の身体を再構築していく。


「吾が真に滅するまで屠りつくしてくれようぞッ!」


 こうして、戦いの音は長く響き渡る。


――――――

――――

――


 結果、三十七回。

 それが完全な消失までに費やした回数だ。

 途中から沙多や菅原達も合流し、スキルを用いても、効果が見込めるようなアイテムも用いても、無慈悲に復活。そして遂には幻のように消えた。

 

――何よりも不可解な点は、こうまでして尚、撃破した扱いになっていない。 

 得られた成果は何もなく、ベルタが死んだ事実だけが残り、その日は終わった。

 

こういう話を二分割するとき、二話目をいつ頃に投稿すればいいのか悩む。


最後の三十七回戦は、集団リンチ+ベアルも居たのでわりと楽に処理できた。

なんなら途中で復活条件とか、効果的なスキルとか検証までしてる。

結局いまいち収集は無かったけど可哀そうな扱いだった。


たぶん沙多は途中で「焼き鳥食べたいなぁ」って思ってる

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