22
※王子視点
収穫祭もお開きの時間になった。
ルーナは帰るお客様に挨拶しに回った。
マクシミリア領内の貴族向けの高級ホテルを手配しているらしい。
それが終わってからルーナの家であるマクシミリア城に帰ってきた。
今日はみんなと同じお客専用棟でルーナも寝泊まりする。
女の子たちは4人一緒の部屋だった。
「パジャマパーティというものをするんですぅ」
リリィがちょっと興奮気味に言っていた。
パジャマを来て部屋で女の子だけで眠るまでおしゃべりに花を咲かせるらしい。
テオは、影の仕事は……?とも思ったが、ここは安全だしリリィの楽しそうな様子を見て言うのをやめた。
談話室でまだ起きているテオとレオンがソファに座って談笑していた。
酔いもだいぶ覚めていた。
「すごかったね、ルーナ様。収穫祭の企画、運営にも関わって、マクシミリア領を売り込む外交もして」
「あぁ、そうだね」
ルーナの行動力にはいつも驚かせる。
お酒への惜しみない愛と言ってもいいかもしれない。
あんな小さな体であれ程の力がどうして出せるんだろう。
「……どこで学んだんだろ」
ポツリとテオがつぶやく。
「聞くと兄姉の誰かがしてた訳でもなく、全て自己流? 本を読んだりして知識を学んだのか……」
テオは考え込みながら首をかしげた。
「今日僕に出してくれた珍しいお酒……初めて作ったのに、大好きなお酒……? ジェムスパーク領で飲んで好きになったのかもしれないけど、ずっと前から好きだったような雰囲気だった。僕の考えすぎ?」
テオは顔をあげてレオンを見た。
「……」
レオンは何も答えられなかった。
確かにルーナには自分で学んだといっただけでは説明できないような知識があったり、行動をしたりしているという印象もあった。
「あ、まだ起きていたんですね」
そこにお客専用棟の様子を見に来たファーレが顔をのぞかせた。
「ちょうどいい所に。ファーレさん、聞きたいことがあります」
テオはファーレに近くのソファを勧めた。
「……何でしょう?」
ファーレは一瞬だけ顔をこわばらせたがすぐに笑顔を浮かべ、ソファに座った。
「何を警戒しているんですか? 僕たちに」
テオは単刀直入に聞いた。
高位貴族であるテオとレオンに対して、マクシミリア家の一同は警戒している態度をとっていた。
表向きの態度は柔和であったが、時折厳しい眼差しで2人の様子をうかがっていた。
これはルーナに初めて接触しだした時期にサッシャやエマ、そしてルーナがしていた態度に似ている。
それはつまり……
「ルーナの魔法について調べてる……と思われてるんですね?」
テオたちのアテンドに魔法に詳しいファーレを付けたのもそのためだろう。
彼はもう一市民なため、次期マクシミリア領主などが対応するのがふさわしい。
まぁ今回は友達として遊びに来たというフランクな訪問だから絶対というわけでないが。
「そうですね。私たち家族はルーナが国の魔法省に連れていかれて閉じ込められないか心配しています」
観念したのか、ファーレがフゥとため息をつきながら喋り始めた。
「魔法省に?」
レオンが会話に入ってきた。
「はい。あの子は……ルーナはおそらく魔法を自在に作り出すことが出来ます」
ファーレが衝撃的な事実を述べた。
それが本当だとしたら政の高層部が大騒ぎになる。
何か国の発展のために働かされることは間違いないだろう。
例えば戦争とか……
「私たちは末っ子のルーナを家族として、妹として愛しています。ずっと国から隠していたかった……」
ファーレが暗い顔をしてうつむいた。
「誤解されているようですが、僕たちはルーナを何かに利用しようとか思っていません。僕が彼女との結婚を考えているので気になってお聞きしております」
テオがハッキリと言い切った。
ファーレが驚いて顔を上げた。
ちょっと呆れた顔をしたレオンがつぶやく。
「僕、テオ様のそうやって外堀から埋めていこうとするの好きだよ」
テオはレオンの嫌味を無視した。
「こちらです」
しばらく考えていたファーレは決心した顔をして、城の家族の居住棟にあるルーナの自室に連れてきてくれた。
「…………」
扉を開けて中に通されると圧巻の光景だった。
壁一面に古くて分厚い本の数々。
古代語の魔法書だった。
ルーナらしく巻ごとにキチンと整頓されて並んでいた。
違う壁には大きな世界地図が貼られている。
そこにメモやら重要な文章の書類やらが貼られている。
ファーレに促されて中央にある大きな机の引き出しを開けると、小ぶりの本が何冊も並んでいた。
すごく年季が入っているようなボロボロの状態だ。
その内一つを手にとりペラペラめくる。
古代語が走り書きされている。
……探知?……魂……??
テオは古代語の専攻はとっておらず、基礎知識しかないため、すべての文字が読める訳では無かった。
違うページには見たことのない文字。
こんな外国語は知らない。
そして紙が濡れた跡。
ファーレがゆっくりとしゃべり出した。
「ルーナは6歳になると魔法に興味を持って、独学で勉強しはじめました。それがある程度満足すると……何かにあきらめたと言った方がいいのかな、次は世界に目を向け出しました……彼女は無意識に何かを探してるのかもしれません」
「……すごい……古代語に外国語に帝国史に世界史に魔術学……ルーナ様は学園に入学する前からすでに教師レベルだったんじゃぁ……」
レオンが感嘆する。
「テストは少し手を抜いてると言っていたし、ルーナは普段自分で勉強する時間を設けていなかったからな」
テオは納得した。
そして、ルーナが王都に来た目的の半分は美味しい食べ物とお酒って言ってたことも思い出していた。
今なら目的の半分ではなく全部に思えてくる。
「特に妹のルーナにとって古代語の魔法は相性がいいみたいで、どんどん吸収して魔法の本質を自分なりに解釈して好きなように魔法を生み出せます」
ファーレはそう言いながら大きな机の椅子をそっとなでた。
「小さな女の子がこの椅子に座って、沢山の本に囲まれて歌うかのように古代語をつむぐんです。するとあたりの空気が言の葉が舞っているように光り輝く。当時の僕は少し恐ろしさを感じていました。そして気付きました。ルーナはこの世界じゃない知識を持っている」
力強く言い切ったファーレの視線を受け止めてテオは頷いた。
そして、最近感じていた違和感はそれだったのかと納得した。
「僕たち家族は、ルーナを特別な子、神の子だと思っております。この世界じゃない知識を与えられて生まれてきました。神の世界に住んでいて人間の器の中に入った神話の女神様のようなことが起こったのだと」
ファーレはじっとテオを見つめて説明する。
「けどルーナは自然の法則を曲げてまで魔法を駆使するのは嫌っていて、普段の生活ではあまり使用しません」
ファーレが微笑んだ。
「……けど1度使うと極端で、魔法を使うことが楽しいからついはしゃいで威力の強いものを生み出してしまいます」
遠い目をしたファーレが言う。
今までに生み出した何かを思い出しているのだろう。
「それでカンデラアカデミーのロベルト先生がお目付け役ですか」
テオがそう尋ねる
「……」
ファーレがゆっくりとうなずいた。
サッシャとエマも魔術学の時に何かを見てしまったのかもしれない。
「ルーナに護衛を付けていないのも魔法が関係していますか?」
「そこまで勘付いているんですね。そうです。ルーナは自分の好きなように生きるのをこよなく愛していました。危ないからこれもダメ、あれもダメと近くで言われるのが嫌みたいで、護衛をつけてもすぐに魔法で撒かれました。どうしても危ない時はルーナに見えない所からコッソリ見守ることはしましたが」
当時を思い出してファーレは苦笑した。
「それで僕たち家族はルーナを自由に育てました。彼女らしく活き活きとできるように……彼女はいつまでたっても甘えん坊の八姫なんです」
「……」
「だから、本当にあの子と人生を共に歩むつもりなら……どうかルーナを守って下さい」
ファーレがテオに向かって頭を下げた。
「僕が全ての物からルーナを守ります」
ファーレが頭を上げるのを待ってから、相手を見据えてテオが言い切った。
自信満々にいうテオからは威厳あるオーラが出ていた。
ルーナもすごい相手を連れてきたな……とファーレは思いながらどこかひどく安心した。
皆様の応援、ありがとうございます!
とても励みになっております。
次回の更新は明日を予定しております。




