表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/32

6


 テオ様と朝のランニングの時に会った数日後、世界史の授業が始まる前に、教室内で彼に会った。


「えっ? ……ルーナ?」

 

 呼ばれたルーナはハッとして、教室をキョロキョロ見渡してから、『しー!』とテオ様にジェスチャーをした。

 この世界史では、シャーロット様たちと同じでもあるのだ。

 毎回出来るだけ遠くに座って、シャーロット様の視界に入らないようにしている。

 

 おそらく、あの編入後の接触以降シャーロット様は、ルーナという人物に対して全く興味を失っているハズだ。

 このまま卒業まで見つからずにいきたい。

 

 そんな慌てたルーナの不審な様子を見ても、テオ様はそれ以上何も言わずに、そっと隣の席に座った。




「……目の色、緑じゃなかったっけ?」

 授業が始まる前、まだ教室内は生徒たちが談笑しておりガヤガヤしてた。

 そんな中、テオ様は少し小さな声で話しかけてきた。


「メガネで色を変えてるんです」

 ルーナもコソッとしゃべって、テオ様の方を向きメガネを下にずらして素の瞳を見せた。


「なんで??」

 すると突然、テオ様の向こう側からキラキラした人が顔を覗かせて、会話に入ってきた。

 

 何!?

 この派手なオーラの人!?

 目立つんですけど!!!


「かっ……隠れてるんで……出来るだけ地味にして、目立たないようにしてるんです」

 

 ひーん。テオ様のお連れの方なのかしら?

 金髪のイケメンだ!


「……おしゃべりは、そろそろやめようか?」

 少し怯えていたルーナを見て、テオ様が優しく微笑みながら会話を中断してくれた。

 そう言ったテオ様は、教室の前に視線をむけていた。

 ルーナも前を向くと、先生がきており授業が始まりそうだった。


 こうして世界史の授業が始まった。




 **===========**


「……すみません。私が落ち着ける所がここしかなくて……」

 

 ルーナとテオ様とレオン様の3人は、サロンの一角でソファに座っていた。

 ここは普通のサロンで、カンデラアカデミー内には、高位貴族向けの高級サロンが別にあった。

 テオ様たちが来ることは無い方のサロンだが、シャーロット様やカトリーヌ様から隠れて生活しているルーナは、ここでしか安心してしゃべれなかった。


「さっきも移動中に説明した通り、シャーロット様とカトリーヌ様から目をつけられ無いように、目立たないように学園生活を過ごしているんです」


 ルーナが必死に説明していると、遠くから呼びかけられた。

「あれ〜? ルーナ? 今日は早く来てるねぇ」

 授業が終わって、ゆっくり向かってきたであろうサッシャが声をかけてきた。

 隣には同じ授業を受けていたのか、エマもいる。

 

 サッシャはルーナの向かい側にいる2人をチラリと見ると、ルーナに耳打ちをした。

「めっちゃ美形を連れてきたね! でかした! ルーナ」

 そう言って、ちゃっかりルーナの隣に座った。


「レオン様だ! 何で? 何で?」

 エマもコソッと耳打ちして、サッシャとは違う方のルーナの隣に座った。

 エマは学園内のカッコいい貴族が大好きだ。

 いわゆるミーハーってやつで、恋愛したいなぁとかでは無いらしい。


「……私の友達のサッシャとエマです。こちらはBクラスのテオ様とレオン様です」

「よろしくね」

 レオン様がさっそく爽やかなスマイル攻撃をしている。

 ルーナの両サイドから黄色い悲鳴があがる。


「「なになに〜」」

 ルーナたちの楽しそうな雰囲気をキャッチした、他のCクラスの女の子たちが寄ってきた。

 みんなワイワイしながら、物珍しい高位貴族の人たちと挨拶をしておしゃべりしだした。


「友人たちよ。ありがとう。もっと寄ってきて私を隠して!」

 目立つ人たち、特にレオン様と一緒にいたくない私は、Cクラスの女の子たちのキャッキャッ具合に感謝した。


「そんなに目立ちたくないの?」

 ルーナの様子を見ていたテオ様が苦笑しながら聞いてきた。

 女の子たちの相手は、爽やかイケメンのレオン様に任せているようだ。


「この子、目立ちたくないからって、試験も一位にならないように手を抜いてるんですよ」

 サッシャがルーナのほっぺを指さして、からかうように言った。

「だって、一位になったら、絶対シャーロット様とカトリーヌ様から呼び出されるよ。そんなの怖すぎる!」

 ルーナが指さされてるほっぺを膨らませながら答えた。

「せっかくの学園生活なのに……地味なままじゃ勿体ないよ」

 ちょくちょくレオン様をポーっと見ているエマが、会話に入ってきた。


「うーん……でも高位貴族様に恨まれでもしたら、市民になった後の生活困りそうだしなぁ。未来の旦那様の迷惑にもなりたく無いし……」

「婚約者がいるの?」

 テオ様が首をかしげながら聞いてきた。


「いえ、いないん…」

「テオ様、聞いて下さいよ! ルーナったらめちゃくちゃ未来の旦那様に、理想をえがいてるんですよ」

 ルーナのセリフが終わらないうちに、サッシャが身を乗り出して喋り出した。


「えーっと、世界中の国を周る生活をしてる人がよくってぇ」

「貿易商とかね」

 サッシャの台詞(せりふ)にルーナが具体的な説明を付け足している。


「年上の人がいいのよね?」

 次はエマがしゃべった。

「ダンディな、ちょっとオジ様でもいいわよ」

 またルーナが詳細を付け足す。


「アハハ、なんで年上?」

 女子3人の掛け合いが楽しいのか、テオ様が笑っていた。


「私、世界中の美味しい食べ物が食べたいんです! そうすると、ある程度仕事で成功している世界で活躍している人を、旦那様にするのが1番かなって思って。美味しい食べ物の勉強もしていますが、やっぱり詳しい人に紹介してもらいたい気持ちもありますし〜」

 ルーナは目をキラキラさせて語った。


「それで、世界史と外国語を選考してるの?」

 テオ様がルーナの勢いに笑いながらも質問した。

「はい。そうです! 将来の旦那様に役に立てるようにですね! ……あれ? テオ様に外国語の……」

 外国語の選考してるって伝えましたっけ?と言葉になる前に誰かに話しかけられた。


「ルーナ、約束していたお菓子持ってきたよ」

 Cクラスの女の子が、箱の包みをかかえて持ってきてくれていた。

 約束していたお菓子とは、彼女の領地の特産品で作ったお菓子だった。

 それを食べてみたいと、ルーナは頼んでいたのだった。


「あ、オレもちょうど持ってきたよ」

 いつの間にか、Cクラスの男の子たちもチラホラ集まっており、その中の1人が、こちらも前にルーナが頼んでいた珍しい紅茶を持ってきてくれていた。


「わぁ! ありがとう! 楽しみにしてたんだー! せっかくだから、みんなでいただこう!」

 ルーナは本当に嬉しそうに笑った。



 

 サロンの隣には給仕をしてくれる人の厨房があり、そこに頼むとその珍しい紅茶を淹れてくれた。

 お菓子もきちんと準備され、集まっていたテーブルの近くにビュッフェスタイルで提供された。 


「はーい、どうぞー」

 自然な流れで、ルーナがテオ様とレオン様の前に紅茶とお菓子を配った。


「僕たちも、いただいていいの?」

 テオ様が聞いてきた。

「?? いいですよ。ここのサロンでは、みんなで美味しい物を味わうのは、いつもの風景です」

 ルーナが穏やかに微笑んで言った。

 

 ルーナはたくさんの人たちと、美味しい物を食べるのも大好きだった。

「Cクラスのみんなは最高なんですよ! こうやって美味しい物を持ってきて、分け合ってくれるんです」

 ルーナは嬉しそうにお菓子を頬張った。


 


※※ーーーーーー王子視点 

 

 ルーナはお菓子と紅茶をいただいた後、持ってきてくれた人たちにお礼を言いに席を外していた。

 それを何となしに目で追っていたテオに、エマが声をかけた。


「ルーナはああやって、美味しい物を食べてるだけに見えますが、あの子のおかげで、Cクラスのみんなは学園生活を楽しく過ごせています。Cクラスはその……地位の低い者が多いですから、他のクラスの人たちに見下されたり……嫌がらせをたまに受けたりします」


「……そんなことが?」

 テオはそう返事しながらも、シャーロットやカトリーヌに自身もされたことを思い出していた。


「……はい。高位貴族であるルーナがCクラスが好きだ、過ごしやすいと言ってくれるので、みんなは嬉しいし自信になるんです。1年生の時は、やっぱりCクラスが1番成績が悪かったのですが、ルーナが勉強をみんなに教えてくれたりして、他のクラスに負けないように頑張る人も増えて…… 知ってますか? 今ではCクラスの総合点はBクラスに並ぶんです」

 エマはちょっとだけ自慢げに語った。


 そこにサッシャも話に加わった。

「それに、ああやって食べ物の話を引き出すために、まずは相手の領地のこと、市民相手なら住み暮らした土地の話をルーナはします。そこから良いものを見つけてくれるので、社交の場での貴族同士の話に、何を話せばいいのかを教えてくれてもいるんですよ」


 そしてエマとサッシャが真剣な表情でテオたちの方を見た。

「……だから、ルーナが何かしでかしたとしても」

「お(とが)め無しにして下さい!」

 彼女たちは、そう言って頭を下げた。

 テオとレオンは驚いて、思わずお互いの顔を見合わせた。

 

 どうゆうこと?




 ちょうどそこにルーナが戻ってきた。

「私は何もしてないよ」

 ルーナは少し呆れながらも、頭を下げたままの2人の肩に手を置いて、頭を上げることを(うなが)した。


「……まだ何もしてない?」

 顔を上げたサッシャがルーナに聞いた。

「まだしてない」

 ルーナがうんうんと頷いた。


「……いつか、しでかしそう?」

 今度はエマが聞いた。

「このまま大人しく卒業しますぅ」

 ルーナがちょっとだけプンプン怒った。

 そしてハッとしてテオたちの方を見る。


「いや、本当に、何もしませんよ! トラブルとか起こさないように気を付けているんで!」

 ルーナが首をブンブン横にふった。

 

 エマとサッシャは、いきなりルーナが2人の高位貴族を連れてきたので、それはそれで何か目をつけられたのだと疑っているのだ。


 まぁある意味、候補者として目をつけたから合ってるんだけど……

 

 テオは彼女たちの様子を見て、リリィが言っていたCクラスの人たちに(した)われているという情報に納得した。




 サロンでのちょっとしたお茶会がお開きになり、テオとレオンも帰ろうかと出口の扉に向かっていた。

 するとルーナに呼び止められた。


「今日はCクラスのみんなに、付き合って下さってありがとうございました。みんなテオ様とレオン様と話せて楽しそうでした。良かったらまた、こちらのサロンに遊びに来て下さい」

 そう言ってルーナは、ペコリとお辞儀をした。


「毎日、お茶会してるの?」

 テオが首をかしげて聞く。

「うーん、ほぼ毎日かもですね……」

 ルーナの返事を聞いたテオは、少しだけルーナに近づいて耳打ちした。

「……ほぼ毎日美味しいお菓子食べてたら、しっかりランニングしなきゃだね」

 そう言ってフフッと笑った。


「ーー!! い、いじわるですね」

 ルーナが顔を赤くさせて答える。

 テオは楽しそうに笑い、じゃあねと手を振りながらサロンを後にした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ