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私の姉は、きれいなクズ  作者: 水上栞
第六章 タワマンとシャンパンコール
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番外編/妹です、ちょっと叫ばせてください⑤

 


 これは、覚えてる! 母から「絢華ちゃんから電話があっても、出ちゃだめよ」と言われていたのだが、なるほど、そういうことだったのか。


 私の結婚が決まって、式はしないけど挨拶状だけ親族や知人に発送しようと準備していた時、叔父が「絢華には知らせなくていい」と言い出した。実家も叔父も、さんざん姉に食い散らかされたので、その被害が私の嫁ぎ先にまで広がらないようにとの配慮である。



「あいつはシロアリみたいな奴だ。ヘタしたら絵梨だけじゃなくダンナにも食らいつくぞ。会社にも、姉などおらんと言っておけ」



 このアドバイスは、実際役に立った。私はその数年前に転職していたのだが、以前の会社の同僚が「あなたの姉と名乗る女性から電話があり、連絡先を教えてと言われたけど断った」と教えてくれた。


 今考えると、ゾッとする。以前の勤め先を覚えていた姉が、私から金を引き出すために連絡してきたのだろう。すぐに現在の勤め先の上長に相談し、そのような取り次ぎは行わないよう手配してもらった。結婚して名前も変わっているし、姉も調べようがないはずだ。


 ところが、姉は執念深かった。実家から私の連絡先が得られず、会社も辞めてしまって行方がわからない。かくなる上はと、私の友人たちに探りを入れ始めたのだ。もちろん姉の知る私の友人など、中学生時代のご近所さん程度で、今は付き合いがないので収穫はなかったようだ。それでも、十分に気持ち悪い。


 ちなみに、なぜ私の携帯に連絡してこないのかと言うと、私は就職後に携帯会社を変えて番号も変わったのだが、姉には新しい番号を教えていなかったからだ。それくらい長年没交渉だった姉が、しつこく私を追いかけ回す。それは当時、けっこうな恐怖であった。




 なお、あれほど姉を溺愛して甘やかしていた母は、この頃すっかり私の味方になっていた。姉から得られるものが何もないどころか、しゃぶり尽くされて骨身に沁みたらしい。手のひらを返したように、私の機嫌を取るようになった。


 彼女の中では老後、私たち夫婦に寄生する予定になっているようで、何かにつけて同居の話を持ちかける。そのため、私も夫もなるべく距離を置くようにしていた。あんな自己中で被害者意識の強い人間と、一緒に暮らせるわけがない。



 姉はそもそも、お嬢さま学校を出て歯科医と結婚した、いわゆる勝ち組であった。それにも関わらず、最後は狭いアパートで荒んだ暮らしをしていた。当時はそれを不思議に思ったが、ここまで日記を読んできて理解できた。


 姉は、七つの大罪で言えば「怠惰」に当たる。小さな頃から与えられることしか知らずに生きてきたので、額に汗して何かを獲得する考えに及ばない。美しさを餌に男を釣り、甘やかされて生活するしか能がないのだ。風俗やクラブの世界でも、あの美貌で努力をすれば一流になれただろうに。しかし姉はそれをしなかった。


 そして唯一の武器であった美貌も、年齢とともに輝きを失いつつあることに気づいた。こうなると、何もかもがうまくいかなくなる。そして己の怠惰を顧みるのではなく、自分を甘やかしてくれない世の中を恨むのだ。そういうところは、実家の母にそっくりである。


 母は昔の女なので、父にしがみついて生きてきたが、姉はそれさえもできなかった。もしも姉に友人がいたら、叱咤してくれたのではないかと思うが、今さらそれは詮無いことである。



 この頃の姉の日記は、恨み言や呪詛の言葉であふれており、文章もいつにも増して支離滅裂だった。慣れない酒を呑み始めたせいもあるだろう。もともと酒が強い体質ではないが、クラブ勤務であれば全く口にしないわけにはいかない。


 その酒が、姉の死の一因となった。妹として、何かできることもあったとは思うが、当時の私は始まったばかりの結婚生活を守ることに必死で、姉の状況など知る由もなかった。この後、姉の人生は崩落の一途をたどる。私の知っている、きれいなドレスを着て美しく微笑んでいる姉の記憶からは、とても想像できない地獄絵図であった。






 第六章/完





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― 新着の感想 ―
これは本当、副題のようにちょっと叫ばせてって言いたくなりますね… 居場所が知られなくて良かったです!
いやー妹ちゃんに被害が行かなくてよかったですよ! 自衛は大事ですよね!
妹に魔の手が伸びなくて良かった〜。 これからの転落が楽しみ(!?)です。
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