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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒノキ
一章.ギルド崩し編

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5.貴方と終える、ギルド崩し【章末】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「沙多さんっ、これをっ!」


 新堂は試験管を二つ投げ渡す。

 一つは魔力回復薬(マジックポーション)

 沙多はこれを飲み、回復魔法を行使。

 ようやく右腿の傷が塞がり、立ち上がることが出来た。

 もう一つは、何やら奇妙な薬。

 だが彼の意図はすぐ理解できた。すぐさま彼女は近藤のもとへ行き、その秘策を――死亡を先送りにする薬をダバダバとかける。


 すると泡へと変化しつつある状態が止まり、命を繋ぎとめる。

 これで近藤に尋問する時間ができた。


「…まさか占星術師の切り札が魔法銃撃師(マジックガンナー)とはなァ。結局、何個スキルスロットありやがんだ」

「七個。【七星蒼天(グランシャリオ)】って名前のスキルで、知らんけど新堂(アイツ)がレアって言ってた。…んで、どう?満足した?」

「あァ?何律儀に答えてんだテメェ」


 それは返答を求めない独り言だった。 

 にも関わらず、沙多はあっけらかんと情報を開示した。

 近藤の傍にしゃがみ込み、命のやり取りをしていたとは思えないほどフラットな姿勢で。


「だって本音とか本性?が好きなんでしょ。だったら正直に話した方がいいかな~って。したらレアエネミーとか教えてくれるかもだし」

「――ふ、ぶハハははッ。テメッ、馬鹿だろッんなもん意味が違ェだろうがッ。…はァ、笑かすなや傷が痛む」

「はあ!?知らんしッ、正直に話すことってったらアタシはこれくらいだし!あとは思ったことなんて全部喋ってるもん」


 近藤がツボに入り、沙多が心外だと唾を飛ばす。


「ほら、アンタも答えてよ。レアエネミー知ってるんでしょ?」

「…いいぜ。テメェの言う通り、今は悪かねェ気分だ」

「マジ?やったっ、ほら早く早く!」

「…やっぱガキはうるせェな。…ほらよ」


 インベントリから出されたのはとある冊子。

 沙多がそれをパラパラと捲ってみると綺麗な字や図が書かれていた。

 だがおおよそ読めたものではない。規則性のない言葉が並び、何を記したいのか不明瞭な代物だった。


「…なにこれ?日本語?」

「暗号だっつうの、俺の部屋にあるメモと合わせりゃ解読できんだろ」

「…?やけに素直じゃん、吹っ切れた?」

「…あぁ、テメェの声がうるさいせいでなァ」

「ふ~ん。よく分らんけど、良かったね」


 そんな会話をしていくうちに、やがて薬の効果が切れ、停止していた泡への変化が再開。

 近藤は「ったく、借金どうしてやろうか」と、言葉を最後に残し消えていった。

 

 

――――――

――――

――


「イテテ…見つかりませんねぇ」


 軋む体に鞭を打ち、探し物の途中である新堂。

 手に入れた冊子を照らし合わせる為、裏ギルドの片隅に設置された部屋を物色していた。


「ほらほら、シャキっと探す!」


 一方沙多は、かつて近藤が腰を下ろしていたであろう団長専用の椅子に乗り、優雅に寛いでいた。

 敵大将から情報を引き出した功績と、新堂が想定したよりも敵の数が多く、苦労した怨念を込めて自身の上司をこき使う。


団長(マスター)~、そんなんじゃ日が暮れちゃうよ?アタシ明日学校あるのになぁ?」

「何で僕こんなに嫌われてるんですかねぇ?これでも子供受けは良い方だと自負してたんですが」

 

 事実、この部屋に辿りつくまでの護衛も頼りきりだったので頭が上がらない。

 彼がフラフラながらも一人で動けるようになったのは、今しがたの事である。


 調子よくアンタ呼ばわりから、団長(マスター)呼びへ移行している沙多。

 ギルド崩し成功の余韻により、見るからに上機嫌だった。

 口元が緩み、いつもより多めにウザ絡む。


「しかし沙多さん、君は随分とこのゲームを楽しめるようになったみたいですねぇ」

「…まーね、最近色々良いことあったし。…楽しんじゃ悪い?」

「いえいえ、とんでも」


 そんな様子を見て新堂は感慨深いと息を漏らす。

 彼だけが知る初心者(ビギナー)時代の沙多。

 その当時からは想像できないような言葉が、彼女の口から出たからだ。


 昔、駆け出しの彼女と出会い、新堂は自身のギルドへ誘った。

 当然、善意ではなく打算があった行為だ。

 貸しを作る、弱みを握る、都合の良いように先導するなど幾らでも出来よう。そんな思考は確かにあった。

 

――しかしそれ以上に、このまま放っておくのが癪だった。

 

 新堂は金銭にがめつい。損得勘定で行動し、利益を第一にする狂人側だ。

 ただ、それ以前にこの世界に染まったプレイヤーである。

 ゲームという範疇では収まらない興奮と衝動に、彼は生きると決めた。もはや二つ目の人生と言っていいほどの世界だ。


 一方、沙多はこれに冷めた目を向けるだけで、そこに楽しさを見出していない。

 

 今、何もしなければ自身が狂おしいほど魅了された世界が、否定されたまま別れるのだ。いや、それならば良い。まだ良い。


 楽しくないのならゲームを辞めればいいのにも関わらず、彼女はゲームを続けている。

 つまり、またどこかで出会うことになる。

 次に合うときも、きっと彼女は同じ感情を持ち続けているのだろう。『つまらない』と。

 その次も、またその次も、なんの切っ掛けも無ければ、沙多の熱は動かずに同じ目をし続けるという確信があった。

 

――これが癪に障らずして何になるか?

 

 故に、新堂は勧誘を決めた。

 好きなものを共有するように、愛したゲームの素晴らしさを伝えるゲーマーのように、『ルシフェル・オンライン』にて沙多を手引きした。


「僕は純粋に嬉しいですよ。この世界と共に歩む君の姿を見て」

「それ誰目線?父親かっての」 


 妙なむず痒さを感じ、ツッコみとして杖の持ち手部分で頭を叩く。

 これでおあいこと言わんばかりに、この雰囲気を払拭。沙多もメモ探しに加わった。


「――ありました、恐らくこれですね。内容を見るに間違いないでしょう」

 

 数分後、それらしき用紙を新堂が手にした。

 軽く目を通し、整合性を確認していく。


「暗号とかは団長(マスター)に任せていい?アタシそういうのニガテ」

「ええ、元より僕が受け持つつもりです。さて、それでは帰りましょうかねぇ」

 

 これで裏ギルドに用件は無くなった。もぬけの殻とはいえ、敵地に長らく留まる理由もない。

 適当に金目の物を物色、回収しながら出口に向かう。


「そういえば、沙多さん。僕のギルドを出ていきます?」


 全てを後にして、外へと繋がる地下の連絡通路を移動中。彼女らの拠点までそう遠くない距離。

 帰ったら何をしようか悩む沙多を見て、ふと新堂はそんな事を聞いてきた。


「え、急になんで?」

「彼――ベアルさんと行動しているようですし、君は一人でも充分強くなった。もう僕の所に居る意味は無いと思いまして」


 二人は利害の一致による関係。

 新堂はアイテムや知識を与え、沙多はギルドの繁盛に協力する。

 だが沙多の本来の目的は、レアエネミーがもたらす天恵の獲得。

 彼もそれを理解しているが故、ここを潮時とした。


「ん~、考えたこともあるけど、まだいっかなって。もうしばらくお世話になる予定~」

「…そうですか。ではもし独立する際は遠慮なく言って下さい。何時でも君の登録をギルドから抹消します」

「えー、薄情じゃん」


 言葉では刺々しいが、彼女の表情に曇りはなかった。


「じゃ、ヒマになったら出てくね?」

「では退屈しないように仕事の量でも増やしますかねぇ」

「それダメ、アタシの時間なくなる」

   

 ようやく地下を抜け、夜に差し掛かろうという光が二人の顔を照らす。

 巨大な時計塔は鐘を鳴らしながら二人を出迎えた。


「あ、でも出ていく前に借金は返してくださいね?その服と、星の杖」

「アタシ、アンタのそういうトコ嫌い」


 そして、再びアンタ呼びへと戻った。


新堂の正体はゲーム押し付けおじさん。前職では小学校の教師やってました。


裏ギルド所属プレイヤーのデスペナルティは平均で数百万円。

近藤は四桁万円いってそう。


とくに描写されることもなく薬の効果が切れて泡になってる無所属プレイヤーさんはお疲れ様。

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