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※前半、王子視点
「……逃げた?」
王宮のルーナがいたはずの部屋の中で、呆れた表情のエリオスが立ち尽くしていた。
執務室で仕事をしていたエリオスの所に従者から〝王太子妃が消えた〟と報告があり、慌てて部屋に訪れていたのだった。
開け放たれた窓から入る風がエリオスの頬をなでて、金色の髪が揺れている。
そばにリリィの部下である影の1人が現れた。
「外の見張りのものが、窓から飛び降りるルーナ様を目撃しております。魔法を使われたのかゆっくりと降り立ち、そこから姿が見えなくなりました」
「……」
エリオスは何とも言えない表情で隣にいるレオンを見た。
「ルーナ様は何でもありだね」
レオンが肩をすくめる。
「リリィが何とか王太子妃様を追いかけております。先程、王太子妃様と同じ馬車に乗り込んだと報告がきました。どうやらマクシミリア領に向かってるようです」
影が続けて報告する。
「エリオス王子、さっそく実家に帰られるようなことをしたの?」
レオンが呆れながら言った。
エリオスは不貞腐れたジト目をレオンに向けた。
「けど、不思議だったんだよね、あの一般市民に半ばなりたがっていたルーナ様がすんなりオーケーするなんて。やっぱり嫌になったのかな?」
「……傷心中の僕に容赦無いね……」
エリオスは思わず軽蔑の眼差しを向けながら、喋り続けた。
「けど、少しだけ嫌がることは想定してたから大丈夫。そのために結果を覆せないように、いろいろ考えて動いたから。もう大々的にパーティで宣言してるんだし」
エリオスはニヤっと笑って「でも逃げるとは考えてなかったけど……」と呟いた。
「ルーナ様も悪い王子に捕まったなぁ」
レオンは苦笑した。
※※ーーーールーナ視点
ルーナが目を覚ますと、マクシミリア領の自室のベットの中にいた。
「あ、起きましたぁ?」
なぜか部屋の中にリリィがいて、ルーナの蔵書を適当に読んでいる途中だった。
「ルーナ様が起きましたよぉ〜」
そう言いながらリリィがパタパタと部屋の外に消えていく。
ルーナはひとまず上半身を起こした。
あれ?荷馬車に乗ったあと、どうしたんだっけ?
ルーナがぼんやり考えていると2歳年上でマクシミリア家の7番目の子供、アンジュお姉様がやってきた。
「ルーナ! ビックリしたんだから!」
足早に来たアンジュお姉様はルーナを抱きしめた。
アンジュお姉様は去年一般市民の幼馴染と結婚して街に住んでいるハズだ。
「アンジュお姉様……お久しぶりです。なぜここに?」
「それは私のセリフよ! なんで荷馬車に乗っていたの?? リリィさんも一緒にいたからビックリしたらしいわよ、フェニスお兄様。私はパパにルーナを見るように呼ばれたの」
アンジュお姉様は両手を腰にあててプンプンしていた。
「ルーナは王太子妃に選ばれたんでしょ? 王宮にいなくていいの??」
そして心配そうにルーナの顔をのぞきこむ。
「そうだった……でも、私本当に選ばれたの? 聞いてないんだけど……」
ルーナはすがるようにアンジュお姉様の深い緑色の瞳を見つめた。
1番誰かに聞きたかったことだ。
「ルーナ様、昨日から様子がおかしいと思っていたのですが、もしかしてぇエリオス様からプロポーズされてオーケーしたの分かってません〜??」
いつの間にか側にいたリリィにそう聞かれた。
「!?!?」
ルーナは目を白黒させながら、考えていた可能性の1つを口にした。
「あのダンス!?」
「昨日ルーナ様はエリオス様から1番にダンスに誘われて、了承して一緒に踊ったんですぅ。でもこの様子だともしかしてぇ……」
リリィは助けをもとめるようにアンジュお姉様を見た。
アンジュお姉様は全てを悟ったのか、リリィの視線にゆっくり頷きかえす。
そしてルーナの方を向き口を開いた。
「ルーナ、落ち着いて聞いてね。パーティ主催者が未婚男性の場合、1番初めのダンスに男性から女性を誘った場合プロポーズを意味するの。女性がそれに答えて一緒に踊るのは、プロポーズをオーケーしたことになるのよ……」
「それって……」
「ルーナが嫌がって勉強しながった淑女教育よ。貴族の世界ではみんな知っているわ」
アンジュお姉様が手を額にあてて深いため息をついた。
ルーナは青ざめながらも、思わずリリィを見た。
「ルーナ様は帝国内の大勢の貴族たちの前で返事をしたことになりますねぇ。その後の挨拶周りもバッチリこなしてましたぁ」
リリィは人差し指を頬にあてて、少し上を見ながらしゃべり続ける。
「その後エリオス様と一夜を共にしてますのでぇ既成事実もバッチリですねぇ。エリオス様の策にハマった? みたいですねぇ」
リリィが少し憐れむようにルーナを見た。
ルーナは頭が真っ白になった。




