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マクシミリア領への旅行が終わり、いつものカンデラアカデミーでの生活が過ぎていった。
冷たい風が吹き荒ぶ、季節は冬になっていた。
ルーナが1人で渡り廊下を通っていると声をかけられる。
「ルーナ」
振り向くと最近よく絡んでくるやっかいな人がいた。
Aクラスのジーク様だ。
そう、模擬戦でのテオ様の決勝戦の相手だった。
「今日も可愛いね」
ジーク様が歩き出したルーナの横に並びついてくる。
「ありがとうございます」
ルーナは興味無さげに歩く速度を変えずに前を向いたままだ。
「考えてくれた? テオ・アルザイックなんかやめて僕にしない?」
ジーク様は気にせず喋り続ける。
淡い紫色の髪に黒い瞳の美形だ。
もちろんAクラスなので高位貴族である。
「君たち婚約の約束すら結んでないんだろ?」
そう言われてルーナはピタっと歩くのをやめて止まった。
そしてジーク様を見上げた。
「それ!」
ルーナはジーク様を指さした。
「何も言われないんですけど、どう思います?」
「どうって……学生の内の恋愛とか?」
ジーク様がちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
「……」
ルーナはジトっとした目をジーク様に向けた。
「ちなみにジーク様はシャーロット様やカトリーヌ様の派閥でしょうか?」
「いや、全く違うけど?」
「よし、ちょっとお話ししましょう」
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カンデラアカデミーにあるルーナたちがよく使うサロン。
そこにジーク様とルーナとサッシャとエマがソファに座っていた。
「……?」
ジーク様が困惑している。
「ルーナがまた美形を連れてきたわね」
サッシャがエマにコソコソ喋った。
「今までで1番高位の貴族様だねっ!」
かっこいい貴族ミーハーのエマがテンション高めで喋る。
テーブルにはお酒……では無く、紅茶とお茶菓子が置かれていた。
「今日は私とテオ様の今後をどーしようか問題を議論しようと思います」
目が据わっているルーナがそう言って紅茶を一口飲んだ。
「聞いて欲しいのね」
エマがつぶやく。
「最大のテーマは『何も言われないんですけど』です。付き合おっかというフランクなものもありません。同じ男性としてどう思いますか? ジーク様」
ルーナが手のひらを上にしてジーク様の方に向ける。
発言をどうぞ、のジェスチャーだ。
「さっきも言ったように学生の内の恋愛じゃない?」
ジーク様は足を組みながらソファに深く腰掛け、紅茶を飲もうとしていた。
「どう思う?」
ルーナはサッシャの方を向いた。
「ルーナから付き合いたいとか言えばいいんじゃない? 好きなんでしょ?」
サッシャはお茶菓子の1つであるクッキーをポリポリ食べていた。
「そうなんだけど……例えば一般市民なら付き合ってみて、とっても気が合う人なら結婚しようってなるじゃない? だから、私の希望としては恋人レベルで止まりたいのよね」
「なんで?」
ジーク様が尋ねる。
「結婚はねぇ……好きだけじゃ出来ないんですよ……」
ルーナがうつむく。
「いやいや、この子貴族として生活したくないだけですからね! 早くテオ様と結婚して貴族を続けることに腹を括りなさいよ」
サッシャがルーナを肘でグイグイ押した。
「いやだー!! 好きな時に食べて飲んで遊びたい。腹の探り合いの社交したくない」
ルーナがエマの方に逃げるためにエマに抱きついた。
「発言がダメ人間みたい……」
ルーナを受け止めたエマが言った。
「ちなみにジーク様、高位貴族と結婚すると自由はありますか?」
ルーナが質問した。
「うーん……学生よりは無いかな? 第二夫人ならあるんじゃ無い?」
ジーク様はちょっと困った顔で答えた。
「でも、ルーナも高位貴族だろ?」
「私は卒業後に一般市民になる予定なので。マクシミリア領の8番目の子供なんです」
「あぁ、なるほど」
ジーク様は納得しながらお茶菓子を食べていた。
「じゃぁ一般市民になって、第二夫人として囲ってもらう。が結論じゃない?」
ジーク様が意地悪く言う。
その発言を聞いたサッシャがドン引きしながら呟く。
「うっわ、最低ですね……」
「貴族として一夫多妻は当たり前のことだよ」
ジーク様がムッとして答える。
「まさかの結論が出ましたね」
ルーナはアハハと笑った。
「でも私、ルーナの気持ち分かるなぁ。相手が貴族だと貴族じゃない私と背負ってるものが違うから、自分の気持ちを伝えるのに躊躇しちゃうよね」
エマがポッと頬を染めながら言った。
「なになに? エマに良い人が?」
女の子3人がキャッキャッと色めき立つ。
「うーん、でも相手が誰であっても気持ちを伝えてもらったら嬉しいんじゃない?」
ジーク様がニコッとエマに笑いかけた。
ミーハーなエマがポーっとしている。
「ルーナも何か言ってみたら。それでダメだったら僕にしたら? 何なら第二夫人でもいいよ。いつでも囲ってあげる」
ジーク様が意地悪くニヤッと笑った。
その発言にもドン引きしたサッシャが突っ込む。
「……女の敵……」
「……大丈夫、君みたいな一般市民の女の子は貴族から狙われないから」
少し怒ったジーク様がサッシャに返した。
「でたでた、身分差別。私はこれでも貴族の端くれですー」
サッシャとジーク様が小競り合いを始める。
「……貴族の恋愛難しい……」
2人が騒がしい中、ルーナは頭を抱えた。
ジーク様がこうゆう発想をするなら、テオ様もしてるのかもしれない。
地位とか身分とか貴族特有の価値観だとかややこしい。
「ルーナの1番の希望は?」
エマが聞いてきた。
「……しがらみなく世界を一緒にまわりたいなぁ〜……かっ拐うとか?」
「「やめて」」
サッシャとエマのセリフがかぶる。
「ルーナなら出来そうで怖い」
「犯罪者?」
2人は呆れた顔をしている。
ジーク様は若干引いていた。
「二つ目の結論が〝かっ拐う“かぁ……」
ジーク様の発言にみんなで笑った。




