14:秋麗祭
「もう少しで秋麗祭ですね」
ルーナとテオ様は、早朝ランニング後に落ち合っているいつものベンチに並んで座って、いつものようにおしゃべりしていた。
秋麗祭とは、カンデラアカデミーの体育祭みたいなもので、神話にあるポルンフォスの戦いになぞらえて、最終学年である3年生の男の子たちが剣術を競いあう。
夜には戦いで敗れた魂を鎮魂したのにちなんで、沢山のランプに光を灯す。
「テオ様は楽しみですか?」
ルーナが隣のテオ様の顔を覗きこむために、前かがみになる。
ポニーテールが元気よく跳ねた。
「そうだね。剣術には自信があるから、模擬戦頑張ろうかな」
珍しくテオ様はやる気を出していた。
「毎朝鍛錬してますもんね」
「応援してね」
「もちろん」
2人は笑い合った。
そんな2人の様子を影から見守っているリリィが、思わずつぶやいた。
「全然、進展ないですねぇ……」
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「最近、テオ様とどうなの〜?」
いつものサロンでサッシャとエマとルーナの3人で女子トークしていた。
「相変わらず飲みに行ってるよ」
ルーナがサッシャの質問に返事をする。
「いやいや、そーゆー事ではなく……2人は付き合ってるの?」
エマが呆れた視線をなげかけている。
「噂があるだけで付き合ってないよぉ」
ルーナがブンブンと顔を振って否定する。
「でもテオ様、どう見てもルーナの事好きでしょ?」
「そうそう、このサロンに居る時はいつもルーナにくっついて他の男の子を威嚇してるし」
サッシャとエマがうんうんと頷く。
「えーそうだと嬉しいけど〜…………この気持ちをどこに持っていけばいいか分からない」
ルーナがいきなり突っ伏した。
「??」
サッシャとエマが困惑した表情を浮かべる。
突っ伏したままルーナがうめいた。
「気付いてる、気付いてるよぉ。そして私も飲み友として、とても好きだよ」
「……飲み友……あくまでお酒関係が優先なのね」
エマが引き気味でつぶやいた。
「けど相手は侯爵様、気軽に付き合うとかオーケーなのかな? 結婚に繋がってしまうのでは??」
ルーナは青い顔を持ち上げて、サッシャとエマを見た。
「別にルーナも貴族なんだから、結婚してもいいんじゃない?」
「私に貴族社会は無理だと思います!」
ルーナはサッシャに答えた。
「……いろんな意味で難しいかもね……」
サッシャが遠い目で答える。
「それに、海外を飛び回る夢も無くなる……」
ルーナはガックリ肩を落とした。
「あぁ、なるほどね。侯爵様の仕事のサポートになるものね」
エマが答えた。
そのほか、いろいろウジウジ言っているルーナを見ながら、エマとサッシャはコソっと喋った。
「でも、ちょっと結婚を考えるほどには好きなんだね」
「盛り上がってる所悪いんだけど……」
ルーナたち3人がいる机に、同じクラスの男の子のシモンがやってきた。
「ルーナに相談があるんだ」
「??」
そこでルーナたちは、シモンのために追加の席を用意した。
「今度の秋麗祭の模擬戦で、どーしても婚約者のルクアにいい所見せたくって……良い成績を残したいんだ。何か秘策ない?」
シモンが頼む!って感じで両手を合わせた。
「うーん……いい所を見せたい理由は?」
ルーナは首をかしげた。
「ルクアはBクラスで成績も優秀なんだ。婚約者として1つぐらいはカッコいい所見せたいだろ?」
シモンがちょっと照れながら言った。
「それと最近ギスギスしちゃってて、元に戻れるようなキッカケが欲しいんだ」
シモンは弱々しく笑った。
「秘策かぁ……あるにはあるけど……」
ルーナは少し上を見て考えている。
「本当か? ぜひお願いします!」
シモンは再び両手を合わせた。
「てことでテオ様、朝の鍛錬にシモンを参加させることは出来ませんか?」
「……まぁそーゆーことなら良いけど」
サロンにテオ様とレオン様を呼び出した。
テオ様は、シモンを引き連れて話し出した時は不機嫌だったが、聞き終えると納得したのかオーケーしてくれた。
「テオのしごきは厳しいよ」
レオンが心配そうにシモンに言った。
「俺から頼んだことなんで、頑張ります!」
シモンが元気よく答えた。
そうして強化練習は始まった。
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「わぁ! 練習頑張ってるなぁ!」
早朝、ルーナはいつものランニングコースを変えて、剣術の鍛錬場を見に来た。
テオ様とレオン様とシモンがいる。
横でシモンの友人たちが見学していた。
テオ様は得意と言うように剣術が強かった。
いつものあのアンニュイさとは違い、軽やかな身のこなし、力強い剣のふり、そしてちょっとキリッとした表情。
カッコいい!!
テオ様も見ているルーナに気付いた。
「頑張ってるねぇ!」
ルーナが手をふりふりする。
するとテオ様がズカズカとルーナの方に歩いてきた。
何かちょっと怒ってる??
ルーナはちょっと身構えた。
「そんな可愛い格好で、人目につく所に来ちゃダメ。いつもの森を走って」
テオ様が森の方を指差した。
ルーナは普段の学校生活では、メガネにゆるい三つ編みという目立たない格好なのに、走る時はメガネを取ってポニーテールにしていた。
「は、はーい……」
ルーナは頬を染めながら素直に従った。
戻っていくルーナの後ろ姿を見て、テオ様が安心してポツリと呟いた。
「ルーナにグッとくる層が増えてしまうとこだった」




