4
※王子視点
ここはカンデラアカデミーのとある一室。
委員会で使用するという名目で、3人の生徒が集まっていた。
重厚なソファーと机があり、各々がそのソファーに座っていた。
「最終学年ということで、この部屋を作戦会議用に借りることにした」
長めの黒髪にメガネをかけており、少し野暮ったい印象だけど1番偉そうにしている男の子が発言した。
「王子の結婚相手選考会議ですよねぇ。3年生になっても決まってないって遅くないですかぁ?」
ゆるくウェーブした茶髪に焦茶の瞳という、モブっぽい見た目の女の子がそう言った。
「……候補の上位三名がね……誰にしようか迷うんだよね」
王子と言われた黒髪メガネの男の子が、遠い目をしながらソファーの背もたれに沈み込んだ。
彼はこの国の王太子であるエリオス王子だったが、身分を偽って学生生活を送っていた。
学校ではテオ・アルザイック。
魔法薬で黒髪に変え、メガネをかけていた。
元々伏し目がちな目と言われるように、眠そうなトロンとした目なので、黙っていれば高位貴族のようなオーラは無い。
ちなみに社交の場では、目に軽く力を入れて眠く見えないように頑張っている。
「シャーロット様は?」
テオの隣に座っている金髪に琥珀色の瞳といった美形の男の子が発言する。
彼はレオン。
テオの側近候補だ。
レオンは文武両道、おまけに紳士的な態度で女の子から絶大な支持を受けている。
「シャーロット嬢は、王子の僕の前では人形みたいにうっすら微笑んで品良く座っているんだ。お茶会とかで話すと『ええ』とか『まぁ』とか返事をするぐらい。王太子妃のオーラは1番あるよね。……けど、学校で身分を偽ったテオに会うと相手にもされない。ニコリともせず冷たい目線を投げかけてくる。ちょっと優しさが足りないかな……」
テオは苦笑しながら言った。
レオンは更に聞いてきた。
「カトリーヌ様は?」
「カトリーヌ嬢は、王子の僕に会うとグイグイ来るよね。ちょっとそこは苦手。学校ではいち生徒として普通に接してくれるけど、ある日言われたんだ。『あまり話しかけられると迷惑ですの』って。よく話を聞くと、高位貴族以外とは馴れ合いたくないらしい。ちょっと傲慢かな……」
テオは言われた時を思い出して顔をしかめた。
「クラリス様は?」
レオンは、上位3名の最後の候補者の名前を挙げた。
「クラリス嬢は受け身すぎるかな。イジメられても何もしないし、父親に言われたからだろ? 成績上位をキープしているのは」
テオがそう言いながら、モブっぽい見た目の女の子の方を見た。
「そうです。クラリス様は王子の結婚相手になりたいのではなく、父親がその座を狙っており、厳しく言われているようですねぇ」
ちょっとおっとりしゃべる女の子リリィは、実は王家の影の一員だ。
有望な若手で、ゆくゆくはテオ専属の影集団のリーダーになる予定だった。
今回リリィには結婚相手候補たちを調べてもらっている。
普段は学園の制服を着て、生徒のふりをしてもらっていた。
この3人は幼馴染だった。
だからか、レオンは王子にも気兼ねなく意見するし、リリィは主人である王子にも容赦なくつっこむ。
「……成績上位者の中から選べばいいから、候補者を広げる案もあったよね。他の候補者はどうなの?」
レオンが首をかしげながらテオに尋ねた。
「オリヴィア嬢は自身の興味ある分野の研究に夢中で、取り尽くしまも無い感じなんだよなぁ」
テオはますますソファに沈み込んだ。
「……残るはルーナ嬢なんだけど……」
テオは少しだけ起き上がってリリィの方を見た。
「ルーナ様は大人しく、成績以外ではこれといって目立ったことはあまり聞きませんねぇ。ただ、よく寮を抜け出して夜遊びをしているという話しを聞きますぅ。けれどCクラスの中では人気があり慕われていますぅ。不思議な人ですねぇ」
「……それってさ、異性との関係が乱れてるんじゃないの??」
テオが怪訝そうな目線を投げつける。
「でも、女の子からの人気もありますよぉ」
リリィが首をかしげながら返事をした。
「まぁ3年になって候補は5人に確定したんだ。誰かを選ぶしか無いんだから、ルーナ様とも一度話をしてみたら?」
レオンが爽やかな笑顔を浮かべて言った。
テオはそれを不機嫌な顔で見る。
「卒業時に結婚相手を決めなきゃいけないって時間なさ過ぎじゃない? ……はぁ。リリィ、ルーナ嬢としゃべれる機会がもてるようにセッティングして」
「はぁい」
こうして、この日の作戦会議は終了した。
本来なら王太子として、学園生活を過ごすのが歴代のやり方なのだが、テオは身分を偽って生活することを選んだ。
テオは幼いころから整った美しい顔立ちをしており、媚びた女性がよく近付いてきた。
そういった女性に辟易していたので、本当はどんな性格で、何を思っているのだろう?と考えたことがきっかけだった。
自分の結婚相手ぐらいは、媚びない状態ではどんな感じなのか知っときたい。
そう思ったのだ。
そして、有力候補であるシャーロットとカトリーヌ、どちらかを選べない状態だったので、本当はどんな性格をしてるかで決めようとも思っていたのだ。
しかし、2人の本性を目の当たりにし、余計に選べなくなってしまっていた。
本当なら、学園生活の間でお互いの絆を深め、卒業パーティの時に正式に発表する予定なので、最終学年である3年生になっても決まってないのはリリィがいうように遅すぎることだった。
「……はぁ……」
テオは何度目か分からないため息をもらした。