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「王宮の料理とお酒はどれも美味しいですねぇ」
エリオス様に連れられて来たのは王族専用の休憩サロンらしかった。
座っている大型ソファの座り心地も驚くほどいい。
緊張してしまうぐらい格式高い部屋なのだが、2人っきりをいいことにルーナは好きなように食べて飲んでいた。
エリオス様オススメのワインはとても美味しく、ついつい飲み過ぎてしまう。
そろそろ辞めないと……とほろ酔い中の頭で一生懸命考えていた。
「これも飲んでみて」
穏やかに笑うエリオス様からスパークリングワインをもらった。
エリオス様はルーナの隣に並んで腰掛けている。
ルーナは、せっかくだから……と飲むことにして、グラスに口をつけた。
「甘い。ジュースみたいですねぇ」
ルーナはニヘラっと笑った。
しばらくエリオス様といつものように談笑していた。
あれ?なんだか体がポカポカする。
フワフワして気分がいい。
酔ったのかなぁ?
「ルーナ」
隣にいるエリオス様に呼ばれてそちらを向く。
「一緒に踊ってくれてありがとう」
エリオス様が熱のこもった目でルーナを見つめた。
そして柔らかく抱きしめられる。
「好きだよ」
耳元でエリオス様の声がする。
「わ、私も好きです」
ずっと言いたかった想いが溢れる。
「本当の姿できちんと言いたかったんだ。やっと言えた」
エリオス様が少し離れてルーナを優しく見つめながら言った。
2人はキスをした。
ルーナはゆっくり押し倒され、ソファの上で仰向けになる。
覆い被さったエリオス様からたくさんキスのシャワーを浴びる。
何でだろう……
エリオス様と触れてる所が全て心地いい。
ルーナは思わず甘い吐息をもらした。
あったかくて優しい、力強い腕の中でいつまでもいたいな……
酔ってフワフワの思考の中、確かにルーナはそう思った。
そして、エリオス様の背中に手を回した。
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次の日の朝、ルーナは無駄に豪華なベッドの上で目を覚ました。
休憩サロンの隣に続きの部屋があり、寝室になっていた。
ぼーっとしながらルーナは上半身を起こしてあたりを見る。
エリオス様の姿は無く、ルーナは部屋に1人だった。
目が覚めて来たルーナの頭に、昨夜の記憶が蘇る。
…………
恥ずかしくて、またベッドに倒れ込み1人身悶えた。
部屋に用意されていたルームウェアを着てルーナが室内をウロウロしていると、物音に気づいた王宮の侍女が数名入ってきた。
「おはようございます。ルーナ様」
恭しく頭を下げられる。
そして朝の支度をしてくれた。
ルーナ用だというドレスが数着並べられ、とりあえず1つを選ぶ。
侍女たちはルーナを磨き上げて、部屋を綺麗にするとまた恭しく礼をして出て行った。
部屋の外には王宮兵が立っており、部屋から出してくれなかった。
ルーナは心臓がバクバクした。
……何この対応?
ルーナは起きた当初、王太子様の一夜のお戯れの相手になってしまった……と思っていた。
周囲の人に気まずいが、どうやって帰ろうかなとも考えていた。
けど今朝食が出され、甲斐甲斐しく従者に世話をされている。
ルーナは考えられる結末に身震いした。
……何が起こっているの??
よし、ひとまずお家に帰ろう!!
ルーナはそれ以上考えることを放棄し、当初の予定通り今日はマクシミリア領に帰ろうと思い立った。
誰か家族でもいいから相談したい。
王宮内は魔法が使えないようになっていた。
魔法を無効化する強い魔法がかけられているからだ。
おそらく王族などに危険が無いようにだろう。
けど外は違う。
ルーナは部屋にある大きな窓を開け放った。
部屋は3階にあり、階下の庭には人の姿は見えなかった。
ルーナは靴を脱いで手に持ち、窓辺に立つ。
「久しぶりだから成功するかな?」
ルーナは古代語を紡ぎ出した。
そして窓からジャンプした。
ふんわり降り立ったルーナは素早く自分の周りに膜を張る。
外側が薄い鏡になっており、遠くからなら庭の景色に紛れられる。
ルーナの編み出した、なんちゃって姿を消す魔法だ。
よく街で飲んだ帰りに変な人に絡まれた時に使う魔法だった。
そして靴をはき、王宮から逃げ出した。
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「あ、まだいた! 良かった」
ルーナは何とかフェニスお兄様たちが泊まっているホテルに辿り着いた。
まだ帰ってないようで、マクシミリア家の紋章が入った馬車が停まっている。
荷造りは終わっており、ちょうどフェニスお兄様たちがホテルから出てきた所だった。
ルーナは馬車の陰にさっと隠れた。
一緒にパーティに行っていたフェニスにはきっとルーナが王宮に泊まって帰ってこない連絡をもらっているハズだ。
でないと心配して探すはず。
どの世界でもお兄ちゃんに朝帰りに会うのは気まずい……
「私たちだけで帰るのは寂しいですね」
フェニスお兄様の従者がそう声をかけていた。
「まったく。ルーナが王太子妃に選ばれるなんて……帰って報告したら父上倒れるんじゃないか?」
フェニスお兄様のヤレヤレというような声が聞こえた。
……やっぱり!
ルーナは心の中で叫んだ。
何がどうなって王太子妃になったのだろう?
ルーナは気が動転して、帰りたい一心でマクシミリア家の荷馬車に荷物にまぎれて乗り込んだ。
「うぅぅ……王太子妃になるなんて聞いてなーい!!」
ルーナは三角座りをし、膝に顔をうずめて小さく叫んだ。
もう、後戻り出来ない事態になってると薄っすら感じながらも、魔法の使いすぎによる睡魔におそわれてルーナは寝てしまった。
馬車は静かに動き出した。




