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ユニット始動!①






 トップアイドル宣言から、30分後。

 私たちはルームシェア中のマンションに戻って来ていた。



「それにしても、さっきのマネージャーには笑ったなぁ!」


 カヅキは私の顔を見て、先程の一件を思い出したのか、堪え切れずゲラゲラとお腹を抱えて笑い出した。



「っもう! カヅキくん、そんなに笑わないで!」


 私自身も、大胆にも先輩と現トップアイドルに食ってかかった自分を思い出し、かあっと顔に熱が集まる。



「マネージャー、かっこよかった⋯⋯」



「まあ、人間にしては度胸あんじゃん」



 真剣な顔で褒めてくれるチユキに対し、あれからしばらく経つというのに、未だに涙目で笑い続けるカヅキを見てジトリと睨む。

 しかし、私の恨めしげな視線にも、彼はどこ吹く風であった。



「まあ、過ぎた事は気にしない、気にしない! 人は失敗から学んで成長するのよ!」



「人間って⋯⋯すごい⋯⋯」


「うへえ⋯⋯理解できねー」




「⋯⋯それはそうと、カヅキくんにお兄さんがいるって聞いて私、びっくりしちゃった。カヅキくんってしっかりしてるから勝手に一人っ子かお兄さんかと思ってたよ」


 私が花房さんの話題を振ると、カヅキは先程までの笑顔から途端にむっつりと不機嫌な顔になる。



 ——あれ⋯⋯もしかして私、カヅキくんの地雷踏んじゃった!?


 私が失言にオロオロとしていると、彼はぼそりと言った。



「⋯⋯っ⋯⋯な」


「え?」


「だから! アイツとオレが似てなくて悪かったなって言ったんだよ!」



「え!? わ、私が言いたかったのはそういう事じゃなくて⋯⋯それに、私は花房さんよりもカヅキくんの方がキラキラしててかっこいいなーって思うよ! あっ、でも、カヅキくんのお兄さんなのに失礼だよね! ごめんなさい⋯⋯!」



「⋯⋯⋯⋯は?」


 私の言葉を聞いて、カヅキはキョトンとした後、じわじわと頬を染める。

 そして、照れていることを隠すように、態とらしく乱暴に吐き捨てるように言った。



「はあ? オマエ、見る目無いんじゃねーの!? バーカバーカ!」



「あはは、バカって⋯⋯。私は思った事を言っただけなんだけどなあ⋯⋯」


「うん⋯⋯カヅキは、かっこいい⋯⋯」


「チユキまでバカな事言うな!」


 カヅキは褒められ慣れていないのか、林檎のように真っ赤な顔で私とチユキに反論してきた。



 ——カヅキくんってちょっと怖い子だと思ってたけど、意外とかわいいのかも。




「もちろん、チユキくんもかっこいいよ! 2人ともすごーくイケメンだからね! 自信持って!」


「うん⋯⋯ありがと⋯⋯⋯⋯」



「っ⋯⋯それはそうと! トップアイドルになるって啖呵切ったはいいけど、具体的に何すんだ?」


 カヅキは、部屋中に漂う生暖かい空気に耐え切れなくなったのか、不意に声を荒げて言った。




「あ、そうだった! さっき2人の初仕事に関する資料貰ったんだった!」



 実は先程、秘書の座敷わらしさん(彼女は座敷わらしのイメージが覆る程のナイスバディの女性であった)からあやかしの事について説明を受けた時に、一緒に渡されたのだった。



「おいおい、そんな大事な事忘れんなよ。大丈夫かよ、このマネージャー⋯⋯」


「心配しないで! 実は私、アイドルにはちょっと詳しいの!」


「ふーん⋯⋯。で、オレらの初仕事は何なんだよ?」



「えーっと⋯⋯」


 そう言って、私は手元の資料を確認する。

 そして、およそ無名の新人アイドルに来るオファーとは思えない仕事内容に目を見張った。



「ええっ!!!?」


「あ? なんだよ、勿体ぶらないで早く言えよ」


「うん⋯⋯気になる⋯⋯」



「あ、ごめん! えっとね⋯⋯」



 そこに書かれていたのは、女子中高生に大人気のプチプラブランド、“Snow✳︎drops”とのタイアップとそれに伴ってのCMと広告撮影、さらには、帝国テレビのゴールデンタイムに放送されている人気番組、サウンドステーション——通称Sステへの出演依頼であった。



「はああああ!?」


「すごい⋯⋯盛りだくさん、だね」



「うんっ! ちょっとびっくりしたけど、こんなに大きな仕事を任せてもらえるって、私たち期待されてるって事だよね! でも、だからこそ失敗は絶対に許されない。全力で2人をサポートするよっ!」



「ホントに大丈夫かよ⋯⋯。つーか、この仕事いつやるんだ?」



「あ⋯⋯そうだった、大事なことだよね!」


 カヅキの問いに、私は再び資料に目を落とす。

 そこには、無茶振り社長からの仕事らしく、無茶苦茶なスケジュールが組まれており、あまりの衝撃に頭が真っ白になった。



「⋯⋯⋯⋯」


「マネージャー? ⋯⋯どうしたの?」



「あはは⋯⋯。ち、因みに2人は今までレッスン経験ってある⋯⋯?」


「ねーよ。んなモン」


「俺も、無い⋯⋯⋯⋯引きこもり、だったから」



 2人の言葉を聞いて、乾いた笑いが止まらなかった。瞳にはじわりと涙が滲む。



「あはははは⋯⋯⋯⋯さ、3週間後⋯⋯かな?」




「「!?」」







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