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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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6.心理を穿つは熱と喝采【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 鼓膜が揺さぶられる中で、悪魔は山頂から山腹へ弾道を描くように着地。

 砂煙を巻き上げ、十メートル以上の軌跡を残したところで止まる。重力魔法のおかげで衝撃は最小限。

 同時に噴石や火砕流が降り注ぐ。頭に当たるだけでも致命傷になるが、ベアルが巨躯であるおかげか、彼の肉体が全てを粉砕し誰にも被害は出ていない。

 

「ベルぅ…っ、マジでありがと…死んだと思った…」


 息を切らした沙多が礼を告げるが、呆けている時間は無い。

 押し寄せる溶岩流と共に、金切り声が大きく響いた。

 噴火の轟音にも並ぶ、耳を劈く甲高い鳴き声。

 その出どころは山の峰よりも遥かに高い上空だ。


「あれがレアエネミーか?」

「…っぽいね」


 見上げる菅原に沙多が肯定する。

 目に映るのは金や紅で彩られた鮮やかな翼。篝火(かがりび)の如き尾が宙で靡いており、遠くからでも形をはっきりと視認できるほどに雄大。


「…鳳凰(ほうおう)だ」


 宗谷(そうや)が零した言葉の通り、そこには炎を纏い、優雅に羽ばたく怪鳥がいた。 

 だが神々しく空を旋回するその姿とは裏腹、非常に気が立っている。

 理由は明白、召喚の儀式が最悪の形で終わったからだろう。


 荒れ狂う怪鳥は存在するだけで火災を振りまき、動く標的を見つけては熱線を放っていた。

 凝縮されたレーザーの如きそれは、相手がエネミーだろうと無機物だろうとお構いなしに地形ごと抉り取り、焦がしていく。

 流れ落ちる噴火の対処だけでも精一杯だというのに、レアエネミーも無秩序に暴れるという二重苦。

 沙多は討伐を諦め、撤退した前任者の気持ちが分かった気がした。 


「…ゆっくり動き悟られんように…溶岩が届かんトコまで下がるで」

「スガ、いいのか?俺たちのギルドが…呑み込まれるぞ?」

「しゃあない、オレの見通しが甘くてしくった。その代償や、皆スマンな」


 このまま放置すれば、溶岩流が彼らのギルドを飲み込むのは想像に容易い。

 それでも菅原は、パーティの安全と避難を優先した。

 リーダーが全ての責任を受け入れた以上、仕方ないと感情を抑え込み納得するしかない。

 光平(こうへい)真美(まみ)宗谷(そうや)は口を閉ざし、拠点がある方角に無念を向ける中――ベルタだけは、弾かれたように飛び出した。


「おい!?どこ行くッ!?」


 菅原の制止も聞かず、彼女はギルドを目指す。

 シャッターを切り。エネミーの技を模倣し発動。岩壁が自身の足元に出現、隆起するそれに乗りカタパルトのように加速する。

 当然、その行為は空を飛ぶレアエネミーに捕捉された。


「――ダメッ、やだ…!やだ!!」 


 まるで我儘を堪えられない子供の如く、ベルタは感情を漏らして駆ける。

 だが、けたたましい鳴き声が聞こえる。完全に少女は標的となった。

 数歩もしないうち、熱戦が少女の周囲を次々と穿っていく。それでもベルタは走ることを止めない。


――なあ、今は二人やけど…ギルド作らんか?

――共用のソファで寝落ちしないでくれ真美(まみ)(ねえ)

――倉庫に僕の罠入ってるからあんまり奥にいっちゃ…あ…


 かろうじて覚えている点々とした思い出。

 特に大事でもなく、くだらない。それでも楽しかったと刻まれた過去が、少女を突き動かす。


「ウチらの居場所が消えちゃう!」


 ベルタの記憶は死ぬ度に失われる。大切な思い出として、追憶する事はいずれ不可能になってしまう。

 形として残る何かを守らねば、自分の存在を証明する物は一つも無くなる。

 そんな変えようもない事実があるからこそ、危険に身を晒す。

 やがて、九死に一生という場面を何度も潜り抜けると、神殿の形をした拠点が目に入る。


「【ロック・リザード】!…【ロック・リザード】ッ!!」


 既に一階部分は溶岩に呑まれかけていた。

 玄関を彩った装飾は燃え、内装にまで火の手は広がっている。

 これ以上被害を生み出すまいと一心不乱に岩の障壁を打ち立てていく。

 だが八回ほど発動した所で、彼女の技は不発。

 不完全な防波堤を残して燃料切れとなった。


「もっとコピーのストック持っとけば良かったッ…!」


 少女の技は無尽蔵ではない。使いたい数だけエネミーをカメラワークに収める必要がある。

 今、彼女が使用できる術は何一つとして無い。


「ベルタ!上や!!」


 かなり遅れ、ようやく菅原が追いつくも、息つく暇も無しに声を荒げた。

 切羽詰まった叫び。駆け寄る彼に従い、ベルタが空を見上げると同時――


「――ァグッ…!!」


 怪鳥の熱戦がベルタの胸を貫いた。

 菅原が目を見開く。完全な急所、致命の一撃だった。

 体から立ち昇る煙。口から血を流し、倒れるベルタに手を伸ばすが――届かない。

 少女は彼の顔を見つめたまま目の光が薄れ、そのまま泡となって消えた。


「だァクソ!やらかしたッ!!守れんかったッ!」


 伸ばした手が空を切り、体が前に転がる。 

 這いつくばり拳を地盤に打ち付け、無力感に襲われる。

 一方で、上空を舞う敵意は衰えない。

 再度打ち出されたレアエネミーの攻撃は、既に彼の眼前へと迫っていた。


「【岩融(いわとおし)】ッ!!」


 寸前、次いで駆け付けた光平(こうへい)が両手剣を地面に突き刺しスキルを発動。

 固定された刀身で、熱線の反射に成功する。

 

「スガ、しっかりしろ!!まだやるべき事は残ってるだろっ!」

「…あぁ、せやな。ベルタの為に…ギルドは死守せなアカン」


 喝を入れられ、気を引き締め直す。とは言え現況は険しい。

 敵対するは強敵(レアエネミー)。取り巻く環境も一面が溶岩。

 加えて溢れ出る噴火流によってジワジワと行動圏が狭まっている。

 

「【蜻蛉切(とんぼきり)】!…やっぱり重戦士(ウォーリア)のスキルじゃ射程が足りないかッ」

 

 両手剣に光を集め、宙へ向かってレイピアのように突くと、光の刃が槍のように発射される。

 しかし距離が離れすぎている。威力が減衰していき、敵へ届く前にスキルは消えた。

 

「スガ、どうする!想定していたのは洞窟内での戦闘だッ。外で高く飛ばれたら打てる手があまりにも限られるぞ!?」

「外じゃ足場のネットも張れんしな。…真美(まみ)さんと合流する!オレらじゃどうにもできんッ」


 水の属性術師(エレメンタラー)なら或いはと、敵意に晒されながらも移動を開始。

 ベルタが決死で守ったギルドに狙いが向かないよう後にした。


 熱線を菅原の大盾で弾き、時には光平(こうへい)が地面を砕いて舞い上がらせ、隠れ蓑にする。

 しかし、この防戦一方の展開は、ある瞬間を境にパタリと敵の攻撃が止まって終えた。

 不審に思った二人が空を見上げると――悪魔が跳躍し、レアエネミーの眼前にまで迫っていた。


ちょっと短いので、次回早めの更新頑張ります。


余談にベルタの思い出として

・わりとギスるまで争った部屋割り

・誰も居ないと思ってギルドで熱唱する光平(上手い)

・たまーにデロンデロンの泥酔状態でログインしてくる真美

・自作した罠が暴発して小一時間吊るされてた宗谷

・盾サーフィンして派手にズッコケる菅原


などがあります。ロクな思い出ねえな

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