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※王子視点
カンデラアカデミーのとある一室。
いつものメンバー3人が集まっていた。
ソファに座っているテオとレオンに、リリィが紅茶を配りながら声をかける。
「勉強会終わりましたねぇ、お疲れ様でしたぁ」
机の上にはたくさんのお茶菓子が。
勉強会のお礼にと、教えてもらった生徒たちがそれぞれで持ってきたものだった。
それを先生役だった3人で分けた。
レオンがそのお茶菓子の一つに手を伸ばしながらしゃべった。
「試験2日前からは無いみたいで良かったね。本格的な追い込みを各自でするみたい」
リリィもソファに座りながら会話に加わった。
「みんな熱心でしたねぇ。レオン様を見に来ることが、目的の女の子とかいませんでしたよねぇ」
レオンに教えてもらいたくて来る子はいても、勉強をせずに、レオンとおしゃべりするような子はいなかった。
「それなのにぃ、っふふ。テオ様は暇さえあればルーナ様にベッタリでぇ、サッシャさんとエマさんからカゲで『ルーナの番犬』と呼ばれてましたよぉ。ふふふふっ」
リリィが笑いを抑えきれずにしゃべる。
「そんなに好きなら、候補者をルーナ様に確定する?」
レオンが笑いながら「番犬様?」とつけ加えた。
リリィが大声で笑い出した。
失礼な態度のリリィとレオンをジト目で見ながらテオは喋った。
「……うーん、ルーナとは一緒にいたいなって思うけど、それだけじゃ王太子妃には選べないからなぁ。ルーナは貴族らしくないから、貴族の中でやり合っていけるのか……」
そう言ってお茶菓子を一つ選んで頬張った。
「……ものすごくやり合っていけそうですけどねぇ。ルーナ様」
リリィがレオンに言った。
「確かにルーナ様は貴族特有の腹芸は苦手そうだけど、争いごとが嫌なだけで、立ち回りは上手そうだけどね」
レオンがお茶菓子を一つ食べ終えて紅茶を飲みながら答えた。
そしてレオンとリリィは主君を残念そうな目でそろって見た。
「優柔不断だね」
「ですねぇ」
「そのうち誰かに取られないといいですねぇ」
リリィがしみじみと言った。
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期末試験も無事に終わり、いつものサロンで勉強会参加者で打ち上げパーティを行っていた。
「終わったー!! お疲れ様ー!!」
ルーナがグラスを高々と掲げた。
周りのみんなもそれにあわせて、赤紫色の飲み物が入ったグラスをあげる。
ワインに見える飲み物は、マクシミリア領特産の葡萄ジュースだった。
ルーナからみんなへの差し入れだった。
食べ物はみんなで持ち寄っている。
飲みながら立って談笑していたり、ソファでゆっくり過ごしていたり、みんな試験を乗り切ったお互いを讃えながらまったりしていた。
もちろんテオとレオンも参加していた。
サッシャたちと談笑していたテオが、ふと気づいて言った。
「あれ? ルーナは??」
サッシャと数名の女の子はお互い顔を見合わせながら、一斉にサロンの隅を指さした。
そこにはガラス越しの外の景色に向かってソファに座っている2人の頭が見えた。
髪色から1人はルーナだと分かった。
ーーーーーー
テオはルーナたちが座っているソファに近づき、ひょこっと覗きこんだ。
「何してるの?」
ルーナと一緒にいたのはリンス先生だった。
2人は見つかったとお互いバツが悪そうに見合わせている。
その様子にテオが怪訝そうな顔をする。
「?? お酒飲んでる?」
ルーナの頬が少しだけ上気していた。
テオはルーナの隣に座るために、寄って寄ってと手を振ってジェスチャーした。
リンス先生とルーナは素直に席を寄る。
「いや、このソファに3人は狭いんですけどー」
ちょっと出来上がっている奥のリンス先生から、苦情が聞こえた。
テオはそれを無視してルーナからグラスをひょいと取り上げ、中身を確かめるために一口飲んだ。
「やっぱりワインじゃん。何学園で飲んでるの」
テオは、ルーナとついでにリンス先生をジト目で見た。
「これはマクシミリア領の特別な葡萄ジュースです」
ちょっとムスッとしたルーナが、グラスを取り返してゴクリとワインを飲んだ。
「あ、ダメだって」
またテオがグラスをひょいと取り返す。
「こっちを飲みなよ」
テオが自分が持っていた葡萄ジュースを差し出す。
「君は何かい? ルーナのお父さんか!?」
奥のリンス先生から再び苦情が入った。
「先生も、職務中に飲酒していいんですかー?」
ムッとしてテオも嫌味を返す。
「私は勤務時間外だが、生徒たちがパーティをしたいと届け出を出した時に引率を頼まれましたー。それにサロンは別にお酒の持ち込み禁止はしてませんー」
そこにサッシャが加わった。
「校則の隙間をルーナがついたのよね」
サッシャは、いつのまにかテオたちのソファの後ろの机に陣取っていた。
その机にはエマとレオンもいて見事に見物客と化していた。
すると、ルーナがテオに向かって喋った。
「テオ様、だからワイン返して下さい。いつも勉強会の打ち上げは、リンス先生に引率してもらって、この席で飲んでるんですよ」
自分のワインを取り返そうと、ルーナはグラスを見つめたままだ。
ルーナの発言を聞いたリンス先生が目を見開いた。
「テオ……あー! 君か! 私がルーナと飲みに行きたかったのに、前に先約で入ってたやつは!」
テオを指さして、リンス先生が叫んだ。
「今日は私が先約だから、ルーナと飲ませてもらうよ。ねぇー。ルーナぁ」
酔っ払いがルーナに抱きついた。
リンス先生の態度に、ドン引きしたテオが思わず呟く。
「……先生、酔いすぎじゃぁ……ってルーナ、何してるの?」
そして、隣のルーナに目線をうつして驚いた。
「……エヘヘ」
ルーナはテオから押し付けられた葡萄ジュースを飲み干し、新たにワインをグラスについでいた。
そして何事も無かったようにリンス先生に抱きつかれても飲んでいる。
「……まったく、あんまり酔わないでね」
結局テオがおれた。
「……今度3人で飲みに行きましょうか?」
ルーナが嬉しそうにニコニコ笑いながら言った。
「「行かない!!」」
テオとリンス先生の声がそろった。
ルーナはアハハと笑いながらワインを飲んだ。
後ろで見ていたレオンがエマとサッシャにコソッと聞いた。
「ルーナ様はリンス先生と仲良いけど……勉強会後のパーティの時は、いつもあんな感じで2人で飲んでるの?」
エマもコソコソっと喋った。
「いつも2人ですね……リンス先生、酔ってもうちょっとすると、泣き上戸になるんですよ」
サッシャもコソコソと続ける。
「新米教師なんで、悩み事も多いみたいです。それをルーナは聞いて励ましてあげてて……」
「それは……どっちが先生か分からないね」
レオンが想像して苦笑した。
エマも苦笑しながら返した。
「リンス先生、普段はさっぱりしたしゃべり方でとっつきにくいけど、ここで泣いて悩んでいる姿を見たら可愛い先生なんだなーって」
「そうそう、声をかけやすくなるよねー」
サッシャとエマがクスクス笑った。
そしてエマが言い切った。
「そんなリンス先生の相手は大変だから、誰も一緒に飲もうとはしませんよ」
言ってるあいだに、リンス先生が泣き上戸になってきたらしい。
「ルーナぁ。勉強会をしていた生徒たちが、リンス先生よりルーナの教え方の方が、分かりやすいって言ってたんだけどぉ」
ルーナは自分の肩の上で突っ伏しているリンス先生の頭を撫でてあげている。
周りのみんなはいつもの事だという感じで、誰もリンス先生を気にして無かった。
リンス先生の行動に嫉妬したのか、テオがルーナの腕を引っ張って自分の方に引き寄せ、リンス先生からちょっとでも離そうとしていた。
「ルーナ様、大変だなぁ……」
レオンの呟きにサッシャとエマもウンウンと頷いていた。




