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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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5.果てに崩すは熱と喝采【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「待てー!」


 沙多と菅原が出会う同時刻、ベルタも炎の鳥を捕まえるために奔走していた。

 【仕掛け屋(トラッパー)】の宗谷(そうや)に作ってもらった虫取り網のような道具を振り回す。

 やがて金属に氷と水の属性が付与された特別な対火仕様のそれで、ようやく一体をキャッチ。

 耐火の加護がもうすぐ切れるという所で、成果を上げる。 


「ムッ?クラゲ娘か」


 すると、派手な粉砕音と共に壁の向こうから悪魔が現れた。

 ドガンッとお構いなしに岩壁を殴り飛ばし、溶岩すら飛散する中、最短経路でエネミーを鷲掴みにしていた。


「その呼び方なんかヤダなぁ…というか凄い捕まえてるね!?」


 悪魔の手元を見てみれば、六つの鉱石が握られている。無論燃えたまま。

 一方、数少ない少女の鉱石を見て彼は意外と首を傾げる。


「ウヌの技を用いれば容易であろう?何故行使しない?」

「あー、これって別にエネミーを捕まえる技じゃないの。これは()()がウチに持たせてくれた、ちょっと特別な技!」」

 

 ベルタはこの世界の住民であるが故に、プレイヤーのように決まった職種やスキル、体力や筋力といった能力値(ステータス)の補佐が存在しない。

 そんな少女が対抗すべく有しているのが、この強力な技だった。


「しかし果たして()()()()か?ウヌが身はル・シファル様より創られたのであろう?ならば他者の力を――」

「まだその人が()()か分からないからね!?それにウチは【召喚士(サマナー)】で通してるの。もし変な事したらバレちゃうでしょ!」


 【召喚士(サマナー)】とは文字通り、エネミーを使役し、必要に応じて呼び出す職種。これにはエネミーを捕獲、調教する為のスキルが存在する。

 一方で、ベルタのそれはカメラワークに収めたエネミーを強制消滅させ、対象が得意とした技を模倣(コピー)し強化、再現するもの。

 火炎の鳥に使用してしまえば、捕獲の範疇を超えてしまう。 


「記憶の件もそうだけど、内緒にしてよね?」

「しかし何故黙している?それに利などあるまい」


 天恵を少女へ捧ぐ分には異議が無い。が、少女の背負う記憶という代償。これを打ち明けない事に悪魔は異を唱える。

 今回の火山攻略で、ベルタは天恵を欲しがる理由を何一つ話していない。

 それでいて、彼らは何も聞かずに手を貸してくれた。

 もし他のプレイヤーだったならば成し得ない結果だ。

 

「記憶消えちゃうなんて知ったら、絶対みんな気を遣うでしょ!?特にウチのリーダーなんて心配性だからッ…」

「フム、人間は集合意識を持つと聞く。ならばその群れから外れるのを嫌うというわけか?」


 悪魔はどこまで行っても悪魔だ。

 人間の個ではなく、種族単位の観点でしか推測できない。


「違う違う!そんなのじゃ…――いや、意外と…そう…なのかも…?」


 しかし機微な感情に疎いからこそ、無機質に下した結論が少女に刺さった。


「ウチのせいで皆がギクシャクしたら…一緒にいても、遠く感じちゃう。みんなが一人ぼっちの気分になっちゃう。それって寂しいもんね」

「ムゥ…?それほどまでに失いたくないものであるのか?ウヌの立場とやらは」

「図太い人にゃ分からないだろうけど、きっとこれが親愛ってやつなんだよ?できるならずっと続けば良いって思うもん!」


 これが素晴らしいものだと説き、破顔するベルタ。


「難解なものよ。人間の交流など、瞬きもすれば消えうるほどの刹那であろう」


 対称に、悪魔がこの脆く短い関係を理解するには、もっと長い時間を要するらしい。


***


 集合地点に赴けば、解散前よりもその空間は荒れていた。

 見れば、至る所に岩石やマグマに似た残骸。

 捕獲対象以外にも、数多のエネミーが押し寄せた痕跡だが、光平(こうへい)が全てを凌いでくれたようだ。

 宗谷(そうや)が作った防火製の檻にはエネミーが数体。再燃せず、鉱石のまま大人しく入っている。


「ム?戦闘の痕跡があるなっ」

「なんや、珍しい組み合わせやな」

「あれれ?バッタリ?」

「ホントだ、ベルとルタっちが一緒なのレアじゃん」


 丁度姿を見せたベアルとベルタ、菅原と沙多のペア。全く同じタイミングでの帰還だった。

 

「この数で足りるんか?」

「う~んどうだろ、でもこれ以上エネミー沸いて無くない?」


 これで累計は十四体となる。

 四人が一気に合流したことで、収監する鉱石が目に見えて増えた。


「ところで真美(まみ)(ねえ)を知らないか?そろそろ水の加護が切れる」

「うわ、コーヘーが真美(まみ)ねえって呼ぶと従姉弟って感じでエモみある」


 この場に居ないのは【属性術師(エレメンタラー)】である真美(まみ)だけ。

 彼女が居なければ火山内の活動に大きな制限がかかってしまう。というか、悪魔以外は灼熱に耐えられずダウンしてしまうだろう。

 

「戻ったわよー。…加護あっても暑くて嫌になっちゃうわね」

「お、真美(まみ)さんめっちゃ捕まえとるやん」


 噂をすれば、残り数分といったところで当人が現れる。

 菅原が驚く先――彼女の背後には、以前に悪魔を捕らえたスキルの水球。

 その水の檻には十体前後の鉱石が含まれており、誰よりも捕獲に貢献していた。


「【属性術師(エレメンタラー)】だし、このくらいは当然よ。火山とも相性良いのよね、水って」

「流石、強(ジョブ)やな。俺もなってみたいわ」 

「じゃあ【聖騎士】なんて変なの選ぶんじゃないわよ、全く」

「え、聖騎士(それ)って変人用なん?アタシ地味にショックなんだけど」


 そんな軽い談話も程々に、彼らは移動を始める。


――――――

――――

――

 

「して妹君よ、こやつらを何処へ捧ぐというのだ?」

「うーんとね、多分こっち」


 沙多が先頭となり彼らを導くこと十分弱。

 檻を片手で担ぎながら尋ねるベアルの先には、段差や起伏が激しい上り坂が待ち受ける。

 それはいわば、火山の頂上を目指すような道のりだった。


「もっかい確認だけど、レアエネミーは炎系らしくて、火の玉とか飛ばしてくるらしいよ。遠距離タイプの敵ってあるけど、だいじょぶそ?」 


 メモに目を通す沙多は、改めて綴られた情報を共有する。 


「火なら私が有利な相手だけど…攻撃面は不安ね」

「物理攻撃が通じるのなら俺も加勢できそうだが、剣は届かないか」

「だったら僕が足場用のネット張る?そしたら高い所まで行けるよ」


 聞くや否や、彼らはすぐさま役割と対策を決めていく。

 これに一人(ソロ)での活動ばかりだった沙多は新鮮さを覚えた。

 新堂のギルドに身を置いてからもチームプレイの経験は少なく、相互理解と信頼を前提とした『パーティ』という概念は彼女にとって珍しい。

 だからなのか、その輪に嬉々として参加する。


「アタシも何か手伝うよ、出来そうなことある?」

「あ、じゃあ気になってたんだけどサっちゃんの(ジョブ)って【魔導士(ウィザード)】で合ってる?」

「そういや氷の魔法しか見とらんな、ってことは氷属性専門の【魔導士(ウィザード)】か…?いやけど前に回復魔法も…」

「あれ、言ってなかったっけ?アタシ【占星術師】」


 占星術師は使用できる技が非常に少なく、ネタが割れれば最も弱い職種だ。

 唯一の対抗札は、その弱さ故に、職種を悟られにくい『未知』であると言っても良い。

 しかし沙多は惜しげもなく開示。それは信頼の裏返しでもあった。


「うぇ!?沙多ちゃんって占星術師!?縛りプレイ…じゃないのよね…?」

「アンタ…そんなのでよく戦えるな…」


 とはいえ『ルシフェル・オンライン』ではハズれ扱いの絶滅危惧種。

 初めて実例を見たと、真美と光平は目を見開く。


 弁明しようと沙多が口を開こうとするも――側方の壁が揺れ、崩壊。

 複数体のエネミーが現れた。


「ム、敵かッ」


 即、荷物持ちで、いかにも退屈そうな悪魔が笑みを浮かべる。

 肩に保管用の檻を担いでるにもかかわらず、片手で十分と前へ出るが――


「――ベル、アタシにやらせて。今から凄さ見せっからっ」


 対峙するのは岩石めいた体の蜥蜴が二体、マグマを帯びたナメクジのような敵が三体。

 一度は戦った経験のある敵に、沙多が杖を構え、戦闘を買って出た。


「【区画結界(コロン)】!」


 開戦の合図とばかりに敵は自身の身体からマグマを噴射。

 人など容易に溶かすそれを、沙多は結界による半透明なバリアで阻む。


「からの【重力操作(サルタビコ)】!!」


 反撃として前回から引き続き愛用のスキルを行使。

 地面に魔法陣が出現し、強い重力が敵の動きを止めた。

 見るからに鈍重な蜥蜴のエネミーには効果が著しく、身動きの一つすら取れない。

 しかしナメクジもどきは軟体ゆえか、動けなくとも噴射攻撃は可能。故に後者を優先して排除にかかる。


 防壁として宙に固定された結界を散開。

 ガラス片のように細かく、そして鋭利に分かれた無数の結界がナメクジを襲った。


「おぉ~サっちゃんやるぅ~!」


 ベルタが歓呼する頃には、二体の蜥蜴型エネミーを残すのみとなっていた。

 未だ動けない隙を沙多は逃さず、杖を一閃。薙ぎ払って奥へ突き飛ばし、エネミーが現れた壁――崩れて崖となった箇所へ落下させる。


「重力…【祈祷師(シャーマン)】に、【僧侶(プリースト)】の結界スキルか」

「どう?意外とアタシ、出来る子っしょ?」


 五体のエネミーを相手取り、無傷で終えた完全勝利。

 沙多は占星術師の可能性を知らしめたつもりだった。が――


「確かに氷魔法と合わせたら火山向きの構築やけど…使える枠はカツカツやんな?」

「もしかして沙多ちゃん、攻撃スキルばっかで埋めてたりする?痛み軽減とかの補佐(パッシブ)スキルも無しとか…度胸あるわねぇ」

「でも人気ない(ジョブ)って使いたくなるよね。僕と一緒だ」


 一同の反応は微妙だった。

 彼女の有用性はともかく、どうしても占星術師という部分に意識が集まり、職種の弱点と懸念点を挙げられる。


「なんかアリーナマジ冷えしてない?凹むんですけど」


 菅原、真美(まみ)と続き、宗谷(そうや)に至っては謎の共感すらも抱いていた。


宗谷そうや仕掛け屋(トラッパー)】――罠を作成、設置できる(ジョブ)。原始的な機械仕掛けの物から、未知数な魔法に関与する罠まで扱え、簡易的だが小道具も作成できる。

広く浅くだけど割と何でもアリな職種。もし戦闘も出来たら大人気な(ジョブ)だった。

人によっては【錬金術師アルケミスト】の下位互換呼ばわりされる。


ギルドの中で最小年かつ中二というお年頃もあり、尖った職種を選んだ模様。後で後悔しそう。

学校生活では友達は少なく、いつも寝てる。けど成績優秀。


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