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3:カンデラアカデミー入学

 あれから、ルーナは無事にカンデラアカデミーに通い出し、気がつけば最終学年の3年生になっていた。

 

 カンデラアカデミーは1学年が3クラスあり、ルーナはCクラスに編入した。


 Aクラスは位の高い貴族の集まりであり、それが徐々に低くなっていき、Cクラスは位の低い貴族や一般市民たちが混ざった1番雑多なクラスだった。

 

 ルーナはそのCクラスに、とても満足していた。

 貴族社会の小難しいルールがあまり無いので、肩肘張らなくていいし、友達もたくさんできた。

 

 その中でも仲がいいのが、一般市民の推薦枠だったエマと、新興貴族であるアーロン商会の娘のサッシャだった。




「ルーナ、おはよう! 昨日の古代語の授業で分からないとこがあるんだけど……」

 カンデラアカデミーの朝の教室で、エマが喋りかけてきた。

 勉強熱心なエマとは、お互い分からない所をよく教え合っている。

 エマは両親が診療所をしており、自分も将来は医者になって街の人々を支えたいらしい。

 

 おっとりした見た目とは裏腹に、なかなか芯のある女の子だ。可愛い。


 エマのすぐ次に、サッシャがルーナに喋りかけた。

「おはよう。ルーナが言ってた飲み物、東の国の方にありそうよ」

 この王国で、1番大きな商会に発展したアーロン商会の1人娘のサッシャは、くっきりした目鼻立ちで勝気な美人さんだ。

 本当は情に弱く、アーロン商会の従業員を家族同然に思っている。可愛い。


「おはよう! 昨日の古代語の授業難しかったよねぇ。どこどこ? サッシャも探してくれてありがとう! 東の国ね、やっぱりポーネ国らへんかしら……」

 ルーナは少しズレたメガネを手で押し上げ、2つに分けて緩く編んだ三つ編みを揺らしながら首をかしげた。

 訳があってわざと地味な格好をしていたルーナだったが、たくさんの友人達に囲まれて、学生生活を満喫していた。




 **===========** 

 

 ルーナの朝は、他の学生より早くから始まる。

 地位の低い貴族や一般市民の学生は、カンデラアカデミー内にある学生寮で生活していた。

 中位の貴族は、広い部屋割りの寮で、従者を何人か連れて暮らしていた。

 高位の貴族は、馬車で王都にある自分の家に帰っていた。

 

 ルーナはもちろん一般寮で、教室がある建物から1番離れた所にある寮だった。

 しかも編入したからか、1番端の1階だった。

 

 ルーナはこの部屋割りにも大満足していた。

 ルーナの部屋から見える、学校の敷地の壁までの自然いっぱいの庭の眺めが好きだった。

 細長い作りの寮の角部屋だったので、そこだけ2方向に窓があった。

 他の部屋には無い方角の窓から見える庭だったので、ルーナだけが好きに使えた。

 その自然いっぱいの庭に、勝手に机や椅子を置いて、家飲みならぬ庭飲みをすることも出来た。

 

 そしてこの寮の裏手には、豊かな森が広がっており、早朝にそこを走るのが日課だった。


「王都って美味しいものが多すぎて、すぐ太るのよねぇ……」

 

 ルーナは王都にきて1ヶ月でプクッと太ってしまった。

 その勢いが凄まじかったので、これじゃぁ未来の旦那様に呆れられる!!と早朝に走ることにしたのだ。

 

 森の中と言っても、散策用の少し整備された道がある。

 そして森の一角に開けた場所があり、そこにはベンチと井戸があった。

 

 ルーナはここの井戸に水筒を入れて冷やしておき、森をぐるっと走ってきてから取り出して飲むのも日課だった。

 今日は少し眠かったから爽やかな後味のお茶を淹れてある。楽しみ!


 


 走り終わると寮に帰ってシャワーを浴び、身だしなみを整えて食堂に朝食を食べに行った。

 そして朝食を済ますと、部屋で本格的に学校へ行く準備をする。

 

 ルーナは腰まである銀髪を、いつものように2つに分けてゆるく三つ編みにし、ファーレお兄様に作ってもらった緑の瞳が灰色に見えるメガネをかけた。

 全体的に薄い灰色に見えるぼんやりコーデの完成だ!


 準備が出来ると荷物を持って、部屋を出る。

 ここまでが毎朝のルーティーンだった。


 

 **===========** 


 ルーナがわざと地味な格好をするようになったのは、編入したてのころの、ある出来事が原因だった。


 ルーナが編入してぷくぷく太っている2年生の時、編入して初めての筆記試験があった。

 それで張り切って勉強して、すごくいい成績をたたき出してしまった。

 

 カンデラアカデミーでは、成績上位30名の名前がホールに張り出される決まりがあった。

 

 まぁカンデラアカデミーは、自分が選考した授業を10種類受けて、筆記試験はその中からの5教科だから、総合点だけの順位はだいぶ教科で偏りがあると思うんだけどね。


 その成績上位者に名前が載ったために高位の貴族に目を付けられた。

 シャーロット様とカトリーヌ様からだった。


 


 シャーロット様は水色のストレートの髪に群青色の瞳で、切れ長な目が似合うクールビューティだ。

 常に取り巻きを従えて自分より位の低い貴族たちに見下した視線を送る。

 

 そんなシャーロット様は、成績上位者にルーナの名前が載った直後に、わざわざCクラスをのぞきにきたのだ。

 そして取り巻きからなにやらヒソヒソ教えてもらうと、

(あぁ、あれね……)

 みたいに1度うなずき、ゆっくりルーナの方に視線を動かして上から下まで見つめた。

 

 ルーナは捕食されそうな獲物の気持ちを味わった。

 そしてシャーロット様と目線を合わせると、明らかに失笑され

(もういいわ。行きましょう)

 みたいな目配せを取り巻きにしてから、ゆっくり優雅に立ち去って行った。


 なんだろう、あれ。ドキドキした。

 

 クールビューティからの品定め目線怖い……。


 


 カトリーヌ様は明るい茶色のふわふわした長い髪に、真っ赤な猫目の可愛い系美人さんだ。

 シャーロット様とは正反対で情熱的なタイプだ。

 取り巻きを引き連れてよく笑っておしゃべりしている。

 良く言うとリーダータイプ?


 図書館に行くために、ルーナがAクラスに近い中庭を歩いていると、カトリーヌ様と取り巻き達に声をかけられた。


「あなたがルーナ・マクシミリア?」

 凛としたカトリーヌ様の声が響く。


「……はい。そうです」

 お話する時は貴族同士なら自己紹介をし合うのだが、カトリーヌ様は名乗らなかったので、ルーナもあまり丁寧な返事はしなかった。

 

 ただ立ち止まって、カトリーヌ様たちの方をルーナは向いた。


「カトリーヌ様、田舎者すぎますって。心配ないですよ」

「こんな冴えない人は候補に入りませんって」

 取り巻きたちが私を見て、これみよがしにしゃべり続けていた。

 

 まとめると、私がイモ過ぎるからカトリーヌ様の足元にも及ばないってことらしい。

 全くその通りだから〝すごい、ドラマ見たいな悪口言われてる!〟と興奮しているうちにカトリーヌ様たちは立ち去ってしまった。


 


 高位貴族の美女2人から絡まれたけど、何だったんだろう?

 とりあえずプクっと太ってるし、王都の生活に慣れなくて(美味しい店巡りで自堕落(じだらく)な生活しちゃって)ちょっと覇気が無い状態だから、助かった……みたいな?

 ???


 

 しばらくすると絡まれた理由が分かった。

 成績上位者で貴族のクラリス様が、シャーロット様の取り巻きに虐められている現場を見てしまったのだ。


「あなた、今回の試験も上位だけど、まさか王太子様の結婚相手をまだ狙ってるのかしら?」

「……」

「分かっているだろうけど、王太子様の結婚相手はシャーロット様で決まりよ。あなたみたいな人がなれるハズが無いわ」

「……」


 クラリス様は3人の取り巻きに囲まれて、散々な言われようだった。

 小柄で守ってあげたくなるような、あどけない可愛らしさをまとうクラリス様は、何も言い返さずに黙って下を向いていた。

 

 しばらくすると、取り巻き達は満足したのか去っていった。


 クラリス様は安心して気が抜けて、座り込んでしまった。

 どこかに行っていた従者らしきメイドが、駆け寄り介抱していた。

 

 手を出したりしないのが貴族らしいけど、女の子のいじめってどこも、えげつないなぁ。

 ルーナはそっとその場から離れた。


 


 今までの一連の出来事から、成績上位者から王太子妃が選ばれるとシャーロット様やカトリーヌ様は思っているらしい。

 そして自分こそが相応しいと考えてて、他の可能性がある者を蹴落とそうとしてる……

 

 いやいや、王太子妃とか1ミリも狙ってないから、そういうのには巻き込まないで欲しい!

 

 私は外見があきらかに劣ってるから論外にされたのね。

 プクッとしてて助かった!!

 

 ……だからと言って成績であんまり手を抜きたくないし、このまま自堕落(じだらく)な生活を続けるのも、卒業後の婚活に影響しそうだから改めたいのよねぇ……

 

 よし!

 目立たないように生きて行こう!!

 髪も瞳も兄姉に比べると薄いから、存在感うっすいわーってよく揶揄(からか)われてたし、いけるよね!!


 


 こうしてルーナの地味コーデによる、ステルスモード学園生活が始まった。




 

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