12:ライスワイン
※まず王子視点
「エリオス様……エリオス様」
王宮の自室の中でスヤスヤ寝ていたテオは、扉の向こうからの声で目が覚めた。
エリオスはテオの本名だ。
「うーん……何?」
テオは上半身だけむくっと起き上がった。
眠くてまだ瞼は開いてない。
確か昨日は勉強会の打ち上げで……
そんなことを考えながら時計を見た。
まだ薄暗い早朝だ。
今日から少し長めの休日だった。
朝練後のルーナとの密会も無い。
もう少し寝ていたいんだけど……
テオがそんなことを思っていると、扉の向こうから返事があった。
「リリィから伝言を預かりました」
リリィの伝言を預かるってことは王族の影の1人だ。
テオは少し身構えた。
「言って」
「はい。ルーナ様が外国へ旅立たれたようです。男性2名に連れられて。1名は緑の瞳をしており、ルーナ様の兄弟かもと予想しております。独断でルーナ様についていって定期報告をします。とあります」
「…………分かった。ありがとう」
テオの返事を聞くと影の気配が扉の向こうから消えた。
「外国……? 元気すぎじゃない??」
テオはまたベッドに倒れ込んだ。
※※ーーーールーナ視点
ルーナが船の甲板から陸地を見て叫んだ。
「ポーネ国だぁ!!」
「……遠かった……」
後ろで若干ぐったりしているソイルお兄様がいた。
マクシミリア家6番目の子供で、5歳上のお兄様だ。
今回の旅行はルーナ1人では危なすぎるので、パパが一緒に行くように促してくれた。
それと私たち2人の護衛のジョージ。
ソイルお兄様と同い年で、剣の腕前も確かな逞しい男性だ。
「待っててね! ライスワイン!!」
ルーナは目をキラキラと輝かせた。
以前サッシャに教えてもらった〝東の国にルーナが探しているお酒があるかも“っていう情報から、ルーナはめちゃくちゃ調べ回った。
そしてポーネ国のジェムスパーク領が名産地だと突き止めた。
そこで今回の旅行は、ジェムスパーク領のライスワイン工房を訪問させてもらうのが目的だった。
まずはジェムスパーク領の領主様に挨拶をしにいった。
すると、ライスワイン工房を案内してくれるという領主様のご子息ライト様が連れていってくれることになった。
ライト様は黒髪に紫の瞳で、褐色の肌をしていた。
年は私より2歳上らしい。
「ルーナ様、工房内は危ないのでお手をどうぞ」
ライト様はとても紳士的で、エスコートもスマートに申し出てくれる。
「ありがとうございます」
ルーナもそれに素直に応じた。
ふふふっ♪ ライスワイン〜♪
ルーナは浮かれていた。
工房では、工房長が優しく丁寧に工程などを教えてくれた。
ルーナはそれを必死に手帳にメモをする。
説明が終わると、工房で作っているライスワインの紹介だった。
もちろん試飲をさせてくれた。
ルーナはニコニコ笑顔でライスワインを飲んだ。
「あー美味しい!」
懐かしい日本酒の味だ。
ソイルお兄様もいろいろ試飲しているので、気に入ったのだろう。
「僕のおすすめはこれです」
ライト様が甘口のライスワインをすすめてくれた。
「飲みやすくて美味しいですねぇ」
ルーナは美味しさにホウッとため息をついた。
「ふふ。ルーナ様は本当に美味しそうにお酒を飲みますね。可愛らしい」
ライト様がニコっと笑いながら褒めてくれた。
「ありがとうございます」
社交辞令だと思っているルーナもほほえみ返す。
ライト様はキリッとした顔立ちで、エキゾチックなタンザナイトのような濃い紫の瞳だ。
鍛えているのかガッチリした体付きで男らしい。
目の保養だなー。
ルーナはライスワインを飲みながらそう思った。
※※ーーーー王子視点
王宮のテオの執務室の扉がゆっくりと開き、レオンが入ってきた。
「……おはよう」
レオンは不機嫌さマックスだった。
「休日にごめん」
テオは素直に謝った。
ルーナが旅立ってから1日経つと、リリィから定期的に報告書が届くようになった。
ルーナはポーネ国という東の国にいるらしい。
レオンがソファに腰を下ろした。
「で、僕は何で呼ばれたの?」
従者が2人に紅茶を配膳し、礼をして部屋を出て行った。
部屋には2人だけになった。
テオもレオンの向かいのソファに腰を下ろす。
「ルーナがおとといからポーネ国に旅立ったんだ」
「ポーネ国?」
レオンが首を傾げる。
「東にある国だ」
そう言いながら、テオはリリィからの報告書の束をレオンに渡した。
「どれどれ……」
レオンがリリィの報告書に目を通した。
◯月×日
ルーナ様はライスワインというお酒を求めて、ポーネ国に向かうらしいです。
同行者はルーナ様のお兄様であるソイル様と、護衛のかっこいい男性。
この護衛の男性、絶対ルーナ様のことが気になってますね。
船の甲板でよろけるルーナ様を、よく抱き留めて助けています。
◯月×日
ポーネ国につきました。
ジェムスパーク領のライスワイン工房を訪ねる段取りになってました。
領主の息子であるライト様が、ルーナ様たちを工房に案内してくれます。
ライト様は年上の超美形です。
この方もルーナ様のことが気になってるようで、どこへ行くにもピッタリ側をくっついていますね。
ルーナ様のことを可愛いとか綺麗だねとか、ベタ褒めしています。
ルーナ様も満更では無い様子……では無く、ライスワインに夢中です。
◯月×日
今日はジェムスパーク領の観光地に案内してくれるようです。
昨日に引き続き、ライト様がルーナ様のエスコートをしています。
ライト様は策士ですねぇ、しっかり男性向けのスポットと女性向けのスポットを紹介して、興味を示したソイル様に別行動を提案して、ちゃっかりルーナ様と2人で行動してました。
デートですね。デート。
2人とも美男美女で絵になりますね。
夜はライスワインの美味しいご飯屋さんで、皆さんでディナーですね。
ここでもライト様は、ルーナ様の隣でお酒をルーナ様にたくさん勧めています。
ルーナ様はソイル様がいるからか、遠慮無くガブガブ飲んでますね。
ライト様はルーナ様を酔い潰す気でしょうか。
でも残念、ライト様の方が先に潰れましたねぇ。
ルーナ様とソイル様はその後も楽しく飲んでいました。
◯月×日
今日は皆さん遅めの起床です。
昨日夜遅くまで飲んでましたからねぇ。
ジェムスパーク領の外れにある、ライスワインの原料であるライス畑を見に行きました。
ちょうどライスの実がなっており、黄金色でとても綺麗です。
そこでライト様からのプロポーズです。
ロケーションバッチリです。
ルーナ様は何か考えこんでおられますね。
そして返事をしたんですが、残念!強風が吹いて私の所からは聞こえませんでした。
2、3会話してから連れ立って帰りました。
どうなることやら。
報告書を読み終わって顔をあげたレオンとテオの目線があう。
それから目線を逸らし、遠い目をしたテオが喋った。
「それはリリィの妄想日記?」
「いやぁ……ちょっと盛ってるかもしれないけど……一応報告書じゃない?」
レオンが歯切れが悪そうに言った。
「リリィは旅行気分で、テンション上がってるんじゃないかな?」
レオンがさらにフォローする。
「うーん……じゃぁ事実?? ……はぁ」
テオがソファに沈み込む。
「……次の報告書が来るまで、今日はここにいたらどうかな?」
意気消沈気味の主君が、側近に支持を出した。
「え!? 僕、立ち会わなきゃいけない?」
レオンの表情が引きつった。




