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エリオス様たちは予定していたより早くに到着したため、リリィの部下から何者かに襲撃を受けた知らせを受けて宴会をしていた広場に駆けつけたようだった。
リリィの治療がひと段落すると、マクシミリア城に移動し改めてお父様たちに挨拶をしていた。
そしてマクシミリア城のお客様棟に移動してもらい、リリィはその一室で休んでもらった。
……はずなのに、リリィは起き上がってルーナとエリオス様とレオン様、それにフェニスお兄様との話し合いに参加していた。
「リリィ、休んでないと……」
ルーナが心配して言う。
「大丈夫ですぅ。ルーナ様が止血してくれていたので大した事無かったらしいですよぉ」
リリィがひょうひょうと答えた。
「そう? ……辛くなったら言ってね」
ルーナはリリィが自分を守るためにケガをしたのが悲しかった。
「今回ルーナを襲ってきた男についてだけど、何か心当たりはありますか?」
エリオス王子がフェニスお兄様に尋ねた。
「いや……マクシミリア家と対立しているような所は無く、こんな事件、私が記憶している限り初めてですね」
フェニスお兄様が答える。
「じゃぁやっぱり王太子妃になったルーナ様を狙ったんですね」
レオン様がエリオス様の方を見た。
エリオス様は頷いて、次にリリィを見た。
「男の首元にマークが見えましたぁ。あれはある暗殺者の組織のマークなのでぇ誰かに雇われたんですねぇ」
リリィが答える。
「……それだけじゃぁ相手が貴族なのかも分かりませんね」
レオン様が悔しそうに答える。
「ルーナ様、あの男に何かしてませんでしたぁ?」
リリィはルーナの方を向き、首をかしげた。
「うん。誰の差金なのか気になったから追跡魔法をかけたよ。あの男が〝主“なんかの主従関係を示すようなワードを口にした時に発動する魔法も重ね書きした。その人の頭上の空には雨雲が1週間は張り付くから一目瞭然だね。上手くいくか分からないけど、リリィを傷つけたやつを絶対捕まえるからね!」
ルーナはリリィを見ながらグッと両手をにぎりしめた。
「ルーナ様。かっこいいですぅ!」
リリィがわざとらしく両手を口に当てて感激した。
あとの男性3名は呆れた顔をしていた。
「エリオス殿下……妹をお願いします……」
フェニスお兄様が呆れた顔のままエリオス様に頭を下げた。
「分かりました」
エリオス様は苦笑しながら答えた。
それから、エリオス様とルーナだけで晩餐会が行われた。
当事者の2人でよく話し合うようにというルーナの家族からの配慮だった。
2人用の席で向かい合って椅子に座る。
「……フェニスからの手紙で聞いたけど、僕からのダンスの意味、分かってなかったの?」
エリオス様がいつもの流れるような優雅な仕草で料理を切り分けて口に運んでいく。
「……うん。ごめんね、私、淑女教育を受けてなくて……」
2人きりの時は敬語を使わず、いつも出かけていた時みたいにしてとエリオス様からお願いされたので、ルーナはタメ口だった。
「うーん……一世一代のプロポーズだったのになぁ」
エリオス様は苦笑した。
「エリオス様……」
「……エリオスでいいよ。あ、リオにしようか。テオに似てて呼びやすいでしょ」
エリオス様が穏やかに笑いながら言った。
金色の髪が優しく揺れる。
「あれ? ……さっきから何でお酒飲んでないの?」
「…………」
ルーナは恥ずかしくなって俯いた。
「?」
エリオス様が首をかしげる。
「…………」
ルーナは立ち上がってエリオス様の隣まで行き、耳打ちをした。
2人きりと言っても給仕の者が入ってくる時もあるのだ。
ルーナはエリオス様だけに伝えたかった。
「万が一ですよ、お腹に子供がいたらお酒はよく無いので……」
小声でそう伝えたルーナは頬を染めて目を逸らした。
それを聞いたエリオス様はアハハと本当に嬉しそうに笑いながら、立ち上がるとルーナを優しく抱き上げてまた椅子に腰掛けた。
ルーナはエリオス様の膝の上で抱っこされている状態になった。
「子供がいたら、産んでくれるの?」
エリオス様が意地悪く笑ってルーナを見つめる。
「子供に罪はありませんからね」
照れ隠しで目を背けてむくれているルーナがこたえる。
「ルーナは何が不安なの?」
エリオス様がそんなルーナの顔を覗き込んだ。
この人は何でもお見通しだ。
ルーナはエリオス様の澄んだ青色の瞳を見て思った。
「私、淑女教育受けていません」
「今から王妃教育が始まるよ。それに組み込んでもらってる。ルーナなら半年で全てが終わるんじゃない?」
エリオス様が優しく微笑む。
「貴族の人たちとうまく渡り合える自身がありません」
「卒業パーティのダンスの後に上手に喋れてたよ。完璧すぎてビックリしたぐらいだよ」
「シャーロット様やカトリーヌ様といった強敵に勝てる気がしません」
「大丈夫。ルーナと踊ったその後に、彼女たちとは話しをつけてきたよ。ルーナに手を出さないようにね……他にも何かあっても、王太子のエリオスなら絶対にルーナを守れるよ」
「……!」
ルーナの瞳に涙が溜まってきた。
嬉しかったからだ。
エリオス様からの穏やかで優しい愛情がたまらなく嬉しかった。
学生時代の時に何も言ってくれずに不安だったけど、よく考えてくれていたんだ……
泣き顔を見られたくなくて、ルーナはエリオス王子に抱きついた。
「海外に行って美味しいものが食べられません」
「僕が連れてってあげるよ。その国の美味しいお店は分からないけど、聞きにいこう。外交という名の仕事だけどね」
「……とっても魅力的なお誘いですね」
ルーナは顔を上げて泣き笑いを浮かべた。
そんなルーナを見てエリオス様も穏やかな笑みを受かべる。
「改めて言うよ。僕と結婚して下さい」
「……はい!」
ルーナは泣きながら満面の笑みを浮かべた。




