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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
二章.熱と喝采編

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4.登り目指すは熱と喝采【前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「スガおはよー」

「おはよーさん、ってもリアルじゃ夜やねんけどな」

「あれ、ルタっちは?」

「寝室で仮眠とってるで、マイペースなんよアイツは。やから静かに頼むな?」


 翌日、沙多と菅原は再会。他の面々も予定が空いていると彼から教わる。

 ポツポツとログインして顔ぶれが揃う中、沙多も『ベル もどってきて』と、どこかを徘徊してる悪魔をメッセージで呼び戻す。


「改めてオレは菅原 純樹(すがわら じゅんき)(ジョブ)は【聖騎士】で、皆からスガって呼ばれてん」


 前回は自己紹介が途中で終わったため、全員の名前や職種を共有して続きをなぞる。

 ベルタを除く全員が揃い、沙多も悪魔も名乗りを終えた所で、次は彼らの番だった。


「こっちの大剣持っとる【重戦士(ウォーリア)】が光平(こうへい)で、ウチの魔法枠が真美(まみ)さん。【属性術師(エレメンタラー)】で、今は水属性の専門やな。あと光平(こうへい)の従姉やで」

「あーね?どおりで雰囲気とか似てるわけ」

 

 沙多が見比べるように亜麻色である髪や、目元といった特徴が似通っていた。

 「二人がメインアタッカーやってくれてんねん」という補足が続く。


「んでウチで一番若いのが宗谷(そうや)。罠とかに詳しい【仕掛け屋(トラッパー)】やから戦闘は向いてへんな」

「おけ、把握」


 自己紹介も終え、よろしくねとそれぞれに声をかけていく沙多。

 中学生である最年少の彼にも構わずコミュニケーションを試みていく。


 次第に、会話はレアエネミーや噴火の件へ触れるように移行した。

 どうすれば噴火の悩みを解消できるか、レアエネミーの影響はあるのか?など飛び交う言葉は様々。


「なになに~なんの騒ぎ~?」 

「目覚めたか、クラゲ娘よっ」


 ここでようやく寝惚け眼をこすりながらベルタが合流。

 意外にも開幕一番に反応したのは菅原ではなく、悪魔だった。


「え、なにっクラゲってウチのこと?」


 ウルフカットによる襟足部分をそう認識したらしい。珍妙な呼び名に目を丸くする。


「寝坊助さんのお出ましやな。ぐっすり寝れたんか?」

「うん、色々考えてたけど寝たからスッキリだよ」

 

 見るに体調や精神面は万全そうで、少女は他愛ない談笑に混ざる。


――ウチはこの世界の住民。()の世界には居ないし、出られない。

 昨夜の言葉が沙多の脳裏に過る。

 菅原と少女を交互に目で追えば、ベルタと目が合った。

 すると彼女は密かに指を口元に当て、『静かに』というサインを送る。 

 

「してクラゲ娘よ、ウヌの意は決したのであろうな?」

「え、なになに、何の話なん?」


 やがて悪魔が昨夜の件を問う。

 沙多は知らない内容に首を突っ込むと――ベルタは意を決して口を開いた。


「…あのさ、そのレアエネミーの天恵、ウチが貰ってもいい?」


***


「正直、私はいきなりでビックリしたわよ?」

「ベルタが我儘を言うんはいつものことやけどな」


 結論から言えば、沙多はベルタのお願いをあっさりと受け入れた。

 確かに彼女の目的はレアエネミーの撃破。天恵は副産物にすぎない。

 とはいえ、巨万の富に匹敵する権利だ。願いによっては次のレアエネミーを探す手掛かりにも、倒す足掛かりにも出来る。

 それを安々と手放し、周囲の驚愕に包まれながら、最悪倒せるなら構わないと譲った。


「まあ、たまには良いんじゃないか?それに付き合うのも」

「…うん僕もそう思う」


 それでも一般的なプレイヤーなら非道で非常識と、ベルタを非難するだろう。

 だがギルドメンバーは誰一人として少女を否定せず、こうして火山攻略が決定。準備が終わり次第すぐに出発し、辿り着いたのが山頂と山腹の中間。


「みんな仲いいんだね。アタシのギルドと大違い」


 区切るなら七合目といった地点で、顔を喉かせるのは溶岩が随所に流れる空洞。中に入らずとも熱気が押し寄せていた。

 頂上の火口にまで通じるこの洞窟は、言わずもがな平和であるはずもない。

 エネミーだけでなく、地形や気温という環境も牙を剥く。


 にもかかわらず、ベルタの我儘に付き合う全員の意思は乱れない。

 私利私欲が渦巻く『ルシフェル・オンライン』においてこの行動は稀有であり、善意以外の何物でもなかった。

 故に、金銭や私益が第一な環境に身を置いていた彼女は新鮮と笑みを溢す。

  

「でもやっぱ天恵どうするのか気になるよルタっち~」

「まだ秘密っ、強いて言うなら…愛に捧げる的な?」

「え何それヤバッ、めっちゃ聞きたいんですけど」


――なにより異常なのが、誰もベルタの目的を知らずに協力している。

 記憶の忘却という代償を話した相手は悪魔だけ。

 沙多を除いた菅原たちに至っては、少女がゲームの世界にのみ存在する人間だとすら知らない。

 そんな状態で値千金の天恵を託すというのは、並大抵ではない信頼関係だ。


「ってかベルが納得してるのは意外~。レアエネミーあげちゃってもいいの?天恵貰えるチャンスだったんよ?」

「座して機を逃すなどあり得ぬ。これが吾らにとって最良の計であるとしたのみよッ」

「ふーん、ベルがそう言うなら良いか。()()()()()()()()()()だってさ」

「最良の計な?計量はせんでええねん。一番良い企みって事やろ、知らんけど」


 悪魔の意を受け、沙多はこれ以上は理由を追及しなかった。

 語彙を補足されつつ、菅原との会話へ混ざっていく。


「ね~スガはルタっちの事、どうなん?彼女いるとやっぱ嬉しい?」


 声を潜めた会話。色恋沙汰になると、途端にテンションとウザさが一段と上がる。

 しかし菅原はこれにはっきりとした答えを返さない。

 むしろ後ろめたさがあるような声音を作った。


「…オレはともかく、ベルタの本心がそれで合ってるんかが心配やな」

「え、それってどういう――」

「――ほれ、エネミー居たで、気ぃ引き絞ってこか」


 偶然か、意図的に遮ったのか定かではないが彼が促す先、火山洞窟の入り口には複数のエネミー。

 岩陰から息を潜め観察すると、もれなく全て炎を纏った鳥のようだった。


「あれ、こいつルタっちが使ってたスキルのエネミー?」

「そうだよ、いっつもここら辺で技のストック補充してるの」


 いつもなら指で作る円に敵を収め、片手で握りつぶす動作を取るが――


「――でも倒しちゃダメなんでしょ?」

「そ、傷付けないように捕まえるって()()()()


 今回は事情が違うらしい。

 沙多がインベントリから取り出して確認するのは、新堂が解読したメモ用紙。

 記されるのは、この火炎の鳥を特定の場所へ捧げるという内容。

 つまり、必要なのは撃破ではなく捕獲だ。


「気を付けてね。数が少なかったり傷でボロボロだったりすると、レアエネミー激おこなって噴火するらしいから」

「取引査定かいな。ダメージ与えちゃアカンとかえらいハードやな…」


 発見者である近藤は、一度レアエネミーと対面し、戦闘を経験している。

 そこで掴んだ情報は量が多く、充実していた。もはやこのメモさえあれば、天恵の取得は確実と言えるほどに。

 

――では何故、未だに敵は撃破されず、火山に巣くっているのか?

 その答えが噴火だ。

 レアエネミーが出現する条件を紐解いたは良いものの、召喚の儀式――捧げる供物が不十分だった故に敵は憤怒。

 暴れ狂い、大規模な噴火を引き起こして撤退を余儀なくされる。

 そのまま溶岩流は地表に噴き出て、菅原たちの住む環境が被害を被ったという経緯だった。


「で、何匹捕まえりゃええん?」

「そこまでは書いて無さげ。全員じゃない?」

「うそやろ…」


 入り口付近だけでも数は五匹。

 洞窟内部にも当然エネミーは存在し、さらに炎の塊であるそれを傷一つ与えず捕獲しなければならない。菅原が辟易するのも仕方なかった。


「フム、捕らえるとはこうか?」


 戸惑いが浮かぶ中、悪魔が岩から飛び立ち、隕石さながら群れの中へ突っ込む。

 ドンッと足場が削れる音を置き去りに、素手で火炎の鳥を一匹掴んで見せた。

 その生け捕る様に恐れをなしたのか、残りの敵は洞窟の奥へ撤退。

 しかし許すわけもなくベアルはそれを追い、敵地へ侵入する。


「マジか…熱くないのか…」

「あ~ベルはこういうトコあるから気にせんでもろて」

「口調移ってんで沙多」


 一同が後に続き、洞窟へ入る頃には、五匹全てを掌握していた。

 シュウゥ…と音を立てて悪魔の手の中で鳥は鎮火し、本体である鉱石が露出。

 火傷すら負っていない様に、両手剣を持つ光平(こうへい)が目を丸くしていた。

 

「へ~こいつらの正体って石だったん?綺麗じゃん宝石みたい」

「でもね、またすぐ燃え出すから注意だよ?」


 捕まえた内の一つを沙多は拝借。紅色に輝くそれをまじまじと見つめる。

 すると、ベルタの言葉を肯定するように再び鉱石は熱を取り戻し、掌の上でボッと発火した。


「あっつッ!!そんであぶなッ!」

「ちょちょちょッ【ヴォダ】!…これ管理するの相当難しいわよ?」


 【属性術師(エレメンタラー)】である真美(まみ)は水を操り、鉱石に纏わせ沈静化。

 おかげで大惨事は避けられたものの、少なからず火傷を負った沙多は回復魔法を自身へ浴びせる。

 懸念の通り、捕える手段も限られ、再び暴れだすエネミーを乱獲など至難の業だった。


「じゃあ僕は鳥を捕まえる道具と閉じ込める檻を作る」

「なら俺は宗谷(そうや)とこの場所の防衛だな。拠点に使うだろ?」

「へー、【仕掛け屋(トラッパー)】ってそんなこともできんだ、便利すぎん?」

「…人気ない(ジョブ)だけどね」

 

 個々が役割を決め、対策を練り始める。

 すると斥侯として出たベルタの声が響く。


「みんなー!こっちにエネミー沢山いるよ~!」

 

 洞窟の奥には炎の鳥が新たに出現しており、その数は二十を超えていた。

 入り組んだ中を長時間捜索する予定だったが、まさに僥倖。一気に捕獲できれば、攻略に要する時間は大幅に短縮する。

 危険な環境に身を置く時間は、少なければ少ないほど良い。


 しかし全てが一か所に集まっているわけではなく、無数に枝分かれした通路に散在。

 纏まって行動すれば、エネミーの大多数を取り逃がすのは明白だった。


「…こら大変やな。宗谷(そうや)光平(こうへい)の案でいこか」


 パーティのリーダーである菅原は素早く指針を定める。

 有事の際に意見をまとめ、責任者として舵を切るのが彼の役割だ。


「各自でエネミーを捕獲、いっかいバラけるでっ。んでまたここに集合や」


 悪環境下の長期戦と、単独行動の危険性。どちらを呑み込むか。

 両者を天秤に乗せ、リーダーは後者に傾けた。


人数が増えてくると名前覚えるの大変。職業名とセットのが覚えやすいかな

けどもし全員の(ジョブ)が聖騎士だったらいよいよ見分け付かんぞ


真美(まみ)属性術師(エレメンタラー)】――数種類ある属性の中から一つだけを選び、それを操る(ジョブ)。この人は水属性を選択中。

選んだ属性以外は使えなくなるけど、いつでも火とか雷とか別の属性に転向可能。

特徴として、最初に呪文で媒体を用意しないと技が不発する。水の呪文は【ヴォダ】、土は【ラント】など。


ちなみに属性術師(エレメンタラー)から派生した(ジョブ)が占星術師。どんな属性も選択できるが、使用できるスキルの数が少ない

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