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私の姉は、きれいなクズ  作者: 水上栞
第三章 エロスと犯罪のテーマパーク
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番外編/妹です、ちょっと叫ばせてください②



 最初は読むのをやめようかと悩んだ姉の日記だが、ここまで来るともう引き返せない気がする。例え無理やり中断しても、その後が気になって絶対にまたページを開いてしまう。毒には依存性があるというが、まさにそんな感じだ。



 ざっくりまとめると、既に高校時代から姉はいっぱしの犯罪者だった。若気の至りでバカなことをしたというノリではなく、はっきりと「ここからは法律的にアウト」というラインを自覚した上で、躊躇いなく踏み越えている。「一般的にはダメだけど私は許される」という、謎の特権意識はどこから来るのだろう。


 さらに始末が悪いのは、世間の目を欺く処世術に長けているところだ。まるで震える小鳥のようなか弱い乙女を装いながら、その裏には肉食獣のように獰猛な顔を隠している。彼女に喰らいつかれた犠牲者は、たまったものではなかっただろう。




 修学旅行でお縄になった、魚住エリカさんも災難だったと思う。絶対に絡んではいけない相手に、しつこく絡んだのが運の尽き。お金持ちのお嬢さまだし、一生勝ち組だと信じてたんだろうけど、まさか高3で表舞台を去るとは。


 ただし、彼女の場合は本人にも落ち度はあった。違法薬物をスーツケースに入れたのは姉だったにしても、過去には薬物を使用していたわけだし、彼氏だって法を犯している。いずれ警察のお世話になっていた可能性がある人たちなので、そこまで同情はしない。



 それに引きかえ、江藤久美子さんは完全なる被害者だ。本当に申し訳ないことをしたと思う。そもそも柳瀬くんが誰と付き合おうが、姉には関係のない話である。もし柳瀬くんを独り占めしたいのなら、意味不明なアガペーとかエロスとか理屈をこねてないで、素直に告白すればよかったのだ。


 しかし、姉はそれができなかった。私が思うに、柳瀬くんは姉にとって初恋だったのだと思う。今までちやほやされた経験しかなかった姉にとって、颯爽と現れて危機から救い出し、甘い言葉をかけながらも下心を見せない彼は、きっと異端な存在だったに違いない。


 そこでときめくあたり、当時の姉はまだ純粋な心が残っていたと思われる。ところが、柳瀬くんには彼女がいて、姉には女としての興味を持たなかった。普通の失恋話である。


 しかしその事実を、チョモランマより高い姉のプライドが受け入れ拒否した。そこで、「柳瀬くんは自分を崇拝しながらも想いを封印している」という謎のシナリオを脳内で創り上げ、傷ついた自尊心を癒したのだろう。


 そしてその妄想の餌食になったのが、江藤さんである。何の落ち度もないのに攻撃されて、可哀そうすぎる。年ごろの女の子にとって、恥ずかしい噂(しかも事実無根)を校内に広められて、それだけでもどんなにか精神的にダメージが大きかったことか。


 それなのに、ようやく火消ししたと思ったら今度は売春疑惑だ。確かに、女子大生がお金の入った封筒を男性から受け取る、なんてシーンはそうそう日常的にあるものではない。それを姉は演出してしまった。そして江藤さんは、まんまと姉の罠に嵌ってしまったのだ。


 3000円をネコババした件は、柳瀬くんにだけでも正直に打ち明ければよかったと思う。お財布だったら警察に届けるだろうけど、封筒に現金3000円。微妙すぎて、私だって届けないかもしれない。まさかそれが証拠になる物だなんて思わないし。



 二度にわたるスキャンダルで居たたまれなくなったのか、結局江藤さんは大学をやめてしまった。せっかく頑張って入った大学なのに、人生計画だいなしである。彼女がその後、どうにか普通の社会生活を取り戻していることを願ってやまない。




 話は変わるが、ここまでの日記で最高に衝撃だったのが、おっさん三人に処女を30万円で売った件だ。倫理観がぶっ飛んでいる。エンドレス処女って何だ? お金のために体を売る女の子はいるけど、姉の場合はそれとは何か別の狂気を感じてならない。


 だいたい、よくそんな都合のいい相手を嗅ぎ分けられるものだ。女子高生を金で買う男たちも吐き気がするが、そういう男を手のひらで転がす16歳の女も、気持ち悪くてしかたない。そのころ父や母が娘の行いを知ったら、いったいどうしていただろう。



 気持ち悪いと言えば、暇人というネットの人もキモすぎて引く。ナニモノ? 昼間っからネットに貼りついて、人が困ってるのを見るのが趣味? それ絶対すぐ逃げ案件でしょう。そんな人と組んで悪事を働くなんて、気が狂っているとしか思えない。


 中でも、ファッションビルの前でおしっこした事件、あの下りは目を疑った。私も何度か行ったことがある、あんな人が多い場所で、そんな破廉恥なことをするなんて。もし警察が来ていたら、うちの家族は引越しをしないといけなかっただろう。普通に断れよ!


 そうまでして、江藤久美子さんをやっつけたかったのか。それとも、姉の中にある変態チックな素質が、刺激を求めてアブノーマルな行為に走らせたのか。彼女の日記を読み進めてくうちに、もしや後者ではないかという気持ちになってくる。それほど山下絢華という女は、やること成すこと常軌を逸脱している。



 ただ、中にはざまあみろと思うこともあって、ヤリサーの幹部を一掃したのは痛快だった。やり方に問題点はあるにせよ、社会悪を叩いたのだから世の中の役には立っている。あの暇人がどうして正義の味方になったのかはわからないが、日本中の腐れサークルに潜入してアホたちを潰して欲しい。ただし、カップルの人たちは避難しておかないと姉に喰われる、男の方が。



 最後に出てきたリーナさんというモデル仲間は、うっかり油断したところにつけ込まれた。ていうか彼女も仁義に反してるよね。いくら姉が途中で帰ってしまったとしても、友だちの相手とデートするのはアウトだ。そして不運なことに、横取りした男がどクズだった。


 フェラーリの医大生は家が病院だし、薬の使い方も知っている。それを悪用して、しょっちゅう不埒なことをしているのだろう。どうやったらこんな腐った根性に育つのか。暇人も、こういう連中を根絶やしにすればいいのに。


 結局、リーナさんは警察にも届けず事務所をクビになり、泣き寝入りするしかなかったようだ。将来的にモデルの仕事でやっていくのなら、スキャンダルを公にしないのが正解だと判断したのだろう。ただしそのうち有名になったら、撮影した動画を使ってバカ医大生が彼女を脅してくる可能性はある。



 一般人の私にとっては、こういう強姦野郎が何年かしたら、普通に医者として病院で診察を行うということがホラーである。患者からは医師の人格までは見通せない。今度から病院に行ったら「この先生、大丈夫かな」と考えてしまいそうだ。そう言う意味でも、この日記の内容はショッキングだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] これ、本当に私もそう思います。まだ医者ではない、けれど医者になっただろう先生を信用出来ないです。実際、某大学付属病院のインターンが似た事件起こして、実はそれが毎年例年の事だったと聞いた時は、…
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