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※王子視点
それからみんなでワインを飲みながら、まったりおしゃべりした。
ルーナは酔わないように控えめに飲んでいた。
たまにメニュー表から頼んだ料理をお店の領民が持って来てくれる。
給仕が忙しいようだ。
その領民がルーナに気付き話しかけた。
「甘えん坊の八姫様じゃないか? 久しぶりだねぇ」
美味しそうなパイ包みを持ってきてくれた女性だった。
「サリーおばさん! もう、小さい時のあだ名で呼ばないで下さいよぉ」
ルーナは照れて赤くなっている。
「アッハッハ! 王都から友達を連れてきてくれたのかい? お友達もぜひマクシミリア領を楽しんでいって下さいね」
女性はパイ包みを頼んだリリィの前に配膳すると、去って行った。
「〝甘えん坊の八姫“って何ですかぁ?」
リリィがパイ包みを食べながら聞く。
「……小さい頃、末っ子だから甘えん坊だったの……だから」
ルーナが照れて少し不機嫌な顔をして説明しだした。
けれど途中で遠くから大声でルーナの名が呼ばれた。
「ルーナぁ!! 始まるよー!!」
遠くからルーナと同じ格好をした女の子が手を振っている。
「あ、はーい!」
ルーナも大きな声で手を振りかえす。
「何が始まるの?」
もうデザートを食べているサッシャが聞いた。
「マクシミリア領の収穫祭で踊る、伝統的なダンスを踊ってくるねー♪」
ルーナは楽しそうに駆け出した。
「あの衣装で踊るの? 際どくない??」
テオは隣のレオンにだけ聞こえる音量でしゃべった。
「あー衣装可愛いよね。誰にも見せたくないのに踊るとなったら心配するよね」
レオンがニヤニヤ笑った。
「テオ様もさぁー 僕に言うんじゃなくてルーナ様にきちんと言葉で伝えてよー だいたい……」
レオンの話しが続く。
レオンは酔うと説教する絡み酒タイプだった。
テオは聞かないことにした。
メインステージの楽団が演奏していた曲を止める。
その周りに領民たちが集まった。
一呼吸をおいて、テンポの速い曲が始まる。
男性と女性が対になりながら踊る。
収穫祭。
実り大き収穫に対して神に感謝を伝える祭。
人々は楽しげに手を打ってクルクルまわる。
テオ達が見てても分からないが男女の対が入れ替わるタイミングがあるらしく、さまざまな人が一緒になって笑い合って踊っていた。
ジャンプして回って手を組んで……
「なかなか激しい踊りね……」
サッシャが呟いた。
現に踊りで酔いが回ったのか、数名が脱落している。
「マクシミリア領の人、タフだね」
エマも驚いていた。
チラチラと見える銀髪は、脱落することなく踊り続けていた。
しばらくすると、音楽のジャン♪という音と共に踊りが終わった。
辺りが拍手で包まれる。
すると、踊っていた男性や近くで見ていた男性たちが、黄色い花を女性に渡し出した。
不思議に思って見ていると、リリィがみんなに向けて喋り出した。
「マクシミリア領に来る前に調べたんですけどぉ、1番踊りが上手だった女の子に黄色い花を送るのがルールらしいですぅ。女の子は要らないとは言えないそう。素敵な出会いになるので、他領からも人が来るそうですよぉ」
リリィがお酒を飲みながらしゃべる。
「なるほど。踊りが上手だったと言いながら、好きな人に渡すのね」
サッシャが感心しながら、遠くで求愛を始めた男女を見つめた。
「ただいまぁ」
ルーナが編み込んだ髪に黄色い花をいっぱいつけて帰ってきた。
「領主の娘なのに花が少なかったら威厳が保てないだろって、友達がくれるんですよね」
社交辞令で付けられたって笑いながらテオの隣に座った。
「ルーナ様、相変わらずモテモテですねぇ」
リリィが思わずというように呟いた。
ちょうどテオ様の方に流した髪があるので、テオ様は黄色い花を摘んでは捨てた。
「ちょっと、何するんですか!?」
「なんかゴミが付いてたから」
全て外し終わったテオ様はしれっと答えた。
「もー、みんなが付けてくれたのに……」
ルーナは不貞腐れながらも給仕にお酒を頼んだ。
「さぁ、ダンスは終わったんで思う存分飲むぞー!!」
ルーナはお酒が入ったグラスを高くかかげた。
みんなもほろ酔いなのでノリに合わせてグラスをかかげる。
しばらくすると、サッシャとエマが気になった露店があるというので、ルーナ案内のもと女の子3人は席を外した。
ソファには委員会の3人が残る。
「テオ様、今日は大人しいですよねぇ。さっきだって危ないからってルーナ様に付いていきそうなのにぃ」
リリィがそう言いながら、小さな砂糖菓子をポイっと口に放り込む。
「……マクシミリア領の収穫祭では揉め事になった時に行う酒飲み対決があるらしいんだ。お祭りだからってわざとその対決を挑んできたりするらしい」
ほろ酔いのテオは遠い目をしつつも薄っすら微笑みながらしゃべる。
「酒飲み対決?」
飲もうとしていたワインが入ったグラスを掲げたままのレオンが尋ねた。
「……さっきルーナが踊っていた踊り、あれの男女が入れ替わるまでが1回分として、お互いお酒を飲んで1回踊ってまた飲んで踊って……と繰り返して倒れた方が負けらしい」
テオがレオンの方を向いて真剣な表情で言った。
「……えげつない……」
レオンがドン引きした表情を浮かべる。
テオも以前ニコニコ顔のルーナから聞いた時は青ざめた。
「……うん。僕、絶対吐く自信あるねー」
酔ってるテオが笑顔で言う。
そして「負け戦はしない!」とキリっとした表情で宣言した。
レオンも「絡まれないようにここで大人しくしておこう……」と呟いている。
「まぁ、私の部下が要所要所で見張っているので危なくは無いですがぁ……」
テオの護衛として常に一定の距離を保って王族の影が守ってくれている。
今回は旅行メンバーにも対象を広げるように指示をしていた。
「ルーナ様ならその対決、圧勝しそうですねぇ」
楽しそうに報告してきそうなルーナを想像して3人がフフっと笑う。
お酒を飲んで普段よりゆったり寛いでいる幼馴染3人の姿がそこにあった。
たまにはこんな時間を過ごすのも悪くはないな。
テオは穏やかに微笑みながら思った。
笑い声と楽しい音楽、柔らかい光の中、静かに夜が更けていった。




