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無茶振り社長に直談判!①









 ぺちぺちと、誰かが頬を叩く衝撃で目を開ける。



「やっと起きたか、マネージャー」


 すると、目の前にはドアップのカヅキがいて、私の顔を覗き込んでいた。そんな彼の瞳は血の様な赤色から、元のピンク色へと戻っていた。



「きっ、きゃあああああ!!!!」



 カヅキの顔を見ると、噛み付かれた光景を思い出してしまい、思わず後退って、絶叫してしまう。



 ——い、今すぐ此処から逃げないと2人に殺されちゃう!




 がばりと飛び起き、カヅキに背を向け走ろうとするも、彼に首根っこを掴まれてしまい一向に前に進めない。



「いっ⋯⋯いやーー!! は、離してっ!」



「おいおい、オレは命の恩人だぞ? 落ち着けって、マネージャー」



「命の恩人!? どこがよっ! ひっ⋯⋯人の首に噛み付いて来たくせに⋯⋯!」



「仕方ねーじゃん。腹減ってたんだから。⋯⋯それにしても、せっかくこのオレが優しくしてやったつーのに逃げやがって⋯⋯!」


 カヅキはそう言って舌打ちをし、ガシガシと頭を掻いた。

 私に対して怒りを隠す様子の無い彼は、昨日チユキと喧嘩していた時のように荒っぽい口調で横暴な態度になっていた。

 もしかして、こっちがカヅキの素なのだろうか。



 そして、そんな彼の陰から、しゅんと肩を落とし、落ち込んでいるチユキが現れた。


「マネージャー⋯⋯さっきは、ごめんなさい⋯⋯⋯⋯」


 チユキも、先程とは打って変わり意識もはっきりとしていて、今は落ち着きを取り戻しているようであった。


 そんな彼を指差し、カヅキが口を開く。


「コイツはオレよりも危険なんだからな。オレが止めなかったら死んでたんだぞ、マネージャー」



「っ!?」


 衝撃の事実を聞き、恐怖でブルブルと身体が震えた。しかし、何とか自身を奮い立たせ、声を絞り出す。


「ど、どういう事!? ⋯⋯それに、貴方たちは何者なの⋯⋯?」



「は? 何者って⋯⋯社長から聞いてないのか?」


 私の言葉に、カヅキは心底拍子抜けだという顔をする。チユキも、無表情ながらも驚いている事が伝わって来た。



「!? 聞いてないっ!」




「あー⋯⋯⋯⋯。そういう事か。納得ずくで来てるのかと思ったら⋯⋯だからあんなに抵抗されたんだな」


 私の返答に、カヅキはふるふると頭を振り、深くため息を吐いた。



「⋯⋯マネージャー。⋯⋯⋯⋯驚くかもしれないが、オレ達は人間じゃない」



 私は、唐突で、しかも非現実的な彼の言葉にあんぐりと口を開いた。




「オレは吸血鬼で、」


「俺は雪女 ⋯⋯」




「オレ達は “あやかし ”だ」







✳︎







「社長っ! 一体どういう事ですか⋯⋯!」



 私への理不尽な仕打ちに対する怒りの矛先は、カヅキとチユキの2人から、社長へと変わっていた。


 普段なら彼らが人間じゃない、しかも昔話に出てくるようなあやかしだなんて信じないが、この目で見てしまったのだから、納得するしか無かった。




 鼻息荒く、カヅキとチユキの2人を連れて、社長室に乗り込んだ私に、彼は驚く様子も無くにんまりと笑って言った。


「ゆめちゃん、どうしたの? そんなに怖い顔してたらかわいい顔が台無しよ」



「社長! 私に何か言ってない事、ありますよね!?」


 バンっとデスクに勢いよく手を付き、彼に迫る。しかし、社長は怯む事なく、私の首筋の跡を見るなりにんまりと笑い、口を開いた。



「あらあら、左右に噛み跡と鬱血痕が⋯⋯ 2人とも随分と手が早いわね」



「ええ、おかげさまで! 社長から何も聞かされていなかった私は、危なくこの2人に殺されるところでした!」


「あら、そんな事があったのね⋯⋯。その事は本当にごめんなさい⋯⋯。でも、本当の事を言っていたら、貴女は引き受けてくれなかったでしょう?」



「そんなの当たり前です! 昨日も言いましたが、やっぱり私にはこの2人は手に負えません! しかもあやかしって! 絶対に無理です!」


「あらぁ、どうしましょう⋯⋯困ったわね。⋯⋯ほら、貴方たちもゆめちゃんを説得しなさい。そうしないと彼女、出て行っちゃうわよ」



「はあ? なんでオレが⋯⋯。そもそも、社長がコイツに伝えなかったのが原因だろうが!」


「⋯⋯それでも、マネージャーを傷付けたのは、俺たち⋯⋯」



 被害者は私だと言うのに、それ以上に傷付いているチユキの姿を見て、まるで私が意地悪しているみたいな罪悪感から胸が締め付けられた。



 ——いやいや、絆されちゃダメだ! 見た目では分からないけれど、この2人は私とは違う。⋯⋯人間じゃない、あやかしなんだから!







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