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仲良くなってきたルーナとテオ様は、学園内でばったり会うと、そこら辺の椅子に座っておしゃべりをしたりするようになった。
「次は何の授業なんですか?」
三つ編みメガネのステルスモードのルーナが、テオ様に質問した。
「今日はもう授業は無いよ」
長めの黒髪に、メガネスタイルのテオ様が答えた。
伏し目がちな視線で今日もアンニュイだ。
テオ様のメガネの奥に、くっきり二重にバッサバサのまつ毛がよく見えた。
たまにまつ毛が扇みたいで、瞬いたら風がおきそうとルーナはぼんやり考えてしまう。
テオ様とよく2人でいたり、2人で出掛けているのを、どこかで見られたらしく、恋人同士だと噂されていることをルーナは知っていた。
でもその噂のおかげで、王太子狙いのシャーロット様やカトリーヌ様から、ますます興味を失われることに気付いたのだ!
…………
テオ様は誤解ある噂は嫌かもしれないけど、私にとってはありがたいのでこのままにさせていただきます。
ルーナは心の中でそんなことを思っていた。
そんな訳で、ルーナにとって学園生活から少しだけ窮屈さがなくなった。
「あ! いたいた」
サッシャとエマが、少し慌てながら現れた。
サッシャがテオ様に気付くと会釈しながら喋りだした。
「こんな所に。テオ様、ルーナを借りていきますよ」
「なになに?」
ルーナは驚いてイスから立ち上がった。
「なになにって、今日から勉強会でしょ? 肝心のルーナがいないから」
エマがルーナの右腕をガッチリ捕まえた。
「サロンでみんなが待ってるよ」
サッシャがルーナの左腕を捕まえた。
そして無理矢理連れて行こうとした。
ルーナは青ざめながら慌てて口を開く。
「ま、待って! 勉強会の人数増えすぎて、最近大変なんだよね。私だけじゃフォローしきれないよ」
「ルーナなら大丈夫じゃない? 今日はBクラスの人もちょっとだけ来てるよ。Cクラスの子が友達のBクラスの子を呼んだみたい。ほら、友達の輪が広がるよ。張り切っていこー」
サッシャがそう言って強引に歩き出そうとする。
「待って待って、そんな人数ムリムリ。あ、テオ様! 今日はもう授業無いんですよね!?」
ルーナが〝助けて〟という目でテオ様を見た。
エマとサッシャもそれに続いて、テオ様を見る。
「……無いけど、何が始まるの?」
3人のドタバタにもう慣れたのか、テオ様は苦笑しながらも穏やかに返事をした。
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「テオ様助かりました! レオン様まで呼んで下さり、本当にありがとうございます」
ルーナがペコペコお辞儀をした。
「いいよ。人に教えるのも勉強になるからね」
テオ様が必死にお礼を言うルーナに、優しく微笑んでくれた。
ここは前にもテオ様たちを連れてきたことがあるサロン。
もう少しで期末テストがあり、CクラスとBクラスの希望者が集まって勉強をしていた。
最初はルーナに教えて欲しいという、エマとサッシャのために開かれていた勉強会だったが、回を追うごとに私も!私も!っと人数が増えてしまっていた。
先生役が足りないため、テオ様とレオン様にも入ってもらったのだ。
今は休憩中のテオ様が、ルーナの横に座っていた。
レオン様は、あの女の子の人だかりに埋もれているのかな?
ルーナはチラリと女の子たちの群がっている集まりを見た。
テオ様はどこかの机のグループに、呼ばれれば行くスタイルで、ルーナは座っている机で教えているスタイルだった。
「あのー、ここが分からないんだけど……」
Cクラスの女の子2人が、古代語のテキストをルーナの机に持ってきた。
「どれどれ?」
ルーナはそのテキストを覗き込んだ。
「ここの文法ね? 確かに難しいし覚えにくいよね。どうぞ椅子に座って?」
女の子2人は静かに席についた。
「魔術学の話になって悪いんだけど、魔術学の中にある古代語の魔法の詠唱は、全て大事な人に向けての祈りなんだ」
女の子たちはへぇーと聞いていた。
テオ様も知らなかったなぁという感じで横で聞いている。
古代語の魔法は廃れており、そこから派生した現代魔術が主に使われるからだ。
現代魔術は、簡素化され詠唱など要らない分、威力が弱い物が多い。
魔法を使う必要が無くなってきたからだった。
「〝君を守る風になろう〟 」
ルーナが人差し指を振りながら、古代語を唱え魔法をかけるジェスチャーをした。
するとフワッと風がおこった気がした。
「これが防御の詠唱。古代語で書くとこうだよ」
ルーナが、女の子のテキストに断りを入れてから、文章を書いた。
「ここにその文法が使われていて、この言葉を補う役目があるの。大事な人を守るための祈りの言葉って聞くと、素敵じゃない? 私はこの文章と一緒に覚えちゃった」
「本当だ! 分かりやすいし覚えやすい!」
女の子たちはお礼を言って去っていった。
「……ねぇねぇ」
テオ様がルーナの肩をちょんちょんと触った。
「??」
呼ばれたルーナはテオ様の方を見た。
「僕に薄っすら防御魔法がかかってるっぽいんだけど……」
「……気のせいじゃ無いですか?」
ルーナが頬を赤くしてそっぽを向いた。
「魔法は使えないけど、かけられたことは何度かあるから分かるんだよ」
テオ様が意地悪そうに笑っているのが、顔を向けていなくてもルーナには分かった。
「何だっけ? 大事な人に向けての祈りの言葉だっけ??」
「……たまたま近くにいた人に、かかったりするんじゃないですか? 魔法って」
ルーナが照れて不貞腐れながらモゴモゴ言った。
その時、いつの間にか机の前まで来ていたサッシャが、無表情で開けたテキストをルーナの机にバシッと置いた。
「はい、イチャイチャしないで、勉強教えて下さいねー」
ルーナはまた先生役を再開した。
テオ様もしばらくすると、教えるために呼ばれていく。
そうしてこの日の勉強会は無事に終了した。
けれど、成績上位者であるルーナ、テオ、レオンの勉強会の噂は広がっていき、B、Cクラスの希望者が増えて、3人は結局先生役から抜け出せなくなったのだった。




